1.奇妙な夢
「貴様、一体何者だ!?」
突然聞こえた大声にびっくりして意識が戻った。
ん?ここはどこだ・・・?
確か俺は自室でゲームをしようとしたところで寝落ちたんだったよなぁ・・・。
周囲を見渡すと何やら偉そうな人々が一斉に俺の方を見ている。
なかでも軍人っぽい人は軍刀を抜いてこっちに向けてるし。
うん、わけが分からない。
混乱していて突っ立ているうちに衛兵が呼ばれ、すぐにでも俺を取り押さえようとしている。
「閣僚会議の最中に突然現れるとは怪しい奴め。こやつを取り押さえよ!」
指示を受け衛兵が行動を開始する。
「えっ、ちょっタンマタンマ」
そう言いながら逃げようとするも包囲網を突破することはできそうもない。
(だめだ、捕まる・・・!!)
そう思った俺に救いの手が差し伸べられた。
「こいつが何者であれ、何もないところから突然現れたのは参謀総長もみていただろう?
只の人間では無いようだし、少し話を聞いてみようではないか。」
そう声が聞こえた方を見ると、そこには俺が写真でしか見たことのない伊藤博文がいた。
あれ、伊藤博文は1909年に無くなっていたはず・・・。
ってことは今は何年なんだ?
これは俗に言うタイムスリップってやつだよな・・・。
衝撃のあまり、言葉を失った俺に対し伊藤博文から質問が投げかけられた。
「それで、君は一体何者なんだね?」
ようやく再起動を果たした俺は周囲を見渡しながら言葉を発した。
「俺・・・いや、私は未来から来た日本人です。ところで今はいつのなのでしょうか?」
「未来から・・・ということはこれからの歴史を知っているわけだね。
今は明治28年。日清戦争が終結し、講和条約である下関条約の内容を詰めているところだよ。
ところで、君が未来人であることを証明できるような物を何か持ってはいないかね?」
そう言われ、ポケットをまさぐるも残念ながら寝間着には何も入っていなかった。
ああ、携帯ゲーム機があればなぁ・・・。
そう思った次の瞬間、俺の手には携帯ゲーム機が握られていた。
驚きつつも取りあえず電源を入れてそれを見せた。
「ほう、確かにこれはこの時代の技術で作れるものではないね。
君が未来から来たというのは本当のことのようだ。
ところでこれは一体何という道具で、何に使うものなのかね?」
「これは携帯ゲーム機と言うもので、娯楽に使うものです。
今見せているのは第二次世界大戦を舞台とした戦術ゲームで、要するに軍の図上演習のようなものです。」
「ほう、それは素晴らしいものだね。それで第二次世界大戦とは一体なんだね?」
あー、そっか。
この時代では第二次はおろか、第一次世界大戦すら勃発していないんだ。
説明するのが面倒臭いからパソコンぐらいがあれば良いんだけどなぁ・・・。
そう思って脳内で(パソコンよ、来い!)などと念じてみるも今度は一向に現れる気配がない。
なぜだ。
携帯ゲーム機は召喚できたのに。。
仕方なく言葉で説明をすることにする。
「第一次世界大戦はセルビアの...」
長々と第二次世界大戦の終わりまで説明を終えると、閣僚達は内容に大きな衝撃を受けたのか皆一様に押し黙っていた。
重い空気を振り払うべく、仕方なく俺が口を開く。
「今は下関条約の内容について詰めているところなんですよね?
それなら、韓国を併合せずに独立させたままにしてみれば良いんじゃないでしょうか?
そうして浮いたインフラ整備の予算を国内で使うことで国力の増強を計りましょう。」
「うーん、ではそうしてみるか・・・。ところで君はこれからどうするんだね?」
そう疲れ果てた顔で伊藤博文は言う。
はて、俺はどうすれば良いんだろう?
こんなパソコンもない時代で一生暮らすのは御免だぞ。
(ああ、未来に帰りたい。)
そう思った瞬間、体が透けはじめると同時にあらがいようのない眠気が襲いかかってきた。
(やべっ、ゲーム機回収しとかなきゃ)
そう思い、ゲーム機の方に手を伸ばしかけるが意識が途切れる方が早かった。
結局、ゲーム機を掴み損ねたまま驚き慌てる大臣達の声を聞きながら俺は再び意識を手放したのであった。
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小鳥のさえずる音が聞こえる。
目を開けるとそこには見慣れた自室の天井があった。
ボーっとする低回転の脳味噌で、なんとか体を起こしたところで昨夜の夢を思い出す。
はっと慌てながら枕をめくると、そこには当たり前のように携帯ゲーム機が存在していた。
(あれは夢だったのか・・・?やけにリアルだったが。。)
そう疑問に思いながらも、母親の朝食を告げる声を聞いた俺はゲーム機を掩体壕に突っ込みつつ部屋を飛び出したのであった。