黒野伊織の場合 その2
第一節
「寄るな!寄るんじゃねえ!」
伊織の目が血走っている。息も荒く、危険な雰囲気だ。
「伊織ちゃん・・・落ち着いて。落ち着くのよ」
皇さんが努めて優しく声を掛ける・・・が届いているかどうか。
「カップル仲良くて結構だなあ!あぁ!」
「・・・」
瑛子が恐ろしい顔で群尾を羽交い絞めにしている伊織を睨んでいる。
「バカなことやめなさい伊織ちゃん!仲間割れしてどうするのよ」
「うるせえ!」
地の底から響く様に瑛子が声を押し出した。
「そのガキに手ぇ出したらタダじゃおかねえぞ・・・」
不敵な表情になる伊織。
「自分の立場わきまえろションベンたれが!『離してくださいお願いします』だろうが!」
「伊織ちゃん!!」
群尾と瑛子がアイコンタクトする。
群尾は奇妙に落ち着いている様に見える。何を考えているのか。
「へ・・・どうせこのオタクくせえ野郎は自分がメスガキになったところ想像してイタしてんだろうが!」
勝手な決めつけも甚だしい。
「普通の人間がこんなとことに来たこと呪いな!女同士になって乳繰りあってろ!」
何やら気合を入れる伊織。
「やめてえええ!!!」これは皇。
空気が凍った。
「・・・何だよ。なんで変わらねえんだ!」
このリアクションを見る限り、どうやら皇さんは、「メタモルファイターは、訓練を積むことで『危機感を感じて、防衛反応として』でなく非メタモルファイターを変身させられる」ということを知っていたらしい。
「・・・悪りぃな。その攻撃パターンは想定済みなんだわ」
「・・・」
今度は伊織が睨み返す番だった。
「そいつ(群尾)にはもうあたしの能力が掛けてあんだよ」
「はぁ!?」
怪訝な表情の皇。彼女にも予想出来なかったらしい。
「適当ほざくんじゃねえ!」
「実際、アンタの能力効かねえじゃねえか」
確かに非メタモルファイターがメタモルファイターの能力を受ければたちまちその「能力」固有の姿に変身してしまうはずだ。
黒野伊織であれば「妙齢の大人の女性、セクシーなライダースーツ」姿になるはずなのである。
「だからさ。変わるのは一〇〇年後だよ」
「っ!!」
確かに変身の様子はある程度融通が利く。
それを実質的に無限と同じ程度先に設定しておけばいいのだ。一度メタモル能力を受けて変身した同じ非メタモルファイターには、重ねて掛けることは出来ない。一生に一度だけ有効なのだ。
リアクションとして表に出す訳にはいかないが、皇は「なるほど」と思った。これは使えると。
「じゃあ解除しろ」
羽交い絞めを続けたまま伊織は言った。
この間、群尾は全く抵抗するそぶりも見せないが、これは正解だ。
馬鹿力を持つメタモルファイターに「隙を突いて」加撃などありえない。
「できねーよ」
「出来んだよバカが!一旦発動すれば止める手段はねえが、まだ起こってないならキャンセル出来んだ!そんなことも知らねえのか!」
これは知らなかった。
一体どういうシチュエーションでそれを知ることになったのか全く分からないが、本当なら新事実である。
「ふん・・・お前、今優位に立ったと思っただろ?」
ドス黒い笑みを浮かべる伊織。美人が台無しである。
次の瞬間、『ゴキッ!』という嫌な音がした。
「ぐああああーーーっ!!」
群尾がうめき声を上げる。
「たあくん!」
「群尾くん!」
歯を食いしばって痛みに耐えているらしい群尾。
「はーっはっはっは!大袈裟に騒ぐんじゃねえよ!肩を脱臼させただけだ!」
「テメエ・・・」
「おっと動くなよ・・・。分かるよな?こちとらもうお前らをレズらせられなくてもいいや。あたしらの力なら普通の人間の首なんぞあっという間にネジ切れる。この意味分かるな?」
男を女にすることにはもうこだわらず、明確に殺すと言っているのだ。
