来葉 龍の場合 その2 05
第九節
「うん。じゃ、そういうことにしようか」
今までメニューを眺めたり飲み終わったコップで遊んでいた真琴が顔を上げた。
「どうぞ」
「そういうことならやろうか」
斎賀に向き直る来葉。
「凄いですね。そこまで一途なのも羨ましいですよ」
ジャッジとして呼ばれてやってくる綾小路隼人。このメイドカフェのオーナーでメタモルファイトの審判を自認する。
「では、床にチョークで引いたラインを越えたら反則負けとします。身体の一部が出る「勇み足」などは問題ありませんが、意図したエスケープ行為は即負けです。よろしいですね」
頷く斎賀と来葉。周囲の机と椅子は土俵の外に押し出してある。
「条件なし。変身決着。コスチューム・マッチとします。敗者は勝者の指定したコスチュームを着なくてはなりません。着衣・脱衣の時間を“含めず”1時間とします」
再び頷く斎賀と来葉。
「では参ります。レディ…ファイト!」
第十節
身体を低くして構えない来葉。これは真琴の2戦目と同じパターンだ。
恐らく自分に比べれば小柄であるにも関わらず自信満々の斎賀を見て「何かある」と感じ取ったのだろう。
土俵よりも一回りしか大きくないフィールドはメタモルファイター同士にあってはもう「手の届く範囲」と同義だ。
にらみ合いが続いた。
一瞬フェイントが入り、蹴りを繰り出す斎賀。
だが、踏み込んで足元を狙うキックに合わせるかのように来葉が突進してきた。
それに気付いて回り込むべく横移動する斎賀。
流石の斎賀は、まず自分から見て右方向に乗り出し、フェイントをかけて左方向に飛び出すと見せかけて最初の右方向に走った。
二重のフェイントに引っ掛かった形の来葉はまんまと身体の脇を走り抜けられる。
その時触れた手が見える。展開は橋場戦と同じである。
「うっ…」
苦しむ来葉。
見ると節くれだったゴツい指先がしゅしゅしゅ…と変形し、細く長く美しい白魚の様な指に変わって行く。
「…この…お前ら何を…」
憎々しげな表情。
ごく初歩的な意識配分による部分攻撃に過ぎない。
この辺が分からないのだ。
あれだけ一方的な強さにもかかわらず、この程度で動揺し、実際に技を喰らう。
にもかかわらずそれでいて最後には勝っている。




