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リチャード・ケイジの場合 05


第九節


「あら大変!どうしましょう」

「何事だい?」

「あなた…シンタロウ・オガタ?」

「…そうだけど」

「…ごめんなさい。ちょっと前から話を聞いてたの。ていうかリックの伝言があったわ」

「ふーん」


 一応キングも話を通しておいてくれたようだ。


「ウチの弁護士が応対するから入って」

「いや…ここでいいよ」

「大丈夫!紹介されてきた人から相談料取ったりしないから」

「はあ…」


 そうこうする間にも周囲を物凄い人間が行き来している。

 見渡す限りの広いフロアのあちこちがパーティションで区切られ、書類の束を抱えたOLやらスーツのイケメンが早足で行き交っている。

 かなり活気のある事務所の様だ。


「…じゃあ、お言葉に甘えるかな。どこに行けばいい?」

「この通路を入って左にしばらく進んで。『マクビール』って表札があるからそこで」

「分かった。有難うな」


 行こうとしたときだった。


「待って!」


 受付嬢に呼び止められた。


「あの…あたしがゲストのことすっかり忘れて話し込んでたこと…黙っててくれる?」


 シンが破顔した。


「大丈夫。そんなにヒマじゃないから安心しな」



第十節


 「マクビール」というドアをノック…しようと思ったがそもそも開いていた。


「入って!」


 人気を感じてなのかいきなりの大声だ。


「…どうも…あんたが弁護士?」

「ええそうよ、あ?何やっぱ女だから不安なワケ!?そもそもあたし東洋人って苦手なのよ。あんたどこだっけ日本人?」


 いきなりマシンガンみたいな早口の英語が炸裂する。


「…一応そうだけど」

「一応?一応って何よ!はっきりしないわねえ。そもそも今日は何なのよまたセクハラ訴訟?あたしはもうそういうの嫌だって言ってるでしょうが!」

「ちょ、ちょっと待って!待って!」


 勝手に盛り上がっているので必死こいて止めるシン。


「誤解があるみたいだけど、オレは依頼人じゃない。その…リチャードさんの友達の友達だ」

「まーた訳のわからんことを!今度は何よ!宇宙人にでもセクハラしたの!?それとも火星人との間の隠し子が発覚して木星人の奥さんとの間で離婚訴訟でもやらせようっての!?」


 シンもアメリカでそれなりに放浪したが、ここまで早口な人間に出会ったことが無い。

 ちなみに日本語訳だと「弁護士」となってしまうので、どうしても裁判で「訴えられた人」を「弁護する人」というイメージがあるが、英語だと「ロウヤー」となる。「ロウ」が「法律」なので「法律家」と言う感じだ。

 日本語の「弁護士」とかなり印象が異なる。

 実際、アメリカの「司法試験」にあたるものは日本に比べてはるかに敷居が低い。「法律家」…日本でいう「弁護士」の数が無暗に多いのだ。


 そこに持ってきて多民族国家だ。

 日本ではどれほど町内の嫌われ者であっても、同じ民族なのでどこか「話せば分かる」と思っているところが無いでもない。

 それに比べると、民族そのものが違うのだから対立も深刻だ。

 平和な(?)文明社会だからどうにか「仲の悪い隣人関係」で収まっているが、古代なら異民族というのは血で血を洗う殺し合いをやっていた間柄なのである。


 なので日本人の感覚からすると驚くほど些細なことでもすぐに法律に訴える。

 「まあまあ」とか「なあなあ」の感覚はそりゃ全世界どこでもあるが、少なくとも日本の感覚は世界では全く通用しない。


 西洋人がここまで訴訟…いや、「論争」好きなのは、『論理こそ絶対』と言う思い込みがあるからだ。

 これが一番理解しにくいところである。



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