「・・・やってみろよ。次の瞬間、テメエの首も飛ばしてやる」
ゴキゴキと指を鳴らす瑛子。まるで格闘アクション漫画のキャラクターだ。
「それは一般人相手に言うんだな。メタモルファイター同士がガチでやりあったらテメエもタダじゃ済まねえぞ」
ビリビリと空気が振動するかの様な緊張感が走る。
「黒野さん」
遂に群尾が口を開いた。
「説得なら受けねえぞ」
群尾の顔も見ないで言う。最も、背後から羽交い絞めにしているので見たくても見られないのだが。
「黒野さんは、僕が女の子になればいいんですよね?」
「あぁ!?」
瑛子が首を振る。
「たあくん黙りな。喋らないで」
腕を首に回して持ち上げる様に締め上げる伊織。
「っ!!!」
一気に首が締まり、押しつぶした様な空気が漏れる。
「格好付けてんじゃねえぞこのヘンタイが・・・」
ダン!と強く床を踏みしめる瑛子。
「それ以上力を入れてみろ・・・マジで殺すぞ」
「へっ・・・強がり言う割には一歩も動けねえじゃねえか。こりゃいいオモチャを手に入れたぜえ」
『ゴキッ!』という音が再び響いた。
「ぐあああああっ!」
どうやらもう一方の肩も外されたらしい。
「・・・」
獰猛な猫科の獣の様に瑛子の毛が逆立った。怒りも臨界点を超えると瑛子は何も喋らなくなる。
「黒野・・・さん」
激痛であろうにこらえながら言う群尾。
「いいですよ。受け入れます」
「たあくん黙って」
「でも、お願いがあります」
しばし沈黙。
「冥途の土産に一度聞いてやる。言ってみな」
両手をぶらんとさせて羽交い絞めにされている群尾。
「なるならせめて瑛子さんの能力を食らいたいです」
しばし沈黙。
「へっ!やっぱりロリコンオタク野郎じゃねえか。セクシーなライダースーツよりも制服の方が可愛くていいか?あ?」
「・・・」
「駄目だね」
「そんな・・・」
「お前らの考えてることはお見通しだ。メタモルファイターによって変えられた人間は、変えたメタモルファイターのコントロールを受ける。あたしに変えられたんじゃ、あたしに意のままに操られるからだろ?」
どうやら見抜かれていたらしい。
「・・・しかしまあ、こんな不細工の何処がいいんだか知らねえが、愛する彼氏が女になっちまうんならそれで勘弁してやらあ。おい!一〇〇年後に変身を解除しろや」
「ふざけんな」
「肩の次は首を外すぞ?物理的にな」
黒野の手が群尾の首に掛かった。もしもやるんなら一瞬だろう。
「・・・」
「伊織ちゃん考え直しなさい。今ならまだ間に合う」
「間に合う訳あるか!ここまでのことやらかして無罪放免ならこんな組織クソだろうが!」
覚悟の上ということか。
「・・・」
瑛子は脂汗を流しながら仁王立ちしている。先ほどの戦闘でついた傷や破れた制服の一部が痛々しい。
「・・・できない」
「そうか・・・じゃあお別れを言いな」
沈黙が訪れた。この場にいる人間の荒い息遣いしか響いていない。
「瑛子さん・・・」
「解除したらすぐに女にしろ」
「・・・触る必要があんだろうが」
「解除ったって遅らせる処置の解除だ。能力自体が無効になる訳じゃねえよ。すぐに発動するだけだ。モノを知らねえなお前は」
それは皇すら知らなかったことだ。一女子高生だった沢尻瑛子が知る訳が無い。
「・・・できない」
くっくっくと笑い始める黒野。
「はーっはっはははははっは!!!これだよ。これが見たかったんだよ!」
もう正気を失った様な笑い方だった。
「お前らも愛する男を失う悲しさを味わいやがれや。あたしにばっかりそんな運命なんて不公平だろうが!」
理屈がムチャクチャだ。気持ちとして理解は出来るが、被害に遭う側にしてみれば理不尽極まりない。
「殺すだけが能じゃねえんだぞ?お前が飛び掛かって来るまで死なねえ程度に四肢を引き千切るってのもありだわなあ・・・。むしろ殺すよりキツいぜこれは・・・」
