黒野伊織の場合 その1 03
第五節
「たくやくんにはメタモル能力は無いのよね」
「試してませんが…無いでしょうね」
「ってことはもしも彼女とケンカしてJKにされちゃったら、そっから一生女の子ってわけだ」
「…一生…ではないですよ」
「一般人は戻れないわよ?」
「いや、『女の子』名乗っていいのは十代まででしょ。その後は普通に女性です」
車内にピリピリした空気が流れた。
…もしかして地雷を踏んでしまったのだろうか…冷や汗が流れ落ちる。
「怖くないの?」
「全然」
「どうして?ケンカするでしょ。高校生同士なんて」
黒野はしつこかった。
「意見が対立したりはしますけど…ケンカになんてなりませんよ」
「どうして?」
「元々気性が激しい人だし…それこそメタモル能力が無かったとしても取っ組み合いでも勝てる気がしません」
「…」
「メタモル能力者が一般人相手にメタモル能力を発現出来るのは“危機感”を感じた時です。単なるケンカくらいじゃあ女の子になんかされません。ましてやボクが瑛子さんに危機感を感じさせるなんてとてもとても」
それまでも一応メカニズムは確認していたのだが、先日から散発的に収集できた情報によって裏付けられたため、この認識で安心している。
「瑛子さん…ね。カノジョなのにさん付けなんだ」
「おかしいですか?」
「うん。おかしいね」
第六節
「そう言われても…」
「カノジョなんだったら呼び捨てか、さもなきゃヘンなあだ名でしょ」
「あの…いいですか」
たまりかねた群尾がトーンを変えた。
「オブザーバーとして来て頂いて感謝してますけど、その領域まで指図される謂れはありません」
しばし沈黙。
「…大きなお世話だっての…?」
「ハッキリ言えば…そうです」
伊織がサングラスのまま首だけ回して中部座席の群尾を睨みつけてきた。
その殺気に満ちた目に「圧」を感じる。
そうなのだ。メタモルファイターは怪力で猛烈に戦闘力が高い。確かに一般人を変身させてしまうことには多少は条件が付くが、単純な暴力ならすぐに行使できる。その気になれば群尾を瞬殺することは簡単なのだ。
肉体的な戦闘力から最もかけ離れたタイプの群尾など、メタモルファイターである黒野が本気を出せば何が起こったのかも分からないまま首をへし折られてあの世行きだろう。
…そのことを忘れていた。
「…カノジョ…瑛子“さん”はあなたは警戒しないでしょうね」
“さん”に力を込めているのが作為的だ。
「でも、二人で一緒に現場に行くんでしょ?相手がメタモルファイターだったりしたらどうなの?とばっちりを食う可能性はあるわよね」
「…おっしゃる通りです」
「それでも怖くないんだ」
なんとしても否定的な言動を引き出したい…そういう風にしか聞こえない。




