黒野伊織の場合 その1 08
第十五節
「のりちゃん、あれって、あいつらってこれからどうなんのよ」
仕組みはよく分からないが目の前の壁から見えていた制裁風景は何も映らなくなっていた。
「ま、死なない程度に痛めつけたら連中の現行犯映像と共に発見されやすいように現場に放置かな」
恐ろしいことをさらっと言う。
「ぬるくね?あいつらまたやるよ?」
瑛子はヤンキーと勘違いされるほど言動も荒っぽく、気も強くてキレやすい性格だが別に不良と言う訳ではない。
「いや、やらんだろ」
ぽつりと群尾が言った。
「そう思う?」
「ええ」
「どして?」
「分かりませんけど…」
言葉を選ぶ群尾。
「彼らは自分たちがあれほどの暴力の被害者になったことは無いはずです。何をする気力も無くなるんじゃないかな」
「連中が反省するっての?」
「いや、反省とかじゃない」
「???」
腕組みをして首をかしげている瑛子。
「残念だけど、彼らは自分がやってた暴力のひどさに罪悪感が芽生えて反省するタイプじゃない」
うんうん、と嬉しそうに頷いている皇。
「ある種のいじめっ子ってのは相手が嫌がれば嫌がるほど気持ちいいものなんだ。相手が自分のいじめや嫌がらせ、暴力に泣いたり絶望したり、手首を切ったり、首を吊ったり、電車に飛び込んだりするのが何より楽しいんだ。一種の麻薬だよ」
第十六節
「こういう言い方もなんだけど、同じ人間だと思わない方がいい。一種のサイコパスだ。言葉は一応通じるが宇宙人みたいなもんだよ。教育によって矯正できるもんじゃない。生まれつきさ」
「ムチャクチャ言うなあたあくん」
とはいいつつもそれほど強く反論はしていない瑛子。
「だから同じ暴力を与えて反省を促すなんて無理さ。でも、暴力を振るうのは好きでも振るわれるのは好きとは限らない」
「うん。そゆこと」
「同じ目に遭わせたのは“折角だから”ってだけで死なない程度の苦痛なら何でも良かったんでしょ?」
「その通り。良く分かってんじゃん」
「要するに犬や猫に粗相をしたらムチでひっぱたいて『教育』というか『身体に覚えさせ』てるのと同じですよね」
立ち上がって歩く皇。
「ご名答ね。こちとら証拠画像もある。連中の親だの親戚のおじさんだのがどれだけ偉いんだか知らんけど、動かぬ証拠があればぐぬぬ…となる…ってのは大きな間違いでね」
かつっ!と止まる皇。
「ことが公になれば困るのは連中なのは間違いないわ。“一応”文明社会においては犯罪者ってのは良くないことってことになってるから」
「“一応”って…」
苦笑する瑛子。
「元々人をいじめて楽しんでる様な外道は、徹底的に自己中心的な価値観で生きてるからね。告発なんぞされた日には逆恨みしてなお一層いじめられっ子に襲い掛かるとみて100%間違いないわ」
「100%は言い過ぎでは?」
「あ、ごめんごめん120%にしとくわ」
「…」




