43(テツ)シマの計画
二人で話している間に、この女に一体何があったのか。
さっきまで俺に対して敵意剥き出しだったのが、収まっている。
それどころかご機嫌に、俺に話しかけてくる。
本当に、訳がわからん。
まあ、アヤが嬉しそうだから、それでいい。
「坂口センセ、さっきは失礼なこといっぱい言っちゃってゴメンね。
綾乃を思うあまりの親心だと思って許して。
坂口センセのこと、まだよく知らないけど、綾乃をここまで変えてくれたって事実だけで十分。あんたは綾乃の彼氏として合格だわ」
・・合格だと言われても。俺はお前に合格点をもらおうがどうだろうが、別にどうでもいいんだが。
シンがコーヒーをいれて、四人でテーブルについた。
アヤは来週に学校に戻る手続きを取りに行くようだ。
「ちょっと、言っておきたいことがあるの」
そいつは渋い顔をして話し始めた。
「・・・綾乃が事故にあったってことは全校生徒が知ってる。純粋に心配してくれてる人も多いけど、やっぱり興味本位のヤツも多いわ。
そんな中に、今の、可愛くなった綾乃が復学したらあれこれ噂してるヤツが、群がってくること間違い無し! 狙われるわ!」
確かに。その通りだ。
俺は頷く。
「ちょ、あの、嶋田さん? そんな大袈裟な・・・」
アヤは少しオロオロとうろたえている。
「なに言ってんの! 綾乃は自分で自分がわかってないのよ!
今までだって隠れ美少女の綾乃を男子共の目から隠すのにどれほど苦労してきたか、知らないでしょう!?」
その剣幕にビビっているようなので、気持ち体を前に出してアヤを隠した。
ソファに座っていたならもっとくっついていられるのに、椅子は隣に座っても距離が空くから好きじゃない。
「ね、坂口センセーは分かるでしょ? もう綾乃の可愛さは隠せないところまできちゃったって! っつーか、センセーのせいでしょ。
こんな・・・色気まで身に纏っちゃって!
可愛さと儚さと色っぽさを併せもつなんて最強すぎる・・・!」
くぅーっと拳を握って悔しがっている。変な女だが、正にその通りだ。
「まあまあ、落ち着いて」
シンに窘められて、そいつはコーヒーを飲んで一息ついた。
「私、イイコト考えたの。坂口センセーにとってもメリットが大きいことよ」
俺を見定めるようにじっと見て、にっと不敵に笑った。
「このまま学校に戻ったら、綾乃は男子に囲まれること間違いなし。
私がそばにいる時は追っ払ってあげれるけど、安心はできない。
坂口センセーだって可愛い彼女が他の男に言い寄られるのは不満でしょ?」
「勿論だ」
「自分のものだって誇示しておきたいでしょ? でも、学校に押しかけて、俺のだから手を出すなって凄んだって逆効果よ。綾乃がヤクザと付き合ってるとか後ろ指さされて、あることないこと噂される。そんなのイヤでしょ?
だから、ちょっとした演出をするわけ」
「演出?」
「そう。いい? まずはね・・・」
といわけで、俺はこいつの監修のもとちょっとした茶番を演じることになった。
と言っても、内容としては手続きのために学校に行ったアヤを車で迎えに行くだけのこと。
服装についてはマユにコーディネートしてもらえばいいと、シンが口を挟んだ。
「いい? 坂口センセ。あんたに綾乃の学校生活がかかってんだからね!
気合いれてやりなさいよ!」
「わかった。お前にどうこう言われなくても、アヤの為ならなんだってする」
「ちょっと、オマエはやめて! 失礼でしょ! 私は嶋田美歌李って名前が・・」
「シマ、声がでかくて五月蝿い。小さくしろ」
「うるっさい! 気軽に人の名前を略して呼ぶな!」
名前で呼べと言ったから呼んだのに、呼んだら呼んだでやっぱり五月蝿い奴だ。
けど、シマのことでアヤは悩んでいたようだから、解決してホッとしていることだろう。
シンも総司さんも友達は大事だと言っていた。
学校では何かあっても俺は助けてやれないし、シマは強そうだからアヤにとっていい味方になるだろう。
「シマ。学校ではアヤのこと、頼む」
「あ、あんたに言われなくったって、わかってるわよっ!」
怒鳴られた。
本当に五月蝿い女だ。早く帰ってくれ。