リチャード・ケイジの場合 22
第四十三節
「よし、それならメタモルファイト成立だ」
「ああ」
さあ、これでどちらかが相手の能力を喰らい切るまで終わらない戦いが始まってしまった。
「一つはオレに選ばせてくれ」
「…そうだな」
「あれだ」
巨大なアップライト筐体。日本のゲームセンターではもう余りお目に掛かれない50インチディスプレイの前にベンチみたいに2人座るタイプのボディに納まった3Dポリゴン格闘ゲームだ。
全てのキャラが武器を持っており、縦斬り・横斬りを使い分けつつ、リングアウトありという独自システムを持っている。
実は通り一遍しかやったことが無いが、今朝の戦い様を見ているとこれなら確実に一勝は出来そうだったから選んだのだ。
残りの2つはダニーが選んだ。
一つは日本でも有名なタイトルで、もう一つはいかにもアメリカンな毒々しい雰囲気の名前も知らない格闘ゲーム。
ダニーは脇から下げていたポーチから鍵束を取り出すと蓋をあけ、適当にクレジットボタンを連打した。
昔は店員が閉店後によくこうやって「ただでゲーム」をしていたものだ。
蓋を占める。
「いいのか?売り上げが下がるぞ」
「それより相方の心配しとけ」
促されるまま隣に座る。この筐体は迫力はあるんだが、いざ対戦となると隣同士で雰囲気が微妙になるので内気な日本人には合わなかったんじゃないかと思っている。
「Round one Fight!」
格好いいおっさんの声で試合が始まった!
第四十四節
それなりの年だろうに垢抜けず、幼稚性の抜けない風貌ながら、それが「凄腕のゲーマー」的な雰囲気を醸し出していたダニーだったが、勝負は一方的だった。
セオリーも何も無く、所謂「ガチャプレイ」で適当にレバーをガチャガチャさせ、ボタンを連打しまくるシンの操る三船敏郎みたいなサムライキャラが、ダニーの操る「女戦士」みたいなのを押しまくる。
ちなみにこの「女戦士」は若いころのオードリー・ヘップバーンを目一杯ロリ美少女にしたみたいな細い風貌で、見えそうなミニスカートに露出度の低いブラウスの上からビキニみたいな鉄製の鎧(?)みたいなのを身に着け、くりっとした瞳に金髪のショートカット…という何とも甘ったるいキャラだった。
あっという間の第一ラウンドだった。勿論シンの勝利。
このゲームは一ラウンドの決着が早いので、デフォルト(初期状態)では「三本先取」であり、このゲームセンターでもそうなっていた。
第二ラウンド。
ダニーの操る女戦士はシンの操るサムライの剣劇を見たことも無いエフェクトとともに弾き返した!
「!?」
ニヤリとするダニーの表情。
だが、実はダニーの見せ場はそれくらいだった。
どうやら特殊な操作で出来る「防御」系のシステムらしいが、どれだけ返されようとも構わず攻撃しまくるシンの前に、発動精度がせいぜい「3回に1回」くらいしかないシステムではどうにもならんのである。
誰が見ても「テクニック」ではダニーの圧勝なのだが、そんなものお構いなしの野生児みたいなシンのキャラが結果的には勝っていた。終わってみれば体力はお互いにほぼゼロ。
それでいて勝ったのはシン。
あれだけのテクニックを披露出来るのに、適当にやってる様にしか見えない初心者に毛が生えた様な相手に負けたんじゃさぞ悔しかろう。
追い込まれたダニーの第3ラウンド。
スタートと同時に空中にかち上げられるサムライ。
そこから、延々と続く凄まじい「コンボ(連続技)」が始まった。
シンもギャラリーとして見ていたなら拍手喝采したくなるほど見事なものだった。
…だが、見せ場はそれくらいだった。
仕切り直しから始まったシンの怒涛の反撃…って毎回やってることは同じなんだが。