瑛子が唇を噛み過ぎて血が流れてきた。
「瑛子さん・・・もういい。もういいよ」
キツく握りしめた拳からも血が流れ始めた。
「たあくん・・・ゴメン・・・」
満足げに「にやり」と笑みを浮かべる伊織。
「悪いが最後に一発も無しだ。これからは仲良く乳繰りあえや」
何かを感じる群尾。瑛子の「時間指定」が解除されたのだろうか。
次の瞬間だった。
「どん!」と強く背中を押された。
「うわああっ!」
両手の衝撃が痛みとなって全身を貫く。
「あああ!!!ああああああーーーっ!!」
「たあくん!」
伊織はまだ羽交い絞めを離そうとしない。
「いい知らせだ。実はコントロール解除すればいいってのはウソだ」
「はぁ!?」
「お前が一〇〇年後変身を解除した段階で、こいつはメタモル能力から逃れられたのさ」
「伊織ちゃん!」
・・・ということは・・・。
「そうさ。こいつはあたしの能力で女になるんだよ!操り放題さ!」
「そんな!」
何故か外されていた両肩が嵌っていることに気付く群尾。
「うっ・・・あああああっ!」
胸に感じたことの無い違和感が突き上げる。
これまでの人生で役に立ったことが無い乳首を中心に、内側から何かが盛り上がってくる様だった。
「あ・・・あああっ!」
「たあくん!そんな!そんなぁああ!!」
むりむりっ!と一瞬で形成された乳房を中心に、群尾の身体は抵抗虚しく忽ちの内に女の肉体へと変形していった。
「ぁ・・・あ・・・」
ぐぐぐ・・・とガニ股が内股になり、その脚は艶かしい・・・というには若干筋肉質ながら、それでも男性にはありえないプロポーションとなっていく。
「ぉ・・・おおお・・・」
ウェストが見る見るうちにくびれていき、思春期の男の子にありがちな荒れた肌も美しくなる。髪の毛はウェーブが掛かって背中を越えて先端は腰にまで到達するほど長く伸びた。
余りのショックにその場にへたり込む群尾。
当然、お尻を直接地面につけ、膝から先を外側に広げた「とんび座り」「女座り」とされる座り方だ。
「あ・・・」
目をぱちくりさせている。
その場にいたのは、顔の小さな、それでいて瞳の大きな目の覚めるような・・・いや息をのむほどの美少女だった。
発育のいい肉体をセクシーなライダースーツに包んでいる。
この能力の被害者は「元の姿」の面影を残している場合もあるが、群尾は全くかけ離れた美少女となっていた。
次の瞬間、瑛子のパンチが伊織の顔面にめり込んでいた。
本懐を遂げた伊織はすっかり油断し、弾丸のごとき勢いで飛んでくるそれを避けきれなかったのだ。
第二節
瑛子がベッド脇で泣いていた。
こんな姿を他人に晒すのはいつ以来だろうか。
憔悴しきった皇もまた、顔に跡が残るほど涙を流した後だった。
ベッドには病人が着るゆるいパジャマに着替えさせられた美少女・・・群尾の変わり果てた姿・・・が仰向けに寝かされている。
今は寝ているらしい。
「本当に・・・ゴメン・・・」
「・・・」
瑛子は何も答えられなかった。
ここで激昂して皇を絞め殺せば群尾が元に戻るのならば迷いなくそうしただろう。
黒野伊織は現在、気絶したところを押さえられ、薬物投与によって強制的に眠らされているという。
例えゴジラが中にいたとしても脱出されないと豪語する「対メタモルファイター」専用拘置施設に収監されている・・・らしいが実際はどんなもんなんだか。
瑛子は頭の中がくらんくらんと回っていた。
これから・・・これから一体どうしたらいいんだろう。
自分は女の子は可愛いとは思うけど恋愛対象じゃない。
それよりも、これまでふっ飛ばして来たチンピラやレイプ魔たちが女になって困ろうが知ったことじゃないけど、群尾は一体どうすればいいんだろう。
まだ会ったことないけど、群尾の両親にこれを説明しなきゃいけないんだろうか?
