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番外編 ミカちゃんとパン屋 中編

奥には厨房スペースがあって、そこも通り抜けると、小さな和室にたどり着いた。

い草の匂いのする畳にレトロな雰囲気のちゃぶ台。桜模様がかわいい座布団をすすめられて、そこに正座した。あっちのカントリーな感じも好きだけど、こっちの和モダンな感じも好きだわ。こいつと趣味が合うとか、なんだか、ヤな感じだけど。


ちょっと待っててと言われて、待たされること五分。いい香りのパンと紅茶の乗ったトレイを持ってパン屋が入ってきた。

「はい、どうぞ」

ちゃぶ台の上には可愛いランチョンマットまで敷かれて、手際良く並べられるティーセットはまるでお店のようにステキだった。

あ、こいつ、パン屋だった。お店か。


「どうぞ」と勧められてカップを口にした。な、なにこれ・・!

「・・・おいしぃ」

口から勝手に言葉が出た。ハッとして向かいに座ったパン屋の顔を見れば、にこにこ度合いが五割り増しになってる! しまった。喜ばせてどうすんのよ。

「な、なんなのよ、話って! いいから弱点を教えなさいよ!」


パン屋はくすくす笑いを収めて、自分も紅茶を飲んだ。

「えーっとー、まずね。ミカちゃんは、二人の結婚に反対なの?? 別れさせたいとか、思ってるワケ?」


真面目トーンで質問されて、少し落ち着いて答える。

「・・そういう訳じゃないわ。くやしいけど、綾乃は幸せそうだし、先生のおかげですごく笑うようになったし、キレイになったし。・・・くやしいけどねっ! 」


落ち着いていたのは最初の五秒だった。

思わずバンっとテーブルを叩く。


「でも、先生の気持ちがずうっと続く保証はないでしょ? だって一目惚れなんだし。

パーッと燃え上がった恋は短期間で熱が冷めるのってよく聞くじゃない。

もし、そうなったら綾乃が泣くわ。だから、その時の為に、戦う準備をしとかないとって思うのよ」


一気に話し終えて、今度はパンを食べてみた。なにこれ! 超うまっ! 外のディニッシュ焼きたてみたい・・パリパリ。チーズクリーム、めちゃくちゃ美味しい。普通にケーキ屋のチーズケーキより美味しいじゃんっ!

目が合うと嫌なので、食べることに集中した。そしたらすぐに食べ終わってしまった。しまった、がっつき過ぎたかしら。まあいいわ。

視線を上げるとパン屋と目が合う。

なによ、人の食べてるトコ、ジロジロ見てんじゃないわよ。

笑うな、と睨みを効かせると、パン屋は慌てて姿勢を正した。



「う、うーん、まず、誤解があるみたいだね。テツは、あんな顔してるけど、そんなに悪い奴じゃないんだよねー。実はすごーく、イイ奴なんだよー」

「ハッ、イイヒトねえ。超自己中男じゃないの」

言うに事欠いて、イイヤツとか! ありえないでしょ。

つい乾いた笑みを浮かべてしまう。この表情、我ながら悪人っぽい自覚はある。

わたしの顔を見て、パン屋はハハと苦笑いしてる。


「自己中に見えるのはまあ・・・、テツは自分の本能に忠実だからね。

でもテツは嘘は絶対つかないし、自分の信念を曲げるようなこともしない。誰に何を言われても、当たり前みたいに、自分の生き方を貫いてる。テツってホントすごいオトコなんだよ!」


ふうん、と思いながら聞いていた。

パン屋は拳を握って一生懸命語ってる。ナニがそんなにあんたを熱くさせてんのって思うくらい。


「あんな無愛想な男なのにさ、俺をはじめ、シン君やマユちゃん、他の奴らもテツに構うんだ。自分のこと、テツに認識して欲しくて。

テツは基本的に他人に興味のない人間だから、こちらから積極的にアプローチかけてかないと、そこらへんの木くらいにしか思ってもらえなくて通過されちゃうんだよね」

「バッカみたい。そんな奴に認識されなくて結構じゃないの。一人にさせとけば」

「それがねえ、なんか惹きつけられるモノを持ってんだよ。

テツは。王者のカリスマとでも言うのかなー・・」


はは、と頬を掻きながら笑うパン屋。ナゼそこでそんな照れ臭そうな顔すんのよ。

あいつはあんたのなんなのよ。


「テツは、一度自分の懐に入れた相手は大事にするんだよ。

ぶっきらぼうだし、あの顔で愛想なんてこれっぽっちもないけどね。

オレもシン君もみんな、困ってた時にはテツに助けてもらってる。テツは絶対に見捨てたりしない。絶対に。だからオレ達はテツが好きなんだよね。

ホントはミカちゃんだって、わかってるんでしょ? あの二人は別れないよ」


私が何も答えてないのに、パン屋はうんうんと一人で頷いて語り続ける。


「メロメロだもんね。まさに溺愛って言うの?

アヤちゃんがいなくなったらテツ、発狂して死んじゃうんじゃない?

テツから手を離すなんて、有り得ないよ。

せいぜいしつこく付きまとい過ぎて嫌われないようにしなよってテツには言いたいね。

アヤちゃんに手を出そうとする男が現れようものなら、そいつは地獄を見るだろうねぇ」


想像した。「俺のアヤにっ」とかって叫びながらを次々と男を殴り倒して行く、みたいな。うっわあー、こわぁ。ボッコボコだよ。ラスボス並みの魔王だ。


パン屋は自分で焼いたパンをバクっと頬張って、今アタマに魔王サマ浮かんだでしょって笑う。


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