リチャード・ケイジの場合 26
第五十一節
元のキャラが原型を余り留めていないほどのアレンジ具合で、これを成し遂げるために幾ら使ったのかを考えるとドン引きするシンだった。
シンは主人公の柔道着みたいなのを着た無骨な男を選んだ。
別に渋い趣味という訳では無くて、単に以前使ったことがあるキャラがこいつしか見つけられなかったからだ。
こちとら確かに男を女にした上バニーガールにして思い通りにする…というマンガ顔負けの『能力』を持つに至っている。だが、それにもかかわらずと言うべきかそれ故にと言うべきかマンガ・アニメ・小説などの「作り話」に余りのめり込まない性格だった。
実写映画は人並みに観る方だったが、「役名」が覚えられず、常に俳優の名前で登場人物を認識するという体たらく。
アニメに至っては、「虚構である」としか思えないので全く見ない…という想像力の無さ。
なので、「作り話」に過剰にのめり込むオタク諸氏が若干羨ましいと思う反面、理解が出来ないところがあった。
ともあれ試合は始まった。
レバーに6つボタン。上方向でジャンプ、レバー操作+ボタンで必殺技…くらいは何とか覚えているが、コマンドなんかまったく覚えていない。
体力ゲージは何とか分かるが、それ以外にもあちこちにゲージがあって、相手が光ったり音が鳴ったり色々してるが何が起こってんだか全く分からん。
とにかく相手方向に飛び込んで色々ボタンを押す。
そうそう、下から前に回してパンチで何か出るんだったな。
流石にこれは一日の長があるらしく、順調に体力を削って行くダニーの操るキュートな女子高生。
「とう!」とか「えい!」とか「そーおれぇっ!」とか何とかいちいち喋るのが感心と言うかなんというか…。
こんなか弱い女の子が大男をパンチ一つで空中高く舞い上げてドカドカ連続技を入れるのがシュールとしか言い様が無い。
シンはプレイする内に色々思い出していた。
そうだった。レバーを相手と反対の方向に入れると「ガード」だったっけ。
やっと「ガード」と「下ガード」を1回成功させたところでシンの操る柔道家(?)の体力が尽きた。
第五十二節
「おいおい!シン!頼むぜ!オレはバニーガールなんぞなりたくねえよ!」
「外野は黙って見てろ!」
細かいことを言えばどうやらリチャードはメタモル能力=バニーガールだと思い込んでいる様だが決してそんなことはない。現時点でダニーの能力は不明だ。
だが、そんな細かいことをレクチャーしてるヒマはなさそうだ。
ラウンド2が始まった。
このゲームは2本先取らしい。
つまり、シンがこのラウンドを落とせば負ける。
防御の方法はどうにか分かったんだけど、守ってばかりいて勝てるとは思えない。
とにかく攻めるしかないだろう。
シンはふと思いついて中パンチと中キックボタン…縦並びの真ん中のボタン同士…を惜しっ放しにしてみた。
すると、妙なポーズを構えはじめるではないか。
…これはその…システムって奴だ。何だか分からんが。
どうしていいのか分からんのでそのままボタンを離す。
すると!そこにあちらから飛び込んできたダニー操る女子高生がモロにぶち当たる形になった!
「…っ!?」
ディスプレイ越しにダニーの動揺が手に取る様に分かる。
ええいままよ!
どうせ細かい使い分けなんぞわかりゃせんのだから、大パンチと大キックだけで戦ってやる!
そこから先は獅子奮迅だった。
どうやらレバーを下に入れた状態で大キックを出すと相手を転ばせることが出来るらしい。
飛び込んじゃ蹴りを当てて一瞬間があって足払い。かと思うと中ボタン同時押し…。
まるで思い付きプレイばかりなのだが面白いほど当たりまくる。




