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リチャード・ケイジの場合 02


第三節


 話があっちゃこっちゃカッ飛んだが、要するにシンは3万ドル(約360万円)という臨時収入がある。

 1日100ドル(約1万2,000円)使っても大体一年持つのだ。

 ドーナツとコーヒーのセットが1ドルで食べられる国でこの金額はちょっとしたものだ。


 流石に万事が雑…という表現では失礼にあたるので言い換えると「大雑把」…なアメリカとはいえ、都会の真ん中におっ建っている高級ホテルともなればそれなりのアメニティは期待出来る。

 一泊70ドル(約8、400円)ってのは結構なお値段だ。それこそケチのアメリカ人なら「部屋を借りるんじゃなくて買うのか?」なんてジョークが飛び出すだろう。


 一週間前払いしたのでいきなり500ドル(約6万円)近い出費になった。釣りの1ドル札の中に端が欠けている紙幣があった。

 おのぼりさんの日本人観光客なら血相を変えて交換してもらおうとするだろう。もっとも肩をすくめるジェスチャーをするだけで応じてはくれまいが。

 これは別に観光客を馬鹿にしている訳でも日本人を人種差別している訳でもない。

 アメリカ人は紙幣の角が欠けている程度の「細かいこと」はそもそも気にしないのだ。


 日本人にしてみれば、テキヤがやってる屋台のお釣りにだって欠けた紙幣なんぞありえないという認識だから、しっかり建物を構えた立派なホテルのフロントが平気な顔でお釣りで欠けた紙幣を出して来る神経に驚くだろう。

 世界水準で見れば日本の方が異端なのである。ついでに言うと日本の紙幣は技術の粋がつまりまくっているので、そもそもちょっとやそっとでは破れない。洗濯機に掛けても1回くらいなら耐えきってしまう…つまり、日本においては紙幣が破損することがそもそも少ない…という事情もある。

 閑話休題。


 その辺りをぜーんぶ整え、朝の散歩に繰り出した。

 ひんやりとした空気が気持ちいい。

 ニューヨークは確かにこの頃クリーン作戦が成功してかなり整然としたようだが、ボストンは更に洗練されている。なんというか無理に言えば日本でニューヨークが渋谷・新宿で、ボストンは青山とか田園調布みたいな。


 そこで意外なものをみつけて思わず「ほう」と言ってしまったのだ。


 それは「ゲームセンター」だった。



第四節


 時計を見るとまだ朝の6時なんだが、もう営業している。

 街に人通りも少なく、まるでゴーストタウンだ。


 しかし通勤時間帯になると一気に人ごみで溢れる。周囲にはヨーロッパ風に見える落ち着いた色合いのマンションが立ち並んでいる。石造りの壁に石の階段かよ。視界の一部だけ切り取ればアメリカじゃなくてヨーロッパに入るみたいな気分に…はならんが、それに近い雰囲気は感じられる。


 昨日は車で駆け抜けただけでこうして歩かなかったから分からなかったが、なるほどジョー…今はジェニー・キングがオススメしてくれるだけのことはある。

 パッチワークのための布きれの専門店だの、そして古本屋だのが角を曲がると目に入る。アメリカに限らず日本の書店の多さは世界的に見ても珍しいのだ。アメリカで日本の感覚で「街の本屋さん」を探しても簡単には見つからないことが続いていた本が嫌いではないシンにとって、古本屋なんてありがたいじゃないか。

 なんとも落ち着いたたたずまいが気持ちを豊かにしてくれる街じゃないかね。


 これまでうろついてたのが殺伐とした人ごみのニューヨーク、治安の悪いロサンゼルス、荒野だらけのテキサス、そしてけばけばしいネオンが印象的なラスベガスだ。

 どれもこれも「ザ・アメリカ」…もとい「ジ・アメリカ」と言う感じだった。


 ボストンはそのどれとも違う魅力がある。

 故郷を遠く離れたシンだったが、まるで日本の閑静な地方都市を思わせるな…と柄にもなく郷愁が湧いてきた。


 ゲームセンターに足を踏み入れたシンは呆れた。


 見渡す限りどれもこれも全部日本製ゲームなのである。

 そもそもアメリカは国土が広すぎて「全米の強者プレイヤーが一堂に会する全国大会!」みたいなものが開きにくいのだ。あったとしても巨大資本(またか!)をバックにして年に一回行える程度。

 日本の「全国大会」の規模が「州大会」と思えば近いだろう。


 アメリカ人が「各州代表」を集めてナンバーワンを決める大会をアメリカ国内でだけやってるのにすぐ「世界チャンピオンを決める」と言ってしまう気持ちも分からんでもない。それくらい広くてデカい国なのだ。



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