でも信じてもらえる?そんな馬鹿な。
一生を狂わせてしまった・・・。
どうやら皇が何か言っているみたいだが、全く耳に入ってこない。
「・・・ん・・・」
布団の中の美少女が動いた。目が覚めたらしい。
「群尾・・・くん?」
「・・・?」
周囲を見渡し、そして皇と瑛子の姿を確認する群尾。ぱちぱちさせている目が可愛い。
「・・・えいこ・・・さん?」
「・・・たあくん・・・」
たちまち顔がくしゃくしゃになり、また泣き出す瑛子。
「大丈夫?群尾くん?」
「すめらぎ・・・さん」
「あなた、今の状況分かる?」
「・・・起きて・・・いいですか?」
皇が助けながら上半身を起こす。余りにも長く大量の髪は縛って纏めて身体の前に垂らしている。
「あはは・・・こんな感じの夢を見てたんですけど・・・現実だったみたいですね」
可愛らしい声である。
「群尾くん・・・」
「触ってもいいです?」
といって、自分の胸を指さす。
「・・・あなたのよ」
両手でパジャマの上から軽く触ってみる群尾。見た目はアイドルや女優も顔負けの美貌だ。
「こりゃ大きいや。ブラジャーの仕方教わらないと」
といって笑顔を見せる。
「群尾くん・・・あの・・・」
「大丈夫です・・・って本当に声も高いんだ。へー」
まるで他人事みたいだった。
「瑛子さんの体質を知った時から覚悟はしてました。はい」
強がりなのか、笑顔で続ける群尾。
「・・・そんなに落ち込まないでください。こっちも辛くなります」
「・・・たあくん・・・」
「瑛子さん・・・ごめんね」
「・・・何でお前が謝ってんだ・・・」
ニコッとする群尾。美しい。
「そういう口調が出るなら安心です」
「・・・慰めにならないとは思うけど・・・組織で可能な限り援助はするから」
「ありがとうございます。これから色々大変だと思うんで」
男が女になれば社会的に色々大変だ。書類だのID変更だの。
「大丈夫だって瑛子さん。人類の半分はこれで日々何とかしてるんだからさ」
「・・・そうだけど・・・」
「皇さん、早速トイレの仕方教えて欲しいんですけど」
ドギマギする皇。
「えっと・・・男の子が大きい方をする感じでいいんじゃない?あ、でも女の子は小さい方も紙を使うからね」
「そうか・・・暫くはクセで男子トイレに入っちゃうかも」
陽気なコメディならここで笑いも起きるんだろうが、空気は重苦しく沈んだままだ。
「瑛子さん・・・これでもう「女の子にされる」危険性は感じなくて大丈夫になったから。ね!」
見た目も声も何もかも違っているが、イントネーションが間違いなく群尾だった。
「いやーその・・・一度女子の制服着てみたかったんですよー!あはははは!」
ある程度は本音なのかもしれないが(?)、明らかに必死に場を和ませようとしている強がりだった。もう「一度着る」どころか卒業までは着続けることになるのだ。
「そうね・・・あなたのところの制服も経費で買うから」
「・・・瑛子さん?」
「・・・何だよ」
「・・・ハグして」
女神みたいな笑顔で言う。
こいつ・・・女に生まれてたら相当「たらし」になっていただろう。って今は女か。
「何でだよ。女同士で・・・」
「瑛子ちゃん、寧ろ女の子同士ならハグくらい普通にしない?」
クラスメートの女子たちがそういう「濃厚なスキンシップ」をカジュアルにやっているのを目撃したことはあるが・・・瑛子は余りそういう軟派なことはしない方だ。
「わーったよ」
椅子から立ち上がる瑛子。新品の制服と言う訳にはいかなかったらしく、まだあちこちほつれている。
「よ・・・と」
