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46 父の親友

久しぶりに会った翔平さんは、にっこり笑って私の頭を撫で回す。

翔平さんは細めな父とは正反対でちょっとワイルドな外見の人。

ガタイが良くて、髪はパーマがかっている。口ヒゲが渋い。


「元気にしてた? ちょっと見ないうちにずいぶんと大人っぽくなったなあ。

・・・そこで俺を睨んでるカレのお陰かな。綾乃が綺麗になったのは」

クスリといたずらっぽく笑われる。


私の背後にいた先生はずいっと私の前に出た。

「あまり人の女に気安く触らないでください」

「ちょ、先生・・」

先生の大きな背中に阻まれて見えないけど、

いつも笑顔の翔平さんでもあんまり変な事を言うと怒るだろう。

父から、怒ると超怖いって聞いているし・・、大丈夫かな。


「綾乃。お見舞いありがとう。もうすっかり元気になったからね」

オロオロしていると、横から父が出てきて、ぎゅうっと抱きしめられた。


「おや。総司はいいの?」

「父親ですから。・・嫌ですけど、我慢してます」

「ヤなんだ。ははっ。聞いた通りの溺愛っぷりだねえ。テツ君」


カラカラ笑う翔平さん。眉をひそめてしかめっ面している先生。

えっと、私はどうすれば・・


困っていると、慎兄ちゃんが出て来て助けてくれた。

「さあ、ご飯はできてるよ。いつまでも玄関で話してないで、入って入って」

「はじめまして。マユです。綾乃ちゃんのお姉さまでーす」

マユさんのおしゃべりが始まって、一気にその場の雰囲気は明るくなった。




テーブルいっぱいに並んだ料理。

まずはその華やかな見た目を、父と翔平さんは手放しで喜んでくれた。

もう、親バカなんだから、と思いつつも嬉しくて頬が緩む。


「じゃあ、総司さんの回復を祝って、乾杯!」

みんなでグラスを持って乾杯して、お食事が始まった。

先生はもちろん私の隣。

今日はやめてってやんわりと言っておいたのに、いつものように「もっと食え」

って私の口に運ぶのはヤメテください!

父は顔を赤くして苦笑いしてるし、翔平さんは面白がってる。


「あんまりべったりだとウザくない? 疲れちゃうでしょ? ねえ、綾乃」

翔平さんがグラスを揺すりながら聞いてくる。

「い、いえ。あの。ちょっと、慣れてきましたし」

慌てて両手を振ってそう答えるけど、翔平さんは片目を細めて笑う。

「そうは見えないけど。顔、真っ赤だよ。カワイイ」

「・・あなたには関係ないでしょう」

先生は睨みながら、低い声で返した。


「・・・ふうん、そんなこと言っていいのかなあ」

先生の言葉に翔平さんは肘をついて、にやりと笑う。あ、ワルい顔だ。


「俺は総司よりも小さい頃の綾乃をよく面倒見てたんだぜ?

オシメだって替えてやったし、お風呂にも一緒に入ってた。なあ、綾乃」

「そう、でしたっけ?」

そう言われると、幼稚園に上がる前にはよく翔平さんに遊んでもらってたって、母から聞いた覚えがある。

小さかったしあんまり覚えてないけど。


「えー、忘れちゃったの? オジさん寂しいなあ。でも、うちに帰れば証拠写真がいっぱいあるはずだから。見てご覧。総司が羨ましがって大事な取引先との接待を早めに切り上げて帰って来るくらい、よく一緒に過ごしてたんだぞ」

なあ、と翔平さんが父の肩に腕を置く。

「だって翔平、ズルいんだよ? 僕が仕事してる時に、綾乃ときゃっきゃしてる写メとか送ってくるんだよ! そりゃもう仕事する気なんてなくなっちゃうよ」

「というわけだから、テツ。

俺も綾乃のパパ的存在なんだから。俺とも仲良くしろよ」


ほら、とビールの入ったグラスを先生の方にくいっと持ち上げる翔平さん。

先生は数秒止まった後、グラスを手に取り、それに合わせた。


「・・・アヤに近づかないなら、善処します」

「ははっ! お前、おもしろいなぁ」

カチンと小さく音がして、翔平さんはにかっと笑った。


先生は相変わらずの仏頂面だけど、さっきよりは眉間のシワが緩んでいる。

「よーし、飲もう飲もう、テツ。

小さい頃の綾乃のカワイイ話、聞かせてやるよ」

「是非」「すぐに食いついたな、オイ」

楽しそうに笑う翔平さん。

みんな楽しそうに飲んでる。そんなに飲んで大丈夫かな・・とちょっと気後れしちゃうくらい、ハイペースでビールの缶が開けられていった。




*****


食べ始めて二時間も経ったころには、まず父が酔いつぶれてテーブルに伏せってしまった。お父さん、お酒弱いもんね。


マユさんもべろんべろん。

「しょうがないお姫さまだね。ほら、マユ。おいで。

綾乃ちゃん、片付けは明日の朝するから、このままにしておいていいからね」

「んー、シン、ぎゅーってしてえ」

「はいはい、お部屋でゆっくりね」

甘い雰囲気を漂わせながら慎兄ちゃんはマユさんをお姫様抱っこして行った。

見てただけで赤面してしまいそう。付き合ってないって言ってたけど、マユさんも慎兄ちゃんのこと好きなんだろうな。あの甘えっぷり。



「さて、俺らも帰るよ。テツがザル過ぎて、俺の方が潰されそうになったし」

翔平さんは父を腕を肩にかけ、半分引きずるように玄関まで行った。


「あ、あの、翔平さん。父のこと、本当に、いつも、ありがとうございます。

母が亡くなって、一番ショックを受けた父を支えて下さって・・」

感謝の気持ちで深く頭を下げると、ポンポンと叩かれた。

「まあ、長年のトモダチだからね。当然だよ。

これからはメシも睡眠時間もバシバシ指導してくから。任せて」


翔平さんが優しく笑う。

「綾乃、幸せになれよ。うんとうーんと、めいっぱい幸せになれ。

・・・莉乃もそれを願ってる」

そしてわしわしと頭を撫で、「じゃあなー、テツ。また一緒に飲もうぜ」と手を振って帰って行った。



と、同時に。

先生に後ろから抱きしめられた。


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