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45 お食事会

今夜は皆でお食事会。

いつも四人で囲むダイニングテーブルに二つイスを追加して、お父さんと翔平さんを招く予定。

私と慎兄ちゃんは朝から夕食のご馳走作りに取り掛かっている。


「さすが手際いいね、綾乃ちゃん。そのレシピ、今度教えてよ」

「このサラダ、簡単なのに美味しいの。あ、慎兄ちゃん、オレガノある?」

「あるある。スパイスは一通りあるよ」

慎兄ちゃんと料理をするのはすごく楽しい。

今日のメニューも二人で何を作ろうかあれこれ考えた。


食材がいっぱい詰まった冷蔵庫を見ると、なんだか嬉しくなる。

だって、これは食べてくれる人がいるってこと。とても幸せなことだから。



「アヤ」

突然腰に腕が回されて驚いた。先生が私の髪に顔を埋めてくる。

「ちょ、せ、先生! お料理中!」

「アヤが食べたい・・」

耳元で囁くように言われて、顔がカーッと熱くなった。

「アヤ・・」

「はい、ストップ」

慎兄ちゃんの大きな手が迫って来た先生の顔をべちっと叩いた。

「シン」

邪魔をされて先生は怒りのオーラを纏う。でも、地を這うような低い声にも、慎兄ちゃんは動じない。

「はいはい。今日はお客様も見えるんだから。盛っちゃ駄目だよ、テツ。

ほーら、今から僕らはご馳走作るんだからね。お邪魔虫はあっち行った。

あっちでマユと話してれば?」

「・・・あいつと話してると無駄に煽ってくるから、余計にアヤとシたくなる」

「じゃあ買い出し行って来て。酒。あと、綾乃ちゃんの好きそうなジュースも」

「わかった。・・・アヤ、行ってくる」

ちゅっとキスをして、先生は出掛けて行った。

「いって、らっしゃい・・」

完全に言い遅れた私は、閉まったドアに向かって呟いた。



やれやれ、と慎兄ちゃんが大きく息を吐く。

「人が変わったみたいだよ、ホント。今までのテツを知ってる奴があの溺愛ぶりを見たら腰を抜かすんじゃないかな、きっと」

くすくす笑いながら慎兄ちゃんはスルスルじゃが芋の皮を剥いている。

私も慌てて次のメニューに取り掛かった。


並んで、お互いに自分のメニューを作る。

「今、何を入れたの?」とか「それ教えて」とか言い合いながら。

慎兄ちゃんはグツグツとお鍋を掻き混ぜながら話した。


「・・・テツが昔言ってたんだ。愛情ってものがよく分からないって。

両親からも兄弟からも愛されて育っているのに、どうして自分の心は欠落してるんだろうって」

「そう、なの?」

「テツの実家は遠いから、お正月くらいしか帰っていないんだけどね。

すごく明るくて良い人達だよ。あのご両親からテツが出てきたのが不思議になるくらい。初めて会った時、ウチの子こんな顔だけど怒ってるわけじゃないのよ。

悪い事してたら叱ってやってね。仲良くしてやってねって言われたんだ。

おかしかったよ」

先生のご両親・・あんまり想像できない。

「きっと次、帰省する時には一緒に連れてかれるよ。んで、家族に紹介されて、そのまま式はいつにする?なんて話になったりして」

「え、ええー・・・」

慎兄ちゃんはカラカラと楽しそうに笑う。


「綾乃ちゃんには最初から積極的に関わっていってたみたいだね。

今までのアイツは誰にも何に対しても無関心でさ。

僕らと一緒にいるのだって、僕らが全部お膳立てして、しつこいくらい誘ってようやく、なんだよ?

だから、綾乃ちゃんに関してはテツが自分から動いてるのを見て、正直驚いた。

ああ、テツも好きな子ができて変われたんだなあって、本当に嬉しく思ったよ」

「そう、なんだ」

「そうだよ」慎兄ちゃんは優しく微笑む。



「綾乃ちゃんも、ずいぶん変わったね」

「え? そ、そうかな」

「うん。恋すると女のコはキレイになるって言うけど、正にそれだね。

総司さんも、喜んでた。綾乃が幸せそうだって。あーあ、うらやましいね。

僕も早く二人みたいにいちゃつきたいよ」

「え!? 慎兄ちゃん、好きな人いるの?」

「ん? マユだよ。僕は大学生の頃からマユ一筋。ずうっとアプローチ中だよ。

いっつもスルリと逃げられちゃうんだけどね」

全然気づかなかった。びっくりして固まった私を見て、慎兄ちゃんは笑って続ける。


「マユは猫みたいなんだよね。自分から気まぐれに甘えに来てくれるクセに、こっちから追いかけていくと逃げて行っちゃう。

だから時間をかけて慣らしていこうと気長に餌付け中なんだよ。

ほら、胃袋を掴むって言うでしょ」

包丁をキラリとさせて慎兄ちゃんがフフフと笑う。ちょ、こわいんですけど。




「さて。頑張って作ろうか。多めに作らないと全部テツに食べられちゃうもんね」

「うん、先生、いっぱい食べてくれるもんね」

先生は体も大きいし、慎兄ちゃんやマユさんと比べてすごく食べてくれる。

私の作ったものは特にすごい勢いで食べる。慎兄ちゃんみたいに、どこがどうとか言わないけど、ぺろっときれいに完食して「美味かった」と一言。

それが、ものすごく嬉しい。


「綾乃ちゃんもテツの胃袋をがちっと掴んでるよね。まあ、あいつの場合、綾乃ちゃんがいれば後はどうでもいいとか本気で思ってそうだけど」


・・・それは、よく言ってくれます。先生。

真顔で言うから、冗談で流すこともできないし、いつも困っちゃうんですけど。



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