リチャード・ケイジの場合 37
第七十三節
「信じてもらえるかどうか分からんが、オレ…シンと呼んでくれ…は通ってた学校が良かったのか悪かったのか分からんがイジメにはするのもされるのも縁遠い方でな。そんなオレだがダニー、お前の受けた仕打ちは酷過ぎる。八つ裂きにしても飽き足らんだろう」
「…」
「お前が今までやってきた復讐やなんかを非難する気はない。お前がこれからやろうとしてることもな」
「…そいつぁどうも」
「ただ一点気になるんだ」
「ふん…良心の呵責がどうこうって御託なら聞かんぞ」
「いや、素朴な疑問さ」
「言ってみろ」
しばし視線を交錯させるチアリーダーとバニーガール。
「この格好さ」
両手で軽くスカートを持ち上げるシン。
「…チアリーダーがどうした」
「メタモル能力ってのは個人によって付与されるもので、そこには法則性だのメカニズムだのは余り見いだされなかった」
「…」
「つっても学生なら学生の制服だの、職業なら職業制服…みたいな例は多かったらしいがな」
「そうだろ?」
「でもオレは別に黒服として働いてた訳でもないし、ことさらバニーガールに縁がある人生って訳でもなかった。…理由は良く分からんのだ」
「…それで?」
また腕組みをするダニー(バニーガール)。
「お前がよりによって相手の男をクイーン・ビー(女王蜂)と同じスタイルにする能力を発現したってのは…複雑な構図だと思ってさ」
第七十四節
「一般論を言えば男は攻めの性、女は受けの性…ってことになってる。身長も体重も腕力も男の方が上回ってるし、何より男が主体的にリードしないことには性交渉も物理的に上手くいかんからな」
「…」
「日本にゃアメリカみたいなスクールカーストは無い…あっても分類が異なる。少なくともチアリーダーじゃない」
「じゃあ何だ。プロム・クイーンか?」
プロムとは高校で催されるダンスパーティのことで、男子はこのイベントに女子をエスコートすることが一種の義務とされる。
早熟なアメリカらしい催しだ。
当然、こうした華やかな場でスポットライトを浴びるのはスクールカースト頂点に君臨するアメフト選手やチアリーダーたちである。
その際、男女から「プロム・キング」「プロム・クイーン」が選出される。
首を振るチアリーダー(中身はシン)。
「いや、日本にはプロムの制度も無いんだ」
「そいつはいい。目立たなくて済むからな」
プロムの様なリア充臭ぷんぷんのイベントがダニーの様なナード(≒オタク)たちにとってどれほど苦痛かは説明するまでもないだろう。
「…だとしたら、お前らの学校でクイーン・ビーはどうやって分かるんだ」
「分かりやすい記号ではいないな。ただ、そうした存在はいることはいる。ここだけの話、オレにだって憧れの女子はいたもんだ」
「…それで?」
「複雑だと言ってるんだ。仰ぎ見る憧れの女子…なのに、にっくき男どもを貶める為に使ってる。女になりやがれ!ってな」
メイクでなく、頬を紅潮させるバニーガール(ダニー)。
「…それが悪いか?」




