リチャード・ケイジの場合 19
第三十七節
そうなのだ。確かにそう言ってる。喜んでとまでは言わんが、「お前の方がガマンすれば済むことだ」と確かに言っているのと同じなのだ。
「何も頭を叩き割って脳みそをストローで吸い取ろうと言ってんじゃない。男が女になるだけだ」
「それはそうだが…」
「平和的な解決だと思わんかね?」
「一応訊くがこれまで手に掛けた8人のその後もリサーチしてるんだよな?」
「一部はな」
「どうなってた?」
にやりとするダニー。メガネが光る。
やっとこいつに生気の宿った表情が見られた。
「それぞれさ。独立してる奴もいたがその日から行方不明扱い。結婚してやがったマヌケは一家離散だ」
そうだろうな。一般人をメタモル能力で食えば当然そうなる。
「いいだろう。勝負してやる」
何故か勝手に話が決まった様だ。
「ちょ、ちょっと!ちょっと待ってくれ!」
リチャードが割り込んできた。
「ぶしつけな仕事で悪いがダニー、今の君の仕事は?」
「…何か関係あるのか」
「もしも良かったらウチの事務所…じゃなくてボクと契約してくれないか?」
怪訝な表情を浮かべるダニー。
第三十八節
「契約…って何の話だ」
「キミはメタモルファイターなんだろ?」
「その様だ」
「つまり、メタモルファイター同士で戦えば過程がどうあれ、最終的には元に戻れるんだよな?」
「だからそれがどうしたってんだ!」
ぽんぽん、と身体のホコリを払うリチャード。
「ここにいるシンもメタモルファイターだ。つまり、世にも珍しいメタモルファイター2人が揃った形な訳だ」
シンとダニーの視線が交錯する。お互いに「別にそこまで珍しくねえよな」と言っているが口には出さない。
「だったら何も無駄にドツキあう必要なんかない。こんな薄汚れた場末のピンボール場じゃなくてもっと相応しいリングを用意するぞ!」
「場末で悪かったな!」
「いや、そういう意味じゃなくて…」
フォローできん。
「とにかく!ボクは言ってみればパトロンだ。メディチ家みたいなもんだ」
「…どちらかというとローマ貴族だな」
聞こえない様にポツリと言うシン。
「二人のファイトが見られるんなら幾らでも払う積りだ!ダニー!もうコンプレックスを抱く必要なんてない!復讐なんてヤメヤメ!これからはだな」
「断るね」




