黒野伊織の場合 その1 02
第三節
群尾はディスプレイから目が離せなかった。
正に「凄惨」と言うべき光景が広がっていたからだ。
仕立てのいいオシャレ制服であどけない童顔の男の子が殴られ、蹴られ、水を掛けられ、泣きながら助けを求めているところを更に加撃されているのだ。
群尾もどちらかというと日の当たる場所の側の人間ではなかった。
これほどひどくは無かったが、小中学校においては無視され、陰口をたたかれる側だった。
だから今殴られているあの子がかつての自分に見えて仕方が無い。
これほど明確な証拠がありながらどうしていじめをした側は大手を振って堂々と学校に通っているのだろうか。
「随分熱心に見てるわね」
「…早く止めて欲しいです。もう事実関係は十分確認出来ましたから」
沢尻と群尾はごく平凡な高校生カップルだった。
ただ平凡では無かったのは沢尻瑛子は自分に害意を持って襲い掛かってくる相手を女子高生程度の女の子にし、母校の女子の制服を着せてしまう…男女・年齢問わず…といういささか“特殊すぎる”能力を持つ「メタモルファイター」だったことである。
彼らはその『恵まれた』体質を活かし、ロリコン教師やパワハラ野郎、半グレ集団などを撃退することを続けていたが、出かけた先で同じ体質を持つ人間と何度か遭遇し、生命の危機を感じることがあった。
その為、団結が急がれていたのだが、ある日「メタモル能力」を承知の上でちょっぴり過激な善意のボランティア集団(?)「アーバン・スイーパーズ」に勧誘されたのだ。
「瑛子ちゃん…だっけ。彼女ってメタモル・ファイターなのよね?」
「その呼び方は最近知ったんですが…そうみたいですね」
「悪い奴を女の子に出来るんでしょ?」
「…悪いかどうかは相対的な問題です。まあ、そういう能力はあるみたいですけど」
どうもこの黒野伊織なる人物はうさんくさい。
うさんくさいは言い過ぎだが、少なくとも先日の皇法子さんよりは明朗快活ではない。
「彼女の能力を発動するところって見たことはあるの?」
「かなり」
第四節
「瑛子ちゃんの能力って、JKよね」
「そう…です」
「可愛いわよね。あの制服」
「まあ…」
何なんだろうこの会話は。
伊織の年齢ははっきりしないが、車を運転できるということは成人であると推測は出来る。
が、聞くところによるとアーバン・スイーパーズに所属している人間は社会的身分や日本国の戸籍を失った人間が多いともいう。
となると国家によって発行される運転免許証も正規のものではない可能性もあるわけか。そうなると年齢の判定は難しくはなるが…まあその落ち着いた佇まいから、二十代も半ば以上の大人の女性であることまではどうにかに推測できるってわけ。
「教えてよ。今までどんな相手をJKにしてきたの?」
正直、群尾は「JK」という言い方が余り好きではない。
あくまでも文字で書く際の略称であって、口で発音するのならば「じぇーけー」と「じょしこうせい」ではそれほど労力に差は無いのだ。
だったらまるで記号みたいな言い方を態々(わざわざ)することも無いのに…。
「色々ですよ。暴力男とか、中年のロリコン教師とか」
「男ばっかりね」
「…ボクも男ですけど…悪い男が多いですからね」
この言い方は正確ではない。
どうして瑛子のターゲットに男が多いかと言えば、瑛子が「女をいじめる男」がとにかく嫌いなので、そういう奴を中心に狙うからである。
探せば悪い女性だって大勢いるはずだ。




