黒野伊織の場合 その1 06
第十一節
潜入現場にメタモルファイター2人組で行かせ、お互いのメタモル能力を掛けあうことで「変身」して正体を隠匿するという『作戦』である。
お互いの合意の上ならば勝負のタイミングとは関係なく「とあるトリガーで遅発させる」ことが可能であるというメカニズムを活かし、疑似的な「変身」ギミックとして活用しているという訳である。
確かに今の瑛子を見たならば、誰が見ても二十代半ばの大人の女性がセクシーライダースーツ姿で校内に侵入してきた…と言う風にしか見えまい。
実際には瑛子は十七歳の女子高生なのだ。見事な「変装」だ。これ以上無いほどの。
仮にこの役割が逆…黒野伊織が「女子高生」スタイルで忍び込んだならば、やはりかなりの精度の「変身」ということになる。
組織というものの強さである。
メタモル能力をこういう風に使いこなすのは個人単位では無理だ。
もっとも、この伝で行くならば「男が女に変身」して正体を隠匿する方がもっともっと効果的ではある。
もっといえば女子高生の制服みたいな常識的な恰好では無くて、それこそバニーガールとかチャイナドレスみたいに浮世離れしたコスプレまがいの方が目撃証言が混沌としていいのだが…贅沢は言うまい。
「なぁ!お前なぁ!おぃ!なぁマジでマジでなぁ!何無視してんだゴルァ!」
瑛子がかなり本気モードでキレている。
そりゃそうだろう。もっとも神経を使う被害者救出ミッションの真っ最中にバックアップが全く無言になった上救援にもまるで来てくれないのだ。
車が停車した。
「停まってんじゃねえぞ!」
もう何にでも噛み付くモードだ。
「赤」
一言だった。確かに視界に入る信号は赤い。
第十二節
停車しているのをいいことに、黒野が首を回してこちらを睨んでいるのが分かる。
サングラス越しだがハッキリ分かる。「テメェ、さっきのあたしたちのやりとりを瑛子にチクったら殺すぞ…」と言っているのが。
機材の調子が悪かったことにしてどうにかそこは切り抜けた。
ちなみに今回のミッションは、いじめられっ子の救出がまず第一。
そして…ここからが我が「アーバン・スイーパーズ」の独特のところなんだが…加害者の拉致である。
そこから十数分ほど走って、アーバン・スイーパーズの幾つかある拠点に車が到着した。
「お疲れさ~ん」
笑顔満面の皇さんが出迎えてくれた。
スライドドアを勢いよく開けると、瑛子が飛び降りてきた。
「のりちゃん、この子早くお風呂にでも入れた方がいいわ」
どう見ても年上なのにタメ口の上「のりちゃん」呼ばわりである。
瑛子のこういう面の皮の厚いところが群尾には真似できないところだ。
「うん分かった。任せて。こっからの対応もプロだから」
そう言ってる間にも医療スタッフらしき白衣の集団がどやどやとやってきて被害者の男の子を抱えて行く。あれならフォローもばっちりだろう。
「さて、これからがお楽しみだけど…もう少し見てく?」




