41 友達 vs 恋人
「ばかっ!!! なんで連絡くれないのっ!
心配したでしょ! 綾乃のバカバカバカバカっ!! 」
電話を掛けると、プルルと二秒も鳴らさないうちに嶋田さんは出てくれた。
そして、ドッカンと雷を落とされた。
すごい大きな声で、思わず携帯から数センチ耳を離す。
「もう、もうもう! 来ないでなんてメールよこすし! 病院もいつの間にか退院しちゃっていなくなってるし、お家に行ってもいつも誰もいないし、携帯も電源切ってるし!! どこかに行っちゃったのかと思ったわよ! 先生に聞いたら学校には休学届けが出てるっていうしっ・・・!
なんで・・っ、どこに、どこで、なにしてたのよおっ!!!」
一気にまくしたてた嶋田さん。ゼイゼイと荒い息が聞こえる。
「もうっ、わ、わたしがどんなに心配したか・・・!」
「・・・ご、ごめん」
「いいから、今、どこにいるの? 体はだいじょうぶ? ケガは? ちょっと、聞いてるの? 綾乃!」
すごい勢い。口を挟むタイミングを逃してポカンとしていたら、もう一度
「綾乃っ!」って怒鳴られた。
「アヤ、うちに来てもらえ。ここで話せばいい」
先生が横から言うと、その声が聞こえたのか嶋田さんが反応した。
「誰? 今の綾乃のパパ? 今から行っていいの? 待ってなさい、すぐ行くわ!」
「あ、ま、待って待って、嶋田さん。私、今、自宅じゃないの。
その、・・・い、従兄弟のお兄さんのところにお世話になってて」
嶋田さんに住所や目印を告げると、
「オッケー、すぐ行くから!」と電話は切れた。
「先生、良かったんですか? ここに呼んでしまって」
「ああ。その方が話しやすいだろ」
でも、嶋田さんに、いろいろ・・その、聞かれたら・・。
きっと、聞いてくると思う。先生のこととかも。
そしたら、なんて答えればいい?
ピンポン、と軽快な電子音が鳴り、ドンドンとドアを叩く音が続いた。
え? 嶋田さん、早過ぎない!?
まだ、さっきの電話から三十分も経っていない。
先生が玄関を開けると、嶋田さんは私めがけて突進して来た。
「綾乃!」
ぎゅうっと抱きしめられる。
「ああ、本物の綾乃だ! よかったあ! やっと会えたよお!
急にいなくなるし、携帯も繋がらなくなっちゃって、悪いヤツに、どっかに連れ去られちゃったんじゃないかって心配したのよ! 怪我は? もういいの?」
相変わらずの勢いで、嶋田さんはしゃべりまくる。体を離して私のことを、頭のてっぺんからぽんぽんと身体検査みたいに触って無事を確かめてる。
「おい、やめろ」先生のストップが入って身体がくるんと回ったと思ったら、先生の腕の中に収まっていた。
「ちょっと、あんた誰よ!?」「アヤは俺のだ。気安く触るな」
「俺のって、綾乃は私の親友なのよ!? 」「俺はアヤの恋人だ」
「はあー? え? ちょ、マジ?」
キっと嶋田さんが私を見る。私はブンブンと首を縦に振った。
ところが嶋田さんは眉間にシワを寄せ、「ウソでしょ?」と先生に詰め寄った。
「アンタ、純真な綾乃につけこんで、迫ったんじゃないでしょうねえ」
「だったらなんだ」
「綾乃はねえ、穢れを知らない天使のような存在なのよ! 男子禁制」
「残念だったな。もう心もカラダも全部、俺のものだ」
「ぎゃあ、綾乃が汚されたあ!こんなとこに綾乃を閉じ込めて。犯罪よ!」
「なんだと・・」
「はい、そこまで」
睨み合う二人の間に割って入ったのは、天の助け、慎兄ちゃんだった。
今ちょうど帰って来たみたい。
「綾乃のイトコのお兄さん? あ! 病院で会った、えーっと、河合先生!」
「はい、こんにちは。何度もお見舞いにきてくれた、嶋田 美歌李ちゃん、だよね。
今日は綾乃ちゃんに会いにきてくれたのかな。
どうもありがとう。玄関先で立ち話もなんだし、中へどうぞ。
お茶でもいれるよ。ケーキもあるし」
「わあ、ありがとうございまーす! 」
さっきまで眉毛を吊り上げていた嶋田さんの表情がパアッと明るくなった。
さすが慎兄ちゃんだ。




