番外編 ミカちゃんとパン屋 後編
「ミカちゃん。さみしい気持ちは一緒だよ。オレも、独りモノの仲間だって思ってたテツが急に運命のお相手を連れて来て、マジかって思ったし」
「んなっ! べ、別にわたしは・・・っ」
思っても見ない方向に話が変わっていることに気づいて焦る。なに? さみしいとか。
「あー、いいから、いいから。普通そうだって。
仲のイイ友達がいきなりケッコンなんてなったら、ええ!?ってなるよね。オレなんてさ、信じられなくて自転車追いかけて走ってたもん」
「はあ?」
「いや、それがねー、テツってばパン買って帰り際にさらっと言うんだもん。結婚したからってさあ。へ?ってなるでしょ! 詳しく聞こうとしてんのにそのまま無視でさー、追いかけてんの気づいてんのに止まってくれないんだよ! オレ、あっちの大通りの交差点まで走ったもん」
「・・バカ?」
カンタンに想像できる。「まってよー」とかって言いながら走るパン屋と、そ知らぬ顔でスイスイ自転車を漕ぐ魔王。綾乃はセンセーの後ろにくっついてて、「ちょ、先生、止まってあげなきゃ駄目ですよ」とかって慌ててる。
あー、ダメ。パン屋、おもしろい!
「あははっ! あんた、バカねえ」
一度笑いだしたら止まらなくなっちゃって、しばらく笑った。
こんなに笑ったの久しぶりかも。
ようやく収まって顔を上げると、パン屋がなんか驚いた顔して見てた。
「なによ?」
「ミカちゃん!」
急に両手を握られる。驚きすぎて反応できなかった。
「笑った顔、チョーかわいいっ!」
「!!?」
「パン食べた時も紅茶飲んだ時も、美味しいって顔、かわいかったけど!
今のがいっちばんかわいかった!」
「な・・、ちょ、・・」
パン屋は目をタレさせてにこーって笑う。握ったわたしの手をブンブン上下に振る。歌でも歌い出しそうな陽気っぷりで。
「は、離せバカ! この変態セクハラパン屋が!」
わたしは思いっきりパッチーンと頬を引っ叩き、その勢いで鞄を掴んで靴を履いてその場を逃げ去った。
パン屋から走って走ってようやく交差点まで来た。全力疾走したので息が上がってる。信号待ちでゼイゼイと呼吸を整えた。
その時!「待って待って、ミカちゃん」と声がした。
振り返ると変態セクハラパン屋が追いかけて来る。ちょ、うそでしょ!?
別の方向に走り出そうとすると、「わー、待って待って!」とすごい勢いで呼び掛けられる。
うう。こんな人混みの中で・・・。でかい声出すなっつーの!
「もうっ! なによ!」
「逃げないで、ミカちゃん。もう触らないし、変なコト言わないから。・・ハイこれ。おみやげ」
紙袋を渡されてつい手を出してしまう。
「美味しく食べてくれてありがとう。パン屋冥利に尽きるよ。
今度はテツと綾乃ちゃん誘って、四人でお茶しようよ。じゃあまたね、ミカちゃん!」
一方的にしゃべって、パン屋は走り去って行った。陸上選手のような速さで。
カサリと袋を開けてみると、焼き立てのいい匂い。ぎっしり入ったパンはどれもこれも美味しそう。
・・・はっ、いけないいけない。パンで絆されるところだったわ。
あんなセクハラパン屋、もう二度と行くもんですか!
*****
そう思っていたのに三日後、わたしはまたそのパン屋を訪れることとなった。
なぜなら綾乃が誘ってくれたから。
「美味しいパン屋さんがあってね、嶋田さんにも食べてみて欲しくて。今日の放課後、一緒に行きたいなって、思うんだけど・・・。あ、何か用事があったらいいからね?」
モジモジ恥ずかしそうに初めて綾乃から誘ってくれた。
それがアイツのとこなのは何か癪だけど、行かないわけないでしょ!
オッケーって返事をした後のあの嬉しそうな顔と言ったら!
もう写メ撮ってセンセーに送りつけてやりたいくらいだったわよ。
それをきっかけに、綾乃とパン屋のカフェスペースで週イチくらいでお茶してる。
二人で行くとアイツはうるさいし、ちょっかいかけてきてウザいし、途中でセンセーが乱入してくることもあって、綾乃とゆっくりおしゃべりもできない。
でも、でもでも、悔しいけど!
ここのパン、超おいしーんだもの! パン屋のいれる紅茶も私の好みドンピシャ!
ちょいちょい変わるお店のところどころに置かれた小物も、チェックするの楽しいし。
センセーと一緒にいる綾乃はいつもの五割増しでかわいいし!
だからまあ。
しょうがなく、来てるのよ。
なによ、なんか、文句ある!?
これでおしまいです。
このあと、パン屋の健人は、バンバンアプローチを続けるそうです。ミカちゃんとはいつか、上手くいくんでしょうか( ´ ▽ ` )
明日は、綾乃と先生の番外編を出します。引き続き、よろしくお願いします!




