盛田出人の場合 その3 04
第七節
「これがデニスの写真。十五の時のだが」
あどけないそばかすで金髪の男の子だ。
「でもってこれが数少ない保護された女性の写真の内の一枚で、自称・デニス・カッターの写真」
ぼやけていてよく分からないが、何とも肉感的な美女が授乳中なのか胸をはだけかけて映っている。顔が伏せがちなのでハッキリ分からない。
「良く分からん」
「髪は長くなってるが、細かい特徴は良く似てる」
「おいちょっと待て!」
巣狩が大きな声を出した。
「行方不明になったデニス君は男の子なんだよな?」
「ああ」
「しかし、見つかった自称・デニスは女だったんだよな?」
「そうなんだ」
「別人じゃねえか」
「そこがこの事件の複雑なところで…」
「アホかーっ!!」
危うくその辺のものをひっくり返しそうだった。
「別人だ別人!デニース・カッターさんと誤認しただけだよ!」
「ちなみにデニスくんにも妊娠経験は無い」
「あるかー!!」
第八節
ぜえはあと肩を揺らす巣狩。
「そんな調子じゃこっから先はまともな神経じゃ聞けんぞ」
「とっくにまともじゃねえよ」
「次、ジェイムズ・フィッツジェラルド・ジュニア。二十五歳。エンジニア」
「じぇ、ジェイムズだあ?」
「当然ながら男だ」
「当たり前だ!ジェイムズなんて女がおるか!SF作家じゃあるまいし」
「あきら」とか「つばさ」とか「ひろみ」とか「ゆう」みたいに日本にも男女どちらともつかないがどちらにも使用される名前というのはある。これはどの言語圏でも同じだ。
それで行くと「ジェイムズ」というと、無理やり日本語で表現するなら「権三郎」みたいな感じだ。間違っても女性に使われる名前ではない。
ちなみに過去には女性覆面作家である「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア」が存在していたので、巣狩のセリフはそれを踏まえたものである。
この名前なので覆面作家とはいえまさか女性だったとは思われておらず、正体を明かす前にSF作家にしてエッセイストでもあったアイザック・アジモフの文章の中で「彼」と書いてしまっている箇所がある。
ちなみにファンは「ティプトリー」と通称する。「ジェイムズ」じゃまるで男だからね。
「まさかそいつも赤ん坊におっぱいちゅーちゅー吸われてた状態で発見されたとかいうなよ」
「良く分かるな。その通りだ」
巣狩は嘆息して座りこんだ。
「ジェイムズは妊娠経験は無いが妊娠させた経験ならある」
「あーそー」
「二人の子供がいるよきパパだった」
「それがよきママになってたってか?」
「そういうことだな」
「あのなあ!」
大きな音を立てて立ちあがる巣狩。




