盛田出人の場合 その3 07
第十三節
「保護された犠牲者のその後がいずれも不明なのは…まあいいとして…本当はよくないが、いいことにして、問題は赤ちゃんだ」
「…赤ん坊がどうした」
「いつも同じ赤ちゃんなんだよ」
「…なんだと?」
写真を見る盛田。
「…似てるだろ?」
「確かに着てる服は同じだが…それほど珍しい服とも思えん」
「でも、同じ顔だ」
「赤ちゃんなんてみんな同じ顔だよ!」
「いや、顔認証ソフトに掛けた。写真は5枚残ってるが、認証に耐えたのはその内3枚。いずれも同じだった。間違いない」
沈黙が訪れた。
「成長すれば骨格だって変わる。成人ならともかく赤ん坊を顔認証ソフトで同一判定なんて」
「お前らしくないな巣狩。顔認証ソフトは整形してようが有効だ。美容整形手術でも変えようがない目の位置や骨格で判定する。成長や経年劣化にすら対応してる。それで判定したんだ。間違いない」
「…だったらどうだっていうんだ?お前の推理を聞かせろよ」
「途中で止めないと約束できるか?」
「お前の推理が芥川賞ものだってことはもう知ってる。いいから言ってみろ」
第十四節
「これまでオレたちは数多くの失踪事件を分析してきた」
「…」
「そのどれもが「行方不明者」と同じタイミングで「謎の女性」が出現するというパターンだった」
「…」
「つまり、この世には「男を女にする」能力が間違いなく存在する。ここまでいいか?」
「いや…いいか?って言われても…」
「止めない約束だぞ」
「ああそうだったな。続けろ」
ごほん、と咳払いする盛田。
「今回の騒動の主役は…間違いなくあの赤ちゃんだ」
「…」
「恐らく生まれてすぐに放置された赤ちゃんは本能的に生命の危機を感じた。このままでは飢えて死ぬ!」
「…」
「偶然だが、バス停という人通りの多いところ…田舎なんで比較問題だが…に捨てられていたために、人と接触する機会がおおかった」
「…それで?」
「彼…一応男の子らしいんでな…は生まれつきの能力を使い、自分に触れた人間を二十代半ばの経産婦へと変化させ、その乳を吸うことで生きながらえたのだ!」
巣狩が頭を抱えている。
「…というのがオレの推理だ」
「…幾つか質問いいかな?」
「どうぞ」
「赤ん坊はその能力持ちだって言ったな」
「ああ」
「別に能力云々じゃなく、人を思い通りに出来るんなら普通にミルクもらえばいいだろ。何で男だろうと女だろうと、ガキだろうがじいさんだろうが手当たり次第に母ちゃんにしておっぱい吸う必要がある?」
第十五節
「そこは赤ちゃんだから母乳が欲しかったんだろ」
「母乳が欲しいから触った人間をみんな母ちゃんにしておっぱい吸って生き延びたわけか」
「その通り。以上!証明終了」
「やかましいわ!」
巣狩が怒鳴った。
「何なんだその突拍子もない話は!お前なんか芥川龍之介じゃなくて阿部公房か浦沢義男だよ!」
「誰だって?」
「いいんだよ誰でも!推理がムチャクチャだって言ってんだ!」
「そうかなあ…論理的な帰結じゃないか」
「一体どうすりゃそんな推理が出来るんだかお前の脳を解剖して見てみたいわ!」
「遠慮するよ」
「冗談にまともに答えてどうすんだこのバカタレが!」
「あ…ありがとうございます」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~っ!!!」
巣狩が頭をかきむしった。
「じゃあ何でこの騒動は2年で収束したんだよ!言ってみろ!」
「それは…いくら赤ん坊でも2年も経てば母乳から離乳食になるだろ?母乳の時期が終わったんじゃないか?」
「あ…そうか…って一瞬納得しそうになったじゃねえか!」
「きっとそうだようん」
「…二度と舶来品の事件は扱わん」
「そうか?面白いのに」
「…次は現場に行ける事件にしてくれ」
巣狩はがっくりと肩を落とした。




