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リチャード・ケイジの場合 01






第一章 リチャード・ケイジの場合



第一節


「ほう」


 口に出すつもりは無かったが思わず出てしまった。

 地理的に言えばかなり北の方になる東海岸、ボストンの繁華街にシンタロウ・オガタは立っていた。

 気ままな一人旅は国際免許を頼りに大陸を横断することとなってしまった。


 何しろ「アメリカ合衆国」ってけ国は自動車産業が結託して都市型鉄道を潰しまくったお国柄だ。モータリゼーションと言えば聞こえがいいが、要はおのれの会社の商品を買ってもらわんがために産業構造そのものをそれ専用に改造しちまったんだから大胆不敵だ。

 今じゃ都会を走る路面電車は壊滅。全部が自動車によって賄われ、地球の大気内にばら撒かれる排気ガスの大半を生成している。

 簡単に言えばアメリカ合衆国と言う国は「自動車中心」に出来上がっているのである。


 何しろしょっちゅう大統領が大手自動車会社のトップを大名行列よろしく引き連れて来てよその国に「いいから買え!」とねじこんでくるのを「営業」だと思ってんだから恐れ入る。

 少なくとも日本みたいに狭い路地ばかりの国でバカでかいアメ車なんざ使いにくいことこの上ない。大体燃料を撒きながら走ってるも同然の燃費だ。

 まあ、それらに目をつぶったとしても未だに、「貿易摩擦」…実はこれ日本の官僚の造語で英語だと「トレード・ウォー」つまり「貿易戦争」なんだが…の時代ならともかく、二十一世紀に入ってアメリカ自動車産業が完全に傾き切った今に至るまで日本市場向けに「右ハンドル」の車すら作ろうとしない横着ぶりだ。

 要はアメ車が売れないのは日本人には魅力的じゃない…買いたいと思わないってだけの話だ。アメリカさんが大好きな「市場原理」って奴。

 ただ、アメリカが言う「フェア」ってのは「自分たちに都合のいい」と言う意味なので、まっとうに市場原理が働き、実力どうりに負けただけなのに、自分たちが負けていると「アンフェアだ」ってことになる。


 …アメリカが別に嫌いな訳じゃない。こうしてうろついてる訳だし。

 ただ、どうしても調べれば調べるほど細かいところが気になってしまう。


 新幹線ですら分単位で通常営業する日本の感覚だと、国内に砂漠があり、東西に広すぎて国内だけで4時間の時差があり、テキサス州だけで日本列島が幾つも入っちまうほどデカい国なのにここまで鉄道が未整備でクルマにばっかり頼っているのが分からん…って話だ。


 とはいえ、その分って訳でもなかろうが飛行機産業は発達している。

 2時間だ4時間だの飛行機乗り継ぎをちょっとした長距離バスみたいな手軽な感覚でひょいひょいこなすのには舌を巻く。

 最も911テロの後はそれなりに近距離飛行機であっても手荷物検査が厳しくはなったみたいだが。


 ともあれ、やっとこさ繁華街の大きな駐車場付きのホテルに落ち着いて、面倒臭いのでとりあえず一週間分を前払いしておいたところだ。


 ヒッチハイク中心だったので余りお世話にはならなかったが、実は「モーテル」こと「モーターホテル」は苦手だったのだ。



第二節


 「モーテル」こと「モーターホテル」とは、雑に言えば「ドライブスルーのホテル」みたいな感じだ。

 別にスルー(通過)しちゃうわけじゃなくて、クルマでやってきて泊まれる簡易ビジネスホテルみたいな感じといおうか。郊外に駐車場と共に建っていることが多い。

 正にクルマ中心社会が生んだサービスである。車に乗りっぱなしで全てが済んでしまうファーストフードの「ドライブスルー」の発生を説明する必要は無かろう。

 カーラジオに音声を配信するスタイルで駐車場に巨大スクリーンを掲げて、車に乗りっぱなしで映画を観るという「ドライブイン・シアター」なんてのもあった。つーか確か今でもある。

 60~70年代のアメリカ映画にはしょっちゅう出て来る。

 そういうところで掛かっている映画ってのは、バカが半分寝ながらでも理解できるタイプが多い…ひどい偏見だが。

 やれゾンビだのホラーだのカーアクションにバイオレンス、あとセックス…。要はそういうことだ。

 そんな状態で映画見ても助手席の彼女といちゃつくのに忙しくて映画の内容なんぞ頭に入るまいに…とシンは思っていたもんだ。


 話をモーテルに戻すが、ビジネスホテルとは表現したが日本のそれをイメージしない方がいい。ラブホテル…ともまたちょっと違う。

 一言でいうなら「場末の安宿」って表現がぴったり来る。

 日本人にはそのなんとも締まりの無い語感も引っかかるところだ。


 足を踏み入れたら空調のきいたひんやりとした空気が…なんてことはまず期待出来ない。

 そもそもロクに洗濯も掃除もしてないんじゃないかというほど埃っぽいし、ぶっちゃけ何か匂う。

 部屋に設置された冷蔵庫に入っていた飲み物を飲んだ分だけチェックアウト時に清算…なんてスマートなことはまず期待出来ない。

 アメニティなんてヨーロッパで流行の食べ物ですか?ってな感じだ。


 風呂…もとい、シャワーもトイレも共同だったりと正に「値段相応」というところか。

 流石にこの頃はかなり施設の充実したモーテルも登場して来ているというが、少なくともシンが宿泊したモーテルはそんなんばっかりだった。

 流石に貧乏旅行が過ぎたか。


 …一番の理由は、隣に逃亡中の犯罪者でも泊まっとりゃせんか?という疑心暗鬼だ。

 サスペンスやらミステリードラマばかり見過ぎた弊害だ。

 常時逮捕されていないシリアルキラーが20人はうろついているというお国柄で、その猟奇殺人の多くの舞台は郊外の田舎…最もアメリカは国土の九十九パーセントは田舎なんだが…である。

 ずらっとならんだ宿泊客の車の後部トランクの中にさらわれた美女がさるぐつわでうーうーうめいてたり、バラバラになった死体が詰め込まれてたりしても別に驚かない。…いや、流石に驚くか。


 子供の頃に観た安いB級スプラッタ映画では電飾の故障で「地獄」モーテルになっちゃった店で精神に異常をきたした兄弟が宿泊客をぶっ殺しまくっていた…なんてのもあった。

 恐ろしいのがそんな調子で客をリピーターにする道を絶ちまくっていながら(そりゃな)、かなり長いこと発覚もしなかったって設定にそれほど違和感が無かったことだ。

 …戸籍が無い多民族国家って恐ろしいんだなあ…といらんところで社会勉強をしたもんだ。



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