リチャード・ケイジの場合 16
第三十一節
朝の静かな様子が嘘のように店内は喧騒に包まれていた。外はもう夕方で薄暗くなっており、店内の明るさが硝子に反射して外が見えにくくなっている。
喧騒といっても、店内がお客でごった返している…と言う風ではない。
あちこちに置かれたマシンのほぼ全てに電源が入り、めいめい勝手にそれぞれのゲームの音をがなり立てているのでやかましいのだ。
これはゲームセンターにありがちな現象だ。
ヴォリュームを大きくするゲームとそうでないゲームをより分けないと結局どのゲームの音も聞こえなくなる。
確かに改めてみるとレトロな雰囲気だ。
アップライト(画面が立ちあがっている)形式の台は店の壁側に設置され、中央はテーブル型ばかり。
日本においてはまず喫茶店に設置されることが多かったため、ゲーム台であると同時にテーブルの役割も兼ねていたのだ。
画面が真上を向いていて硝子も分厚いので必然的に照明が映り込み、画面が恐ろしく視認しにくい。
その為、このテーブル型の筐体がメインのゲームセンターは照明を抑え気味にすることが多く、必然的に店内全体が薄暗くなる。
この薄暗さが不良のたまり場となる「ゲームセンターの治安の悪さ」に貢献することとなる。
「おい、シン…出ようぜ。どうしてもゲームしたけりゃ買ってやるから」
「…買う?」
「ああ。ここのテーブル型のゲーム機、一つ幾らだ?5千ドル(約50万円)か?」
「…いや、どいつもこいつも年代ものだ。高くても千ドル(約10万円)ってところだろ」
その時だった。
「お兄さんたち」
生気の無い声が響いてきた。
シンとリチャードが振り返ると…そこにはいかにも垢抜けないナード(オタク)ファッションに身を包んだ男がいた。
第三十二節
「よく来たね。ボクと勝負しない?」
こいつどっかで見覚えが…そうだ、法律事務所街に向かう前に格闘ゲームでボコボコにしたあのナードだ。
「…勝負とは?」
用心深く尋ねるシン。
「ここゲームセンターだよ?当然ゲームさ」
ふう…とカウボーイハットを押さえる仕草をするシン。カウボーイハットは被っていないのだが。
「オレのこと覚えてる?」
「朝の兄さんだろ?」
「あの時はオレが勝ったと思ったが」
「あれで勝った積り?」
ナードくんの表情が変わった。間違いないだろう。
「リック、お望みが適ったかもしれん」
「何だって?」
「メタモルファイターだ」