ダブダブのパジャマが可愛らしい変わり果てた姿の群尾がベッドの脇に降り立つ。
その仕草はまるで女の子の様に決まっていた。
普段の何気ない仕草がここまで女の子っぽくなってるんなら、矯正訓練とかは余り必要ないのかもね・・・と皇は思った。
「お前・・・縮んだな」
「そうかな」
身長だけは瑛子よりわずかに高いところだけは男性的だった群尾だったが、今は瑛子より少し低いくらいになっている。
「じゃあこれからもよろしく!」
「お、おう」
むぎゅっ!とハグした。
瑛子は物凄く長い髪の毛の束に驚いていた。
背中をぽんぽんしていた群尾の手がやがて背中をさすり始める。
「・・・おい、くすぐったいからさ」
「んーもうちょっと」
声が可愛い。
そしてその手は、短いスカートのお尻をさすり始めた。
「おい!やめねえかこんなところで!このスケベが!」
慌ててパジャマ姿の美少女を引き剥がす瑛子。
「・・・?」
部屋の全員が目を疑った。
第三節
「・・・つまりどういうことかな?群尾くんの推理は?」
皇が椅子に座った状態で言う。
「えーとですね・・・」
結論から言うと、群尾の身体は完全に男に戻っていた。
「もしかしてたあくんもメタモルファイターだったってこと?」
「いや、多分それは無いと思う」
声も完全に男に戻っている。
「でも、これで「覚醒」するってこともあるんじゃない?」
「多くのメタモルファイターって「危機を感じて」覚醒するもんでしょ?今日くらいのピンチなんて無いのに「覚醒」しなかったってことは・・・僕はメタモルファイターじゃないと思います」
瑛子がふて腐れている。嬉しいことは嬉しいんだろうが、随分「醜態を晒した」と思っているのだろう。
「瑛子さん、ファイトしましょう」
「はぁ?」
「一応返事下さい」
「・・・ああ」
そう言って同じくベッド脇のパイプ椅子に腰かけている瑛子の手を取る。・・・が、当然何も起こらない。
「ね?」
「『ね?』じゃねえよ。だから何なんだよ」
「あたしの推理いいかな?」
皇が手を上げた。
「群尾くんはメタモルファイターじゃないと思う。けど、普通の人間でもないわ」
「・・・」
皇が息を吸い込んだ。
「非常に珍しいことだし、あたしも見るのは初めてだから断定は出来ないんだけど・・・」
「勿体付けてねえでさっさと言えよ」
瑛子の口が悪いのも復活してきたみたいだ。
「普通の人間はメタモル能力を食らえば一生戻れないわ。メタモル能力持ちは、戻れる。ということは・・・」
二人が注目する。
「群尾くんは、メタモル能力は持たないけど、『メタモル能力を受けても元に戻ることだけは出来る』特異体質なんじゃないかしら」
しばし沈黙。
「・・・はぁあ!?」
「・・・僕の推理も同じです」
「そうなの?」
「ぶっちゃけメタモル能力なんてまだまだ分からないことだらけです。メタモルファイターだって元に戻れるなんて言われてますが、戻れなくなった人だっているって話だし」
「でも・・・そんな都合のいいことって・・・」
「都合よく無いよ!僕だってそんな体質があるんだったらメタモル能力の方も欲しかったってば!」
皇は「群尾が能力を持ったならばどんな衣装だろう?」などと考えていた。
「まあ、つまりたあくんはあの(自粛)オンナの被害から完全に回復したってことでいいのね?」
顔を見合わせる三人。
「ま、そういうことになるわね」皇。
安堵して肩を落とす瑛子。
「はぁ・・・良かった・・・」
