リチャード・ケイジの場合 27
第五十三節
そこから先は1つめのゲームの再現だった。
ダニーは何だか知らんけど防御システムを使ってどうにか戦局を打破しようとしているらしいんだけど、シンがアホみたいに攻めて攻めて攻めまくるので考える前に攻撃が降って来る形だ。
シンは知らなかったが大パンチと大キックばかり使っていたため「レバー入れ」状態でのみ出る特殊技の「二段攻撃」がヒットしまくり、これによってダニーの操る女子高生はピヨピヨと音を立てて気絶してしまった!
…最後もおよそ経験者ならようやらんダサい二段攻撃でフィニッシュ。2本目を取り返した。
ダニーの自慢の勝率を見ると…4割弱。負け越しだ。
シンはそこまで知らなかったが、この成績は決して褒められたものじゃない。
一流プレイヤーなら6割の勝率は持っている。悪くても5割だろう。4割に届かないというのは絶望的な数値だ。
3本目開始。
またまたシンの思い付きプレイが炸裂した。
「レバー操作+ボタン」で必殺技が出るんなら、相手の近くによってレバーをぐるぐる回しながらボタンを連打すれば何かの間違いで何かの技が出てくれるんじゃないか?…という訳だ。
ヒドい話だが、天性の要領の良さでレバーをぐるぐる回している間に上方向に入るとジャンプしてしまうので、相手に飛び込みながら空中でぐるぐる回してボタンをバチバチ連打しまくった。
すると、空中で良く分からん技が出てこれがモロにダニーにヒット、更に地上に降り立つと同時に間髪入れずに別の技が炸裂した。
さしものダニーもシンの鬼の様な攻めに気付き始めたらしく、しっかり防御し、牽制して間合いを計ったりといった堅実プレイをやめて「全部飛び込んでくる」という前提で返し技を決め置きし始める。
この点、一日の長というところだ。
それはいいんだが、ダニーは特に防御が苦手らしく、3回に1回は当たってしまう。来るのが分かってるのにだ。
じりじりと体力は減り続け、そして最後…奇跡が起こった。…シンの方に。
デタラメにレバーとボタンを押しまくったお蔭で、通常技が当たったのを必殺技でキャンセルし、それを特殊行動で更にキャンセル、最後に超必殺技でフィニッシュ…というよほど練習しないと出ない一連のコンビネーションが“偶然に”繋がったのである。
派手なエフェクトとアニメーションが流れて、演出の果てに最後まで立っていたのは…シンの操る空手家だった。
ダニー操る女子高生はあざとくもスカートの中が見えそうで見えないポーズで倒れている。
「ひゃっはー!いええええええ!!」
空気も読まずにリチャードがはしゃぎまくる。
第五十四節
ドカン!と派手にコントロールパネルを叩く音がした。
ダニーが怒りの余り拳を叩きつけたのである。
ピリピリと緊張感の張り詰める雰囲気。
ダニーはわなわなとふるえている。
「おいおい!マナー悪いぞ!」リチャードが言う。
だが、シンはダニーを煽る気にはなれなかった。
恐らく「このゲームに賭けて」いたのであろうダニーの動きは先ほどのゲームに比べても格段に良かった。
細かく細かく小さく丁寧に積み上げられた技術が手に取る様に分かる。
それがガチャプレイに勝てなかったのだ。
もはやプレイヤーとしての自分の全否定に等しいだろう。
もしかして10試合やれば9試合はダニーが勝っていたのかも知れない。いや、100試合で99勝していただろう。流石にあんな奇跡はそうは続かない。
だが、その1敗目が最初に来てしまうところにダニーの「星の巡りの悪さ」を感じずにはいられない。
スタープレイヤーは単なる強さだけではなく、「勝つべき時に勝つ」運命を味方に付ける生まれ持ったものが求められる。
ダニーは技術だけでなく、そうしたものすら持っていない…と考えるしかない。
しかし、勝負は勝負だ。
シンは立ち上がると、茫然とディスプレイを見つめている金髪美女の元に歩み寄った。
「決まりなんでな…いいか」
「…」
ダニーはディスプレイを見つめたまま動かなかった。
一般的に女性は男性に比べてアクションゲームは苦手であると言われている。
脳の構造が違うのだろうか。その点は良く分からない。
メタモル能力によって女性化されたことがそうした女性の特性を引き出したのか…。
少なくとも、ゲームに応用できる形でメタモル能力が貢献はしていないらしかった。
「じゃ」
ダブついたパーカーの上から腕に触る。




