黒野伊織の場合 その1 11
第二十一節
「ちょっとした男なんて彼女には全く適わないわね。あ、これは男のメタモルファイターって意味ね」
群尾が遭遇したことのある男のメタモルファイターと言えば陸奥海斗(4参照)と長四木(4参照)くらいだ。後は天使彩香(6参照)と今回の黒野伊織そして何と言っても沢尻瑛子…と女性ばかり。
「…確かに…伊織たんって余り男には積極的に関わらないわね。暴力男に虐げられてた時期が長いから」
「…」
そうなのだ。カップルのケンカなんぞ吐いて捨てるほどあるが、あの細身の女性に馬乗りになって上から殴るなどケンカというには常軌を逸している。メタモルファイターの女性だったから事なきを得ているが、普通の女性だったら一方的な暴行にしかならないだろう。
それをそれ以前からされていたとしたら…。
「ごめんごめん。マジ勘弁ね。確かにあんたがたの方が異色だわ。片方の女の子がメタモルファイターで、相方の男の子が普通なんてさ。それをよりによって伊織たんと組ませりゃトラブルになるわ」
かつての幸せだったカップル時代を思い出すってことか…。
メタモル能力持ちの女性と普通の男のカップルがどの程度存在しているのかは知らないが、確かにその組み合わせは危ういバランスの上に乗っているようなもの…ではあるだろう。
「まるで告げ口ですからどうか穏便にお願いします」
「任せときな」
逆恨みされては適わない。
「どうするんです?言って聞きますか?」
「いや、もうあんたがたとは組ませないよ」
第二十二節
「…はあ」
「いい年こいた大人に説教も再教育も無いわ。運用で対応する」
そうなってくると人事の運用の話だ。下っ端が口を出す領域ではない。
「…とりあえずこれだけです」
「話しにくい話をありがとね」
皇さんは相変わらずにこやかだ。
「じゃ、今日の仕事は終わり。ありがとね」
「いえいえ。社会貢献が出来て嬉しいです」
二人はすたすたと歩いて部屋から出るためのドアの前に立つ。
皇が壁のパネルを操作し、両側に向かって「ガーっ!」と開いた。まるで特撮番組だ。
「…っ!!」
目を疑った。
そこには信じられない光景があったのだ。
「瑛子さん!」
「来るな!来んじゃねえ!」
殺風景な廊下には色んなものが散乱していた。
サングラスは砕け、ベレー帽は引き裂かれている。
瑛子の制服も無事では済んでおらず、あちこちがほつれ、破れている。
反対側にはサングラスが外れてライダースーツに短い黒髪の黒野伊織が肩で息をしている。やはり金髪はカツラだったらしい。
「ちょっと!どういうことなの!!」
皇が怒鳴る。
どう見てもメタモルファイターたちがメタモルファイトも同意せずにガチで殴り合った結果である。
「調子に乗るんじゃねえぞおぉおおおお!」
次の瞬間には群尾は背後から首を掴まれていた。
「ぐあああっ!」
悲鳴も上げられないほどギリギリと締め上げられる。呼吸が出来るギリギリで圧迫されている。
「テメエ!」
「寄るんじゃねえ!!こいつ女にスンぞゴルァ!」
群尾の視界に皇と瑛子が見える。
「そんな…なんてことなの!?」
皇は青ざめていた。




