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リチャード・ケイジの場合 06


第十一節


 「論理が絶対」というのは、「論理の前には神すらひれ伏す」と言う意味だ。


 ユダヤ教・キリスト教みたいな一神教の信奉者というのは「神が言ってるんだから」とどんな理不尽も黙って受け入れる…言ってみれば「思考停止」状態…だという誤解がある。

 そうではなくて、「神が正しい」のは「論理的に正しいから」正しいのであって、「神だから」正しい訳ではないのである。

 その割には旧約聖書の神様は随分矛盾したことばかり言ってる気がするが、少なくとも信者にとっては「論理的」なのである。

 ではその「論理的に正しい」というのは一体誰が判断するのか?という大問題がある。

 これが正直良く分からない。

 シンの乏しい理解だと、少なくともその場で議論に勝てば「論理的だから勝った」ってことになっちゃってんじゃないの?という感じだ。

 その伝で行くと、相手の揚げ足ばかり取ってるソクラテス先生とかって勝たないかもしれないけど負けも無いだろうなあ…と思ったりする。

 ちなみに「フィロソフィー」は「哲学」を意味し、「ソフィスト」は「哲学者」を意味する。だが、「ソフィスト」には「詐欺師」という裏の意味もある。…要するに古代ギリシアの人たちも『何だか分からんけど、口先だけの屁理屈で相手を丸め込むうさんくさい奴ら』と思ってたってことだろう。


 話を戻すが、西洋の思考の根本がいかに「論理的に正しい」ことを重要視しているかは「モーセ」のエピソードを引くだけで十分だろう。

 モーセとはエジプトから海を割って信者を引き連れて脱出したことになってる人だ。

 このおっちゃんは旧約聖書ではアダムとイブとか、箱舟のノアと並ぶ目立った登場人物なんだが、シナイ山に登って「十戒」を神にもらって帰って来るエピソードが有名。


 この時モーセが何をしに行ったかだけど、なんと「神を論破しに行った」のである。


 狭い視野しかもたない日本人だと椅子から転げ落ちそうになる仰天の「論理」だ。

 人間ごときが神と論争して勝つ?なんじゃそりゃ!?


 しかし、西洋では別におかしくない。この世界で最も重要なのは「論理」であって、仮に神が論理的に間違ったことを言っていたならば人間がそれを指摘すれば「論争では」勝てる理屈になる。


 そもそも「神が論理的に間違う」ってのが色々おかしい。全知全能じゃなかったのかね。


 この後色々あるんだけど省略。

 ともあれ、それが数千年(?)経ってこのアメリカに於いてどう使われているかと言うと、正に「屁理屈」として使われている。


 都市伝説だった「猫電子レンジ」のエピソードが有名だが、防犯装置に引っ掛かってケガをした泥棒が、家主を「過剰防衛だ」と訴えて勝った例があるのは本当らしい。

 正に「盗人に追い銭」である。


 上から目線で恐縮だが、この辺りはヨーロッパあたりの「常識・良識」の蓄積には全く及んでないと思う。

 普通は「盗みに入っておきながら、些細な正当性を訴えていいつのるなんぞ、『盗人猛々しい』ぞ!恥を知れ!」で終わりだ。人種・民族差別が加わるともっと話が複雑になるが。

 ところが、少なくとも「法廷」において「論理的に説明できる」ことで外部から見ると「絶対におかしい」判決が出てしまったりするのだ。



第十二節


 なるほどこれでは「論理の魔法使い」たる「弁護士」…「法律家」の持つ力は絶大だ。

 火の無いところに煙を立て、些細な出来事を「事件」にして大金を稼ぐわけだ。


 俗に弁護士のことを「アンビュランス・チェイサー」と揶揄する。

 「アンビュランス」は「救急車」だから「救急車を追う者」だ。


 救急車が走っているということは、そこにはケガ人や病人がいるということになる。

 つまり、「金を稼ぐチャンスが転がっている」からこそ群がってくる…と言う意味だ。

 アメリカで弁護士がどう見られているのかを示す端的なあだ名と言える。


 ホームパーティに呼ばれて友人宅に行き、玄関前に敷いてあったマットに滑って転んでケガをした人がいた。

 友人同士なので「まあまあ」で済ませようとしたらそこに弁護士が割り込んで来て「マットの危険性を放置した」かどで訴訟を起こさせたらしい。

 結果は聞いてないが、数十年来の親友関係は破局したらしい。当たり前だ。それでいて弁護士は訴訟費用をがっぽり…なんだからそりゃ人心も荒廃するわな。


 話がそれたが、ともかく目の前でスタンダップコメディアンみたいに喋り倒すやせぎすの女をどうにかしなくては。


「すまん!ゴメン!ちょっといいかな」

「…何よ」


 やっと止まった。


「その…リチャード…さんと会いたいんだけどいいかな」

「…もしかしてあんたが友達の友達?」

「さっき言いかけたんだけどね」


 リチャードと言うのは恐らくファースト・ネームだろう。だからそこに日本語で言う「さん」である「ミスター」を付けるのはちょっとおかしい。「ミスター」はファミリー・ネームの方に付けるべきだ。

 「ジョン・スミス」さんなら、「ミスター・スミス」みたいに。どうしても「ミスター」を付けたいのなら「ミスター・ジョン・スミス」みたいにフルネームに付ける。

 しかし、こちとらリチャードというファーストネームしか知らないのでこういうしかない。


 ちなみに英語の「愛称」というのも日本人には慣れない習慣だ。

 そもそも上司だろうが「名前で呼び捨てる」などということがそもそも考えられない。



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