番外編 ミカちゃんとパン屋 前編
綾乃の友達、嶋田 美歌李のお話です。綾乃だーいすきなミカちゃんは、先生を敵だと思っているようです(笑)
わたしは今日、目的があってここに来た。
決してパンを買うためでも、ナンパされるためでもない。
・・そりゃあまあ、ここはパン屋だけど。こんなチャラ男が出てくるなんて聞いてない!
「オレ、折原健人。見ての通り、パン屋さんだよー。キミは?」
目の前でニコニコニコニコ笑ってる男以外、この小さなお店には誰もいない。となると綾乃から聞いた人物はコイツで間違っていないんだろうけど、やだなあ・・。
キライなタイプ。
背が高くて茶髪。いかにも、自分がイケメンだって分かってます、的な感じがイヤ。
店内は小洒落たカントリー調で、棚に飾られてる雑貨や小物もすっごく好みで。
ズラリと並ぶパンも全部おいしそうなのに!
この男だけがどうも気に入らない。
「・・嶋田美歌李。綾乃の友達」
ついつい声も低くなるし、ぶっきらぼうになる。
なのにこの男、お構いなしにニコニコ顔を崩さない。
「いやあ、可愛いコのお友達は可愛いって法則を裏切ってないね。
すばらしい!
あ、ミカちゃん、よかったら、パン、食べてく? 新作はクリームチーズのデニッシュだよー。ほおら、みんな好き好きチーズケーキ風。紅茶もつけるよー」
なにこのふざけたオトコ。ペラペラどんだけ喋るのよ。軽過ぎ。
こういうのをマトモに相手してたら時間の無駄。とっとと聞きたい情報だけもらってズラかろっと。
やたら近づいてくるので、手を前に突き出してガードした。寄ってくんな!
「・・あんた、坂口センセーのお友達なんでしょ?」
「うん、そうだけど」
にーっこり笑うのが、なんかムカっとする。こっちは真面目に聞いてんのよ。にたにたユルい顔してんじゃないわよ。
「テツとは中学、高校と一緒でさー。腐れ縁ってヤツだよー」
「センセーの弱点、知ってる? 知ってるでしょ? ねえ、教えてよ。なんでもいいから!」
突き出してた両手で折原健人の胸ぐらを掴んでガクガク揺さぶった。
バンダナを巻いた頭がブンブン揺れる。
「わー、女子高生に迫られてるー。ヤバい、鼻血でそ・・・あ、ウソウソ! 冗談だから、そんなドン引きな顔しないで!」
変態発言に呆れる。
だいじょうぶなの、コイツ。
変態パン屋は慌てふためいた後、ごほんと咳をして自分で仕切り直した。
「・・・なんでテツの弱点?」
「綾乃とセンセー、先週、結婚したのは知ってるでしょ」
「もちろん。びっくりしたよー」
「わたしはまだ、センセーを信用してない。綾乃が弱ってる時につけこんだっぽいし、傍若無人な感じだし。もし綾乃が泣かされるようなことがあったら絶対に許さないんだからッ! 」
自然と声のボリュームが上がってしまった。
「・・・ あっちは大人だし、魔王様だし、強そうなんだもん。弱味の一つや二つ、握っておかないと太刀打ちできないでしょ」
だから、と続けようとしたのに、ぶはっと盛大に吹き出された。
「あはははははははっ! キミ、最高ー! それ、めっちゃ面白い!」
「何がおかしいのよっ! こっちは本気なのよ!」
腹を抱えてバンバン壁を叩いて笑う姿に私の怒りも爆発する。
どーせわたしの沸点は低いわよ。なんか文句ある?
「もういいわ。アホらしい。変態パン屋を笑わせる為に来たんじゃないっての。綾乃の従兄弟のおにーさんに聞くわ」
くるりと回れ右して出て行こうとすると、「わあ、待って待って!」とかなりの大声で呼び止められる。
うるっさいわねえ。わたしも声はでかいほうだけど、こんなに煩くないわよ。
「ゴメンゴメン、笑って。ミカちゃん。ちょっとオレもマジメに話したいコトあるし、座って話そうよ」
「・・・紅茶、いれてよね」
こっちは渋々言ってんのに、ぱあっとやたら嬉しそうに返事が返される。
「もちろんだよ。ミルクティーは好き? 最近美味しいミルクティーにハマってるんだよねー」
さあどうぞ、とにっこり笑って、わたしの腰に手が伸びてきたのでパシンと叩いてやった。
「いって! スンマセンっ!」
フン。気安く触るんじゃないっての。
続きます\(^o^)/




