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黒野伊織の場合 その1 05


第九節


 同時だった。

 バン!と勢いよくドアが開く音がして後部座席に乱暴に何かが放り込まれる音がする。


「おい!お前ら何してんだ!!」


 瑛子の怒鳴り声と同時に、ドバン!と大きく重い音がした。

 怒りに任せた瑛子のキックが車体側面にヒットしたのだろう。

 メタモル能力が無かった時期の瑛子ですら板金屋のお世話になるレベルだ。流石は特別防弾車。へこんではいない。


「姉ちゃん!フォローしてくんなきゃ困るんだけど!」


 車外から運転席に向かって怒鳴っている。

 同時に勢いよく中部座席のスライドドアが開き、ボロボロになってぐっしょり濡れた可愛らしい男の子が転がり込んでくる。


「うわわっ!」


 機材が塗れやしないかと心配して驚いて飛びのく群尾。


「たぁくん!そこにタオル一杯あるでしょ!着替えは無いけど脱がしてやって!」


 後部座席からドカドカと何か動いて暴れている様な音がする。

 目の前の男の子はヒドい臭いがする。

 きっと掃除のバケツの水なんかをぶっかけられたに違いない。ヒドいことをする。


 同時に中部座席に飛び込んだかと思うと壊れそうな勢いで締める。

 余りにも勢いが強すぎ、一回フレーム同士がぶつかって弾き返されてしまうがもう一度力任せに締めた。


「おいタクヤぁ!」


 胸倉を掴まれた。



第十節


「テメぇなんで無視してんだあぁ!?」


 黒野との会話に夢中で電通していたことすら意識から飛んでいたらしい。


「おい姉ちゃん!出せや!」


 運転席に向かって怒鳴る瑛子。

 無言で頷くと車が発進する。バックミラーにはハゲででっぷり太った用務員か宿直の職員かしらないおっさんが追いかけてくるではないか。

 瑛子は追っ手を撒ききっていなかったらしい。


 たちまち車は加速し、信号機を巧みに回避しながら距離を取って勢いよく走り始めた。


 バックミラーに映っていたおっさんはしばらく頑張って追いかけて来たみたいだが、すぐにへたばって諦めたらしい。もう見えなくなった。

 一生懸命覚えて通報したとしても、ナンバープレートはダミーなので大丈夫。

 車体も、目立つ色ではない上に元の色からかけ離れた塗装が施されているので遺留物から特定はまずされないだろう。


 男の子は気を失ったらしくぐったりしている。

 瑛子は手に握りしめていた機械を床に叩き付ける様にばら撒いた。


「多分これで全部だと思うけど…これで時間くっちゃったよ」


 盗聴器及び隠しカメラである。

 証拠隠滅の為に現場から全て外して来たのだ。


 そして…瑛子は先ほどのキュートな女子高生の制服姿ではなく、全身黒づくめのレザースーツ姿だった。

 体型がモロに強調されるセクシー衣装で、胸の谷間から股間まで駆け下りているファスナーが何ともいやらしい。


 これが黒野伊織のメタモル能力「ライダースーツ」である。



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