さりげなく瑛子の手を握る群尾。さっきまでと同じパジャマ姿だったが、今はジャガイモみたいな男の子である。見た目は眉目秀麗とは言い難いが、中々いい男だな・・・と皇は思った。
「群尾くん・・・責任者が結果的に責任を免れた直後にこんなこと言うのはなんだけど・・・」
「はい」
「今のもあくまで仮説に過ぎないわ。あなたなら心配いらないとは思うけど、くれぐれも『どうせ戻れる』なんて過信しないでね?」
「そりゃもう」
何故か胸を張る群尾。
「それこそ、『今回の一回きりだけ奇跡的に戻れた』って可能性だってあるんだから。『戻ることだけは出来る体質』じゃなくてね」
「はい」
皇が改まった。
「その上で聞くけど・・・この仕事、続けてもらえるかな?」
「あんた・・・今それ言う?」・・・と瑛子が言いそうになるのに被せる様に群尾が言った。
「もちろん!」
第四節
「・・・」
瑛子がぶすくれている。
「あのさあ、すめらぎさんに言われたよね?能力を過信するんじゃないって」
目の覚める様な美少女がその場でくるりと一回転し、短いチェック柄のプリーツスカートがふわりと広がって舞い上がった・・・が、勿論下着が見えたりはしない。
「ん?」
ぱっちりとした瞳が可愛らしい目の覚めるような美少女である。
目鼻立ちはクッキリしているが、人を威圧するようなキリッした顔立ちの瑛子と違い、たれ目気味でほんわかした「癒し系」の美少女だった。
腰まである長いウェーブの掛かった髪が特徴的だ。
問題があるとすれば、これが瑛子のボーイフレンドの変身した姿だということだ。
「いや・・・そうだけど、実験くらいしておきたいじゃん(いじいじ)」
可愛らしい女の子の声だ。瑛子のメタモル能力を受けたからには当然スタイルは女子高生の制服になる。
「実験って・・・だから戻れなくなったらどうすんだって」
「その時はその時。他のメタモルファイターならともかく、瑛子さんの能力なら確定しちゃっても本望だよ」
とか言ってこいつ、女子になってみたいだけなんじゃねえの?と瑛子は思った。
「ここから先、この体質を有効活用しなくちゃならない場面が出て来るかも知れないでしょ?それこそ絶体絶命のピンチの時とか」
「・・・どんな時だよ」
「それは分からないけど・・・」
「分からねえのかよ!」
結論から言うと、群尾の『メタモル能力は持たないが、メタモル能力を受けても元に戻ること「だけ」は出来る』のは完全に群尾の「体質」だった。
渋る瑛子を説得して、何度も「変身」した。
一回だけ、一緒に原宿を流したこともある。
「・・・なんでお前ばっかり声かけられるんだよ」
「ん~なんでかな~(ニコニコ)」
最初の内は「すーすーする」とか「こんなに短いスカート恥ずかしい」とか言ってたクセに何だか笑顔が板についてやがる・・・と瑛子は思った。
少なくとも、街中でこんなに密着して手を「恋人つなぎ」で歩くことは男女の状態だと逆に難しいという皮肉。
正直、たまに余りの可愛らしさにはっとして胸がドキドキしたりする。こちらは女なのに。
とりあえず、瑛子は群尾に「女になった状態」で「着替える」ことだけは頑なにさせなかった。
能力を解除して戻した瞬間「女装男」になる(着替えた後の服は戻らないため)ということもあったが、「女になって女物を着る」行為が何か「一線を越える」気がしていたからだ。
ともかく、なんと瑛子ではなくて群尾の方に新しい事実が発覚した一連の出来事だった。
*沢尻瑛子 メタモル・ファイト戦績 〇勝一敗二引き分け 性転換(変身)回数三回
*群尾卓也 *メタモルファイターではないので戦績は無し 性転換(変身)回数一〇回




