盛田出人の場合 その3 01
第三章 盛田出人の場合 その3
第一節
「今度はどんな事件だ?」
部屋に入るなり不機嫌そうに巣狩颯太は言った。
色白でブラウン気味の髪の色が印象的な公安刑事である。
「海外の事件だが…構わんか?」
こちらは色黒でたくましく真っ黒な髪の盛田出人である。
「捜査権の無い事件はどうもな」
「といってもちゃんと科学捜査もされていてその意味では大量の物証がある。なのに全く未解決で迷宮入り。あっちの警察も匙を投げた難事件だぞ」
「それをオレたちが後追いで書類見ただけでどうにかしろってか」
「興味ありそうだと思ってたんだがな」
くいくいとミネラルウォーターのペットボトルのキャップをひねっている巣狩。
「ま、興味はあるがよ」
「じゃ、概要を説明するな。事件は単純だ。アメリカ、オハイオ州の中でも人気の少ないバス停がその舞台となった」
「バス停?」
「そう、バス停だ」
「どんな事件だよ」
「いつもの行方不明事件さ」
第二節
「オハイオ州ってったってな。全くイメージが湧かん」
「俺だってそうさ。ただ、この場合は特に何州かってのは関係ないみたいだ。辺鄙なバス停ってところだけが重要さ」
「バス停で行方不明者が多発って話だよな?」
「そうだが」
書類を観ながら盛田が答える。
「何で行方不明だって分かるんだよ」
もっともな疑問を差し挟む巣狩。
「まあ、分かった数だけってことなんだろうがね」
「あのさ、アメリカ合衆国の年間行方不明者の数は知ってるか?」
「…いやすまん。調べて無かった」
ため息をつく巣狩。
「いやな話ではあるが、おおよそ年間100万人だ。その内8割以上が子供の誘拐事件。戻ってきたり発見されたものも含めれば毎年小さな…いや、大きな地方都市が消滅してるに等しい」
「え…」
「シャレになってない。平均すると1日2千人以上の子供が行方不明になってる」
さすがに怪訝そうな表情になる盛田。
「どうなってる。アメリカドラマ観てると特に子供の人権は第一に考えてる風だが」
「おめでてえな。逆だ逆!普段は子供が犠牲になる事件が多すぎるからフィクションで『大事に』連呼してんだよ」
「なんでそうなる?犯罪ロリコン集団の仕業か?」
「まあ、それもある。だが、多くが親族による誘拐事件だ」
「親族?」
「おいおい、デカ相手に雑学講座か?」
「すまんが頼むよ」




