表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/55

48 赤い薔薇の花束

学校も終わって、嶋田さんと一緒に教室を出た。

朝からゴキゲンな嶋田さんは、フンフン鼻歌を歌っている。何かいいことがあるらしい。聞いたら「ナイショ」って言われた。

「でも、綾乃もすごーくハッピーになることよ。でもまだナイショ。

あー、ホントは言いたいんだけど! でもやっぱりナイショ」って。

ニヤニヤ笑って言うから、気になる。

「あ、帰り、どっかに寄って行くってこと?」


実は先週、初めて、学校帰りに嶋田さんとクレープのお店に行った。

美味しかったし嶋田さんとのおしゃべりは楽しかった。時間も忘れて話してたら携帯が鳴って、なんだかんだで先生がクレープ屋まで迎えに来てくれることになった。


可愛いピンクの店内に現れた先生は、周りがどよめくぐらい異質なオーラを放っていたけど。

先生は心配性で、委員会とかちょっと遅くなったりしても迎えに来てくれる。

迎えに来てくれた時は、「遅いぞー」なんてことは言わずに「楽しかったか?」

と一言だけ聞いてくる。ほんと先生はやさしい。



私が聞くと、嶋田さんはニヤーっとますます楽しそうな顔になった。

「ハズレ。今日はどこにも行きませーん。先約があるから」

? じゃあ、なんだろう・・。


帰りの下駄箱のところで、ドタバタと逆行する女子生徒が数名。

わたしと目が合うと、きゃあ、と叫ばれた。なに?


「ねえ、早く校門、行きなよー!」名前も知らない女の子が、笑いかけてきた。

「いとしの彼が、おまちかねですよぉ」他の子も。

「・・・え?」先生が?

なんでまた、学校に? なんか用があるって言ってたっけ?


隣の嶋田さんを見ても、首を傾げられる。・・・けど、すごくイイ笑顔。

なにか知ってるのかな。ハッピーって先生が来ること?




靴を履き替えて昇降口を出ると、また知らない何人かに声を掛けられる。

「すごいわね。お幸せに!」「ステキだわあ」「ドラマみたいよねえ」

???

いったいなんのことだろう?



校門のところにまたしても白い車と、先生が・・・スーツを着て大きな赤い薔薇の花束を持った先生が立っていた。

今日はカツラはかぶってない。いつもの先生。

その場に固まってしまった私を、嶋田さんが手を引いてく。

先生の目の前に来るまで、私は驚いて、ただ先生を見つめていた。


「アヤ・・」

いつもの声より甘く感じる。

せんせい、かっこいい・・・!! こんなバッチリ決められたら見惚れてしまう。


ずいっと目の前に差し出された花束。

止まってしまっている私にふっと優しく笑うと、「ほら」と腕に乗せられる。

すごく大きな花束はずっしり重かった。

こんなの、映画や小説でしかないと思ってた。

女の子なら誰でも密かに憧れるシーンだ・・・。

ぽかんと花束を見つめていると、先生が花束ごと私を抱き上げた。


「結婚するぞ、アヤ」


まさか今日、こんな場所でそんなことを言われるとは思ってなかった。

目をパチパチさせていると、頬に唇が寄せられる。

くすぐったい。

「アヤ、返事は? まあ、イエス以外は受け付けないが」

先生らしい。

びっくりの連続だったけど、ようやく頭が追いついてきた。

じわっと込み上げてきた喜びで、顔が緩む。嬉しくて自然と言葉が出た。


「はい、先生」


その瞬間、周りを囲んでいた何人もの生徒がわあっと歓声をあげ、拍手をした。

「おめでとー!」「まじかよ、すっげ」「なに? プロポーズ?」

パチパチパチと祝福の拍手が響く。


「これで、俺の嫁だ」

言い終わったと同時に先生の唇が私のと重なった。

触れるだけのキス・・と思ったらいつものように先生の舌が入ってきてギョッとした。

「んっ」

ちょっと先生、みんなの前でっ!

「コラコラコラ! 健全な高校生達の目前でナニ始めるつもりなのよ、あんた!」

「シマ、うるさい。俺の嫁になにしようと俺の勝手だ」

「バッカじゃないの!? 綾乃が恥ずかしい思いするでしょ!」

私を抱きかかえたまま、嶋田さんと先生はギャーギャー言い合いを始めた。

この二人、何だかんだ言って仲良くなってる、のかな。



・・・結婚するぞ、だって。

さっきの先生の言葉が何度も頭の中で繰り返される。

嬉しくて、目頭が熱い。

ああ、しあわせ。本当に、しあわせ。

私は抱えた薔薇の花束に顔を寄せて、一生に一度きりの今の幸せを噛み締めた。


次で、最終回です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