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リチャード・ケイジの場合 28


第五十五節


「うっ!」


 …ダニーが立ちあがり、そして全身を抱きしめる様に抱えようとする。


「うわ…ああっ!」


 薄汚れたノーブランドのスニーカーが黒光りするエナメルの表面へと変わっていき、かかとの下につっかえ棒が飛び出してくる。


「こ…これは…」


 つま先がとがる様に成形され、足の横幅も狭まり、足の甲だけが丸く露出する。

 ジーンズが脚全体にぴっちりと密着し、ヒップラインから脚線美までの丸みを強調する。


「おおっ!!」


 この声はリチャードである。

 ぴっちり張り付いたジーンズはもはやその分厚さは消し飛び、真っ黒に染まったかと思うと蜂の巣のように穴だらけになり、全ての穴が細かく広がって網状になった。

 …網タイツであった。

 ご丁寧に脚の真後ろには上から下まで「バックシーム」と呼ばれるラインが入っており、それがセクシーさをより強調している。


「この…やろ…う…」


 悪態をつこうとしているらしい美女の腕を覆っていた埃っぽく毛玉だらけのパーカーがどんどん短くなり、ノースリーブ状からキャミソール状、遂にはその肩ひもすら消滅して胸の形だけ押さえるお椀型に残る。

 そのお椀も骨組みが入った硬いもので、背中側は大きく開いて肩甲骨のラインまで見える。


「うっひょ~っ!!!こりゃあ最高のショーだぁ!!」


 リチャードが飛び上がりそうになっている。

 きゅっと絞られたウェストに従ってバニーコートが形成され、元の服はどこかに掻き消えていた。

 バニーコートはTバックよろしくハイレグになって脇腹まで見えそうに切れ上がっている。

 その上身体の脇に編み上げが出現しており、そこを先に金色のボールがついたひもによって結ばれていた。



第五十六節


「…お前…こんな能力を…」

「ああ。悪いな。知っての通りオレたちは好き好んでこんな能力持ってる訳じゃない」

「…」


 つや消しブラックのバニーコートの胸部分はお約束通り3/4ほどしか乳房をカバーしておらず、見下ろすと胸の谷間に大きく影が落ちる。

 動くと重みのあるゴツゴツと言う音がハイヒールを際立たせ、ざらざらとしたストッキング+網タイツの脚の感触がする。

 いつの間にかお尻の上にうさぎのしっぽを思わせる装飾品が付けられている。


 金髪碧眼にダイナマイトバディのバニーガールは、まるでプレイボーイのグラビアだった。

 なるほどその「押し」の強さは生粋の日本男児であるシンにはゲップが出そうな“迫力”である。

 もっとも、バニーガールともなれば“どちらかといえば”デブ一歩手前の「グラマー」体型の方が似合うのは間違いない。これがバレリーナなんだったら筋肉質のトリガラボディの方が似合う訳だ…。

 衣装によって体型の基準も変わるのである。


「…爪は短いままか」


 変わらぬ口調で黒バニーがつぶやいた。


「1/3ずつの約束だ。メイクやアクセサリー類は残りの1/3の積りだったんだがね」


 確かにいま目の前にいるバニーはうさみみ型のバニーカチューシャも付けていなければ化粧っ気の全くない“すっぴん”状態である。それでも問題ないほど美しいのだから、バッチリメイクを決めればさぞ妖艶になるのだろう。


「…いい心がけだ」


 強がりなのか何なのか分からないが、努めて冷静を保ちながら言う黒バニー。



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