黒野伊織の場合 その1 09
第十七節
「ウチの組織の理念は簡単でね。「被害者の安全の確保」これなの。いじめっ子…加害者の人権なんぞどーーーーーーでもいいんで。マジ」
いい年こいてるのにギャルみたいな口調になってしまう皇。
「文明社会においては「私的な復讐」ってのは認められて無いの。そういう強制力は全部国に取り上げられてる」
「そうですね」
「だったらちゃんとその強制力を使ってくれればいいんだけど、ロクに使っちゃくれないわけよ」
「分かります」
「だったらあたしらが動きます。勝手にね」
「…大いに共感しますけど…危険ですね」
「まあね」
「何で危険なの?」
「国家権力以外の合法的暴力装置があるってことになると、極論すれば気分次第で道行く人を虐殺することも許される…というところまで論理が暴走しかねない」
「はぁ?いじめっ子ぶっ殺してるだけなのに何でそうなんのよ」
「いじめっ子であるかどうかを誰がどう判定する?」
「ちゃんと調べりゃいいでしょうが。のりちゃんたちみたいに」
「そゆこと。これが出来るのはムチャクチャ凄い『徳』がある人に限られるワケ。あたしみたいにね」
ウィンクする皇。
「ま、とにかくあんだけ痛めつければしばらくは可愛い男の子いじめてうさ晴らす元気も無いでしょ」
「…だといいですね」
「もしも懲りずにやるんだったらまた拉致っちゃって?よろしくね瑛子ちゃん」
「まあ…朝飯前だけど」
群尾には徐々に飲み込めてきた。
この組織には色々な部門があるのだ。
恐らく先ほど加害者三人を殴っていたのは「制裁班」みたいな人たちだ。「拷問班」とでも言おうか。
要するに人を傷つけることに精神的なストレスが少ない…もしくは無い…もしかしたら快感…な人たちが雇われてる。
仮に群尾にあんな役をやらせたら一日で精神を病んでしまうだろう。
第十八節
そして、現場で被害者及び加害者を「確保」するのは卓越した運動性能を誇る「メタモルファイター」が何より適任だ。
ペアを組ませれば正体の隠匿までお手の物。現場で揉めごとがあったとしても戦闘能力も高いので切り抜けることは簡単って訳だ。
「皇さん…ちょっといいですか?」
「ん?ギャラはボランティアってことで…実費は出すけど」
「その話じゃありません」
「あによ」
「…ちょっと二人だけでいいですか?」
一瞬沈黙。
「…はぁ?」
「大丈夫。浮気とかじゃないから」
「たりめーだろうが!」
その後ちょっと揉めたんだが、どうにか瑛子を隣の部屋に移すことに成功する。
「どうしたの?ウチのやり方に不満?」
「いえ。大賛成です。ボクの小学生時代にも欲しかったですよ」
「じゃあ何?」
「その…恐らく年上とはいえ、同僚を刺す様な話で気が進まないいんですけど…」
「何でも言って」
こうなると包容力のありそうな大人の女性ってのは頼もしい。三十代以上に見える皇さんなんて、高校生の群尾にとっては恋人じゃなくてお母さんみたいなものだ。
「その…黒野さん…のことなんですけど」
「あ…もしかして」
思い当たるところがあるらしい。




