エピローグ
「・・・何かついてくるんだけど」
「そうだね」
いつものボーイッシュな私服で原宿を流す真琴と橋場。
どちらも「イマドキの若者」が遊びに行く歓楽街にどっぷりというタイプではないのだが、今日は何となくの流れになった。
「・・・」
二人の背後を幽霊みたいな佇まいで、漆黒のセーラー服の女の子が付いてくる。
真っ赤なスカーフは勿論のこと、長い髪には黄色いカチューシャがハマり、革のカバンまで両手に持っている。
実はこれ、来葉龍である。
あの屈辱の対戦からもう身を引いたと思われていたのだが、今度は「弟子にしてください」という名目で訪ねてきた。
なるほど上手いこと考えるものだなあ・・・と橋場は呆れた。
真琴もそれに折れたらしく「その代り条件がある」とやった。
「デートしてあげてもいいけど、女の子の姿ならね。まあ、その日のスパーリングで一本でも取れたらそれは無し」
惨い条件だ。真琴は下手すると世界でも屈指のファイターだ。当然「跳ね返し」の特殊能力を使わない状態の来葉なんぞ目をつぶっていても勝てるだろう。
スパーリング中、遂に真琴は一回だけ来葉を「和装」・・・振袖姿・・・にすらしてのけた。
なんでも「メタモル能力の方向を曲げる」コツを一瞬掴んだらしい。
これって特殊能力じゃなかったのか・・・?と思った。
で、これである。
「まさか本当に条件を飲むなんてな」
「まあ・・・でもこれであたしの貞操は大丈夫でしょ?」
「・・・」
例え屈強なアメフト部員どころか海兵隊一〇人に襲われても何の問題も無いであろう真琴が言うと白々しいことこの上ない。
「いいから!一緒に並んで歩こうよ」
「あっ!」
ぐい!とセーラー服の手首を引っ張る真琴。
流石にこんな格好で雑踏を歩かされるのは恥ずかしいらしくもじもじしている来葉。
硬派も形無しだ。
それこそ「単に女装させられている」のとはわけが違うのである。
余りにも日常的にやりとりしているもんだから忘れそうになっているが、メタモル能力を食らっているってことは身体が本当に女になっているということなのだ。
男の身体のままならば「スカートがすーすーする」くらいで済むんだが、その脆弱なパンティ一枚の下にあるのは正真正銘の女性器なのである。
それこそ「なんちゃって女装」だったら決してそこまではしないであろう「下着」類も「能力による『女子高生化』」である以上、必然的に「完備」である。
外からは見えないので本来は下着まで女物にしなくても外見上女には見える。
パンティやブラジャーはある程度機能性を考えて必要だとしても、スリップや上着の裏地などは「それらしく見せる」ためには何の意味も無い。
哀れなメタモル能力の犠牲者に、無駄に官能的な肌触りの刺激を叩きつけるだけである。
「はい!両手に華~!」
「・・・」
一応、「現時点での生物学的な現象」としてはそうだとは言えるが・・・。
「じゃあ、約束なんで来葉たんとこれから二人っきりでデートしてくるね」
「え・・・」
「大丈夫だよ。女同士だし」
何か納得いかない気もするが・・・まあ真琴なら一個小隊が襲ってきても何とかするだろう。
結局この日はここで別れた。
実際、何の心配もいらなかった。真琴が女子高生となった来葉と最初に交わしたセリフが
「あたしイマドキの女子高生のこと良く分かんないんだけど、・・・どこに行ったりするもんなの?」
だったことからも察されよう。当の現役女子高生にそんなこと言われたらどうしていいか分からない。
原宿で天使みたいに可愛らしく髪の長い女の子と、キツそうな女の子の二人組とすれ違ったりしつつ「デート」を楽しんだということだった。
結局、「(不肖の)弟子」という変則的な形ではあれ、「仲間」が増えた・・・ってことになるんだろうか。
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