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来葉龍の場合 その3 01


第一節


 目の前で妙齢の美女がぶすくれている。

 ここは「メタモル・カフェ」である。


「・・・まあ、そういう訳でご協力をお願いしたいんです」


「あたしってケンちゃんに随分便利に呼び出されてるわよね」


 目の前でミルクレープを頬張る。呉福妹うー・ふーめい。中華レストランのオーナーにして珍しい女性メタモルファイターだ。

 二十代も半ば以上を過ぎているはずなのだが、精神的には子供っぽく見えるところもある。


「なのでケーキをおごっていますが」


「あたし水商売だからお金はあんのよね」


 日本暮らしも長いため、日本語はイントネーションまで含めてもほぼ日本人だ。


「ま、ともあれお願いしますよ」

「あたしとファイトしてくれるなら考えるわ」

「ボクがですか?」

「うんそー。可愛い彼女ともプレイの幅が広がるんじゃない?」


 許可も得ずにテーブルの隣に座っていた斎賀の手を触る。


「・・・」


 何も起こらない。


「あなたを呼ぶのに防御しないで呼んだりしませんよ」

「なーんだ。つまんないのー」

「でも、ファイトの申し出なら受けますよ。今日は無理なんでまた後日に」


 少し離れたところで武林がイライラしていた。

 少し前にウーの能力で女にされた上、チャイナドレス姿にされて目一杯スカートをめくられていたからだ。

 脇の下まで達しそうな大胆なスリットのお蔭で「前垂れ・後ろ垂れ」も同然のチャイナドレスのスカートはかなり大胆な動きが出来る。

 無論、ウーの方も今風の女子高生スタイルにされたのだが、生まれつきの女が可愛い制服を着せられたとて、生まれつきの男が女の身体に性転換された上、チャイナドレス姿でスカートめくられるほどのダメージは無いだろう。


 ずずず・・・とストローでメロンソーダを飲みほしたところの真琴。


「そこの男の子みたいな彼女は初めてね。あなたもそうなの?」

「まーいちおー」


 『そうなの?』というのは「メタモルファイター」というか「メタモル能力持ち」という意味の問いだ。

 能力使い同士はよほど鈍くない限りは自然と分かってしまうものだが、一応確認というところだった。


「へー」


 紅茶を軽く煽るとすっと立ち上がり、背中側を歩きぬける様にして軽くタッチする。


「きゃっ!」


 一瞬にして闇夜のカラスの様な漆黒のセーラー服がそこにはいた。

 妙齢から若々しい小娘になったウーだった。


 凛々しいパンツスーツ姿だったウーは、はかなげな長い髪の美少女となってしまっていた。膝下まである長い、ホコリ一つついていない漆黒のプリーツスカートに手首と襟に入った純白の三本ライン。目に鮮やかな毒々しいほどの真っ赤なスカーフ・・・。

 現代の可愛らしくポップな「女子高生の制服」とはまるで違う、まるで昭和の「女学生」といった雰囲気すら漂うスタイルである。


「・・・なるほど。ひでちゃんと同じセーラーなんだ」


 ひでちゃんというのは橋場のことである。


「真琴・・・?」

「んー悪いけど防御させてもらっちゃった。恥ずかしいんだもん」


 ウーの能力は「特殊系」と呼ばれる分類不能な突然変異である。


 通常のメタモルファイトも可能だが、それ以前にファイト開始の同意を必要とせず、しかも「必ず相打ちになる」という奇妙な特徴を持っている。


 同意を必要とはしないが、流石に先行してファイトをしている相手に割り込むことは出来ない。これは「メタモルファイトを掛け持ちすることは出来ない」という原則に従う形になるためだ。


 その為、斎賀はあらかじめ橋場とメタモルファイトを開始した形を取っておいたのである。


 そうした措置を施していない真琴は本来ならば「相打ち」効果に巻き込まれてチャイナドレス姿になるはずなのだが、「来る」ことが分かっていれば精神で跳ね返すことは可能だ。

 これは特殊能力というよりは、「メタモル能力」の「基礎的な力」が圧倒的に高いことで実現する効果だった。


 真琴は生まれつきの女で、現役女子高生なのだが制服の無い私立の高校に通っており、プライベート含めてほぼスカートの様なガーリーな服装をしない。常にパンツスタイルだ。

 なので、セクシーなチャイナドレスを嫌がった・・・というところだ。


「・・・ま、ケンちゃんの狙いも分かるけどね」


 真琴も斎賀をケンちゃん呼ばわりし始めた。


 再び席に戻ってミルクレープの続きを食べ始めるウー。


「悪いけどあたしってあんたがたみたいな野蛮人じゃないからさ。ファイトとかしないからね?」

「あー構いません構いません。むしろその方がいいくらいです」

「?」

「で?どう言って呼び出したんだ?」


 いつの間にか連絡先を交換していたらしい。


「鬼頭さんには悪いんですが・・・」


 橋場が真琴の方を見る。


「『まだメゲてないなら、次のファイターと真琴さんのデートを賭けて戦わないか』って・・・すみません」


 と言って頭を下げる。


「お前なあ!」


 橋場は怒るが、真琴は「あっそ」と言っただけで表情も変えずにジュースを吸い上げている。


「でもって、この人の体質を利用してリュウたんの能力を丸裸にしたい訳だ。悪人だね~」


 面白そうに言う真琴。

 そうなのだ。実際問題、来葉の得体のしれない能力は全く分かっていない。

 確かに「見るだけで」相手にメタモル能力を一方的に仕掛けることが出来る能力使いなども「相打ち」効果を食らって撃沈した。


 特殊系は橋場や斎賀たちの様な一般メタモルファイターと戦う時には一方的に有利でも、特殊系同士だとお互いの相性が極端に出る。

 正直、特殊系同士がガチで能力をぶつけ合った時に何が起こるかは「未知数」ということになる。


 来葉の得体のしれない強さは脅威だ。

 現状では全く勝ち筋が見いだせない。確かに何とかしなくてはならないのだ。


 入り口のベルが鳴った。


『いらっしゃいませー』


 可愛らしいメイドさんの声が響く。


「いらっしゃったみたいですね」


 不敵に笑う斎賀の表情。


 背後に薄汚れた学ランが迫って来るのが見えた。



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