リチャード・ケイジの場合 14
第二十七節
「レンタカーでも借りるか…繁華街を渡り歩こう」
「だったらオレが運転するよ」
早くも立ち上がるリチャード。
「…お前、さっき酒飲んでなかったか?」
「そうだった。お前運転してくれ」
「オレが?保険とかは?」
「心配ない!事故なんかめったに起きないって。前向きに。免許はあるんだろ?」
「国際免許を持ってるが」
「それでいける」
「…リック、お前仕事は?あんな立派事務所があるじゃないか」
「オレはシニアパートナーだぞ?ボス!オレが社長なの!1日や2日無断欠勤したってクビにはならないの!クビにするのはオレなんだから」
「ま、そりゃそうだが…」
あの痩せぎすの早口女はそういうのを許してくれそうな雰囲気じゃなかったがね…と言いかけてやめた。
「もしかして逃亡すると思ってる?」
「まさか!お前にとってもいい話だからな。逃げやせんだろ」
「探すのこれからなんだぜ?土地カンだってないし。丸一日無駄足ってこともありえる」
「だったら尚更だ。このオレ、リチャード・ケイジは生粋のボストンっ子だ。ボストンはオレの庭さ。路地裏見りゃそこがどこだか分かる」
「…そりゃ頼もしい」
「オレのカンじゃあ、ハーバード大学にゃあ2~3人はいると見たね」
「…将来のビル・ゲイツじゃなくて今のメタモルファイターがねえ…」
第二十八節
そんなこんなで市内のあちこちを流している。
「ハーバードにはいなかったな」
駐車場に停めて校内をうろついたんだが、特に気配は感じなかった。
実に開放的な雰囲気の大学だった。
あと、リチャードの野郎、ハーバード卒だってのを隠してやがった。
「言ってなかったか?すまんすまん」
「頭いいんだなお前」
「まあね。でもジョーの方が常に順位は上だったぞ」
「上には上がいる…か」
「お前も一度ハーバード入って見ろ。どんなお山の大将でも鼻っ柱をへし折ってもらえるぜ」
「…考えとくよ」
ショッピングモールにボストン・コモン(公園)、繁華街などを車で流したり、停めて歩き回ったりしてたが全く気配を感じなかった。
街中に意外なくらい「屋台」が多く、ホットドッグだのフライドポテトだのを売ってる。それをビシッとスーツで決めた紳士淑女だろうと平気で買い食いして歩いてるのだ。
見るとモデルみたいな色男だろうがその辺の路肩に腰かけてサンドイッチを広げてたりする。
日本の銀座や丸の内では余り見かけない光景だろうな。
「やっぱりアメリカってのは開放的で自由な国なんだな」
「ん?日本にゃ屋台はないのか?」
いつの間にかソフトクリームなんぞ舐めてやがる。
「屋台くらいあるが、真昼間からビジネス街にはねえよ」
「どうやってヒルメシ食ってんだ」
「普通に定食屋とかに入るさ」
「時間掛かるだろ」
「まあな」
「時間が勿体ない。移動中でも効率的につかわにゃ」
「働き虫だな。日本人のことを笑えんじゃないか」
「しかし昼にメシの時間もぎゅうぎゅうに仕事を詰め込むから夕方から遅くても20時には帰るぞ」
「…そっか」
「21時に始まるニューヨーク・ブロードウェイのショーを見たりジャズのライブを観たりさ」
思わず肩を竦めそうになった。本物のアメリカビジネスマンの口から「ブロードウェイ」などという単語を聞くと嫌でもアメリカをうろついてる気分になる。実際うろついてるんだが。




