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リチャード・ケイジの場合 38



第七十五節


「別に。ただ、メタモル能力を使って連中を成敗するってことは、イコールチアリーダーにするってことだ。とびきり美人の」

「…」

「それは、憧れのあの女子をその手で汚してる…あの日のあの女子を凌辱してるってことだ」


 ダニーは何も言わなかった。


「復讐は何も生まない…なーんてことは言わん。言わんさ。むしろお前が単に腕力や瞬発力が強くなるだけのメタモル能力者だったなら復讐も大いに推奨してたかもしれん」

「何だと?」

「しかし、能力がチアリーダー…ってことになるとなあ…」

「へっ!それこそバニーガールなら良かったってか!?」

「ある意味な。確かに“犯されざるものを犯す”快感があるのは認める。そういう方向の妄想もあるだろ。ただ、今のお前がやってるのは他人から受けたきずの復讐というよりは、過去の自分を痛めつけて…凌辱してる様にしか見えない。…本当にそれでいいのか?」


 あのお調子者のリチャードすら黙り込んだ。

 ダニーはつま先が痛かろうにハイヒールのままじっと立ち尽くしていた。

 長い、長い沈黙だった。


 ゆっくりと歩み寄ってきたダニー(バニーガール)は、濃い香水の香りを漂わせていた。体臭の強い西洋人の女性基準のそれである。

 そしてゆっくりとチアリーダーと成り果てているシンの胸に顔を埋めると静かに静かに泣き始めた。


 当のシンの方は『うっわ~その顔で押しつけられたらメイクべったり付いちゃうな~』などと思っていたのだが、ともかくそっと抱きしめた。


 …そうか、余り自意識が追いついていなかったが今のオレは恐らく女子高生くらいの年齢の肉体になっていて…何より白人の金髪碧眼の美少女となり、そして全アメリカ人の憧れのマトであるチアリーダーのユニフォームに身を包んでいるのだ。


 ダニーにとっては、「高校時代の憧れの彼女」の風貌そのまんまなのだ!


 いい年こいたおっさんとして、そんな役割を演じる羽目になるなんてゾッとしなかったが、ここはやり抜くしかない。

 これ以上言っても野暮になるので只管ひたすら優しく、バニーカチューシャを避けて頭を撫で続けた。

 いつの間にかダニーは元のナードスタイルに戻っていた。



第七十六節


「…という訳でリチャード、お前のことは勘弁してやるってさ」


 どうにかミニスカートから解放され、脚全体に生地が接触している感触…要はズボン…を取り戻して安堵しているシンだった。

 お互い元に戻ったのだ。


「助かるよ。と~ころでダニー!君は素晴らしいよ!」


 不思議なものを見る様な表情のダニー。基本が仏頂面なのは変わらない。


「…こいつはずっとこんな調子なのか?」

「出会ってからずっとね」

「いつ出会った?」

「今朝だよ」


 やっぱり肩をすくめるダニー。


「オレは諦めないぞ!ダニー!是非とも契約してくれ!」

「…今日みたいなメタモルファイトが見たいんだってさ」

「断る」

「幾らならいい?」

「金の問題じゃない」

「でーも、そこのシンは契約してくれたぞ」

「…何だと?」


 ギロリとシンの方を見るダニー。


「そう睨むな。こちとら根無し草でな」

「具体的にどんな契約をしたんだ?」

「…相手のメタモルファイター次第だが…それこそ定期的に試合を見せるってことで」


 ため息をつくダニー。



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