リチャード・ケイジの場合 24
第四十七節
「…」
目の覚めるような金髪碧眼の美女が不機嫌そうに自らのダサ男ファッションを見下ろしている。
「女になるのは久しぶりか?」
「…」
別に挑発の意図はなかったんだがそう言ってみた。
意外に思われるかもしれないが、メタモルファイターとて変化した後自分の外見に完全に自覚的になれる訳ではない。
そもそも人間は鏡が無いと自己の姿を認識出来ないのだ。
「動物に鏡を見せる」実験が定番なのもそうした理由に寄る。
映っているのが自分であると認識できず、攻撃しようとする小動物などを眺めて人間は溜飲を下げたりしている訳だが、その人間とてモデルや年ごろの女性でもない限りは日々まじまじと自分の姿を見つめたりはしないものだ。
恐らくダニーは…恐らく彼自身が高校時代に憧れて止まなかったであろう金髪美女になっている自覚も余りあるまい。
「次はあれだ」
そう言って咳払いするダニー。
立ち上がるが、あちこちのバランスが崩れているのか軽くふらつく。
「…大丈夫か」
「放っとけ」
女にされたことよりも、ド素人に星勘定で完敗したショックの方が大きいのだろう。口数が少ないダニー。ちなみに「ダニー(ダニエル)」という名前は男女どちらでもありえる。
第四十八節
ひゅう、と口笛を吹くリチャード。
女性を口説く体制だ。
本気じゃあるまいがこいつも節操が無い。美女なら誰でもいいタイプなのか?
ちなみにこういう風に「女として」扱われてカッと頭に血が上るメタモルファイターもいるが、全く気にしないタイプもいる。ついでに言えば結構まんざらでもないタイプもいたりする。
見る限りはダニーは余り気にしないタイプに見える。
アップライト筐体の反対側に返事も聞かずにどっかと座り、先ほどと同じく勝手にクレジットボタンを押すダニー。
ピロン!というコイン投入を確認した電子音が鳴る。
「シン!」
「…どうした?」
「髪を結んでくれ。邪魔だ」
「あ…ああ。そうだな」
これはメタモルファイター同士ならではの会話だ。
背中まである長い髪は女性なら手持ちのヘアゴムなどで作業時は結んだりするのだろうが、メタモルファイターの多くはそうした物を常備したりはしていない。
自分で自分を変身させられず、衣類に関しても同様なので、この場合変化させた相手に「処理」を頼むしかない。
相手の髪型をヘアピンやヘアゴムなどでアレンジすることまで併せ持ったメタモル能力であることが大半なため、頼んできたのだ。
仮にもアクションゲームをするのに長い髪がふわふわしていたんでは気が散るってことなんだろう。
「結構大きめにしたが、胸は大丈夫か?」
「構わん」
これは「必要ならブラジャーまでしてやるぞ」という意味だ。
男同士にしては特殊な会話だが、これもメタモルファイター同士ならではだ。
ちなみにシンは能力的に「ブラジャー」を持っていないので実際には不可能なんだが一応言ってみた。




