黒野伊織の場合 その1 01
第五章 黒野伊織の場合その1
第一節
「たぁくん、見えてる?」
『バッチリだよ。この頃のカメラは怖いね。いじめ現場の盗撮画像も4K画質ってなもんだ』
肩までの長さの髪は茶色に染まっている。
クリーム色のベストに校章が縫い取られ、赤いリボンがワンポイント。寒色系の柄のチェック模様に彩られたプリーツミニスカートからは健康的な脚が伸びている。
もっとも、健康的過ぎるからかあちこちに擦り傷めいたものも認められる。その制服も首元がゆるく着崩されている。
年頃の美少女には違いないが、性格の反映なのかそのキツい目つきなどは少なくとも『深窓の令嬢』といった雰囲気ではない。
ヤンキー娘とは言わないが、いいとこギャル(死語)ってところだ。
『目標の三匹を確認。よろしく』
「あいよ」
その健康的な美少女こと沢尻瑛子の装いで目立つことと言えば、耳に装着されたヘッドセットだろう。
右耳を塞ぎ、口元にマイクが伸びている。
まるで「ウルトラ警備隊」か何かである。
…といっても、こうした機能を持つ携帯電話デバイスは既に市販されており、それほど特殊なものでもない。
第二節
校舎の外に停められたワゴン車の中。
「いいようね」
「バッチリです」
カーテンが敷かれて遮光された車内には何台ものディスプレイがあり、リアルタイムで刻々と状況を映し出していた。
それを監視しているのが群尾拓哉。
沢尻瑛子と付き合っているこちらはごく平凡な男子高校生である。
運転席にドライバーとして座っている女性こそ組織「アーバン・スイーパーズ」から派遣されてきたお目付け役であり、能力を有効に活用するために送り込まれたエージェントにしてメタモルファイターである。
恐らくカツラなのであろうわざとらしい金髪にベレー帽を深くかぶり、ナス型の大きなサングラスが特徴的だ。
黒野伊織。
彼女が名乗ったのはその名前だ。本名なのかどうかも分からない。そもそもあのデカいサングラスでは素顔も隠しているも同然である。
「…たくやくん」
伊織は前方に目をやったまま静かに口を開いた。
「はい、何です?」
「この車、後部座席はお客さん用だからよろしくね」
「はい、心得ています」
といってもディスプレイのある真ん中しか今現在は群尾には解放されていない。
後部座席との間は分厚い壁によって仕切られており、ガラス窓に加えて鉄格子まで嵌っている。
とんだ「ゲスト席」ってわけだ。




