35(テツ) 告白
マンションに帰ると、アヤが部屋の掃除をしていた。
俺はただいまも言わずにアヤに駆け寄り、抱きしめた。
「アヤ」
彼女は一瞬逃げるような動きを見せたが、すっぽりと俺の腕の中に納まると、大人しくなった。
「アヤ。逃げないでくれ」
懇願すると、顔を伏せたままアヤはふるふると首を横に振る。
「ご、ごめんなさい。私・・・前と、同じようにできなくて」
小さな声は掠れていて、震えている。
よく見ると、その小さな身体も震えていた。
「先生のこと、ちゃんと見れなくてごめんなさい。あの・・避けるみたいな、変な態度をとってしまって・・」
ごめんなさい、と何度も繰り返すアヤに俺は問いかけた。
「・・俺の顔が、怖いか?」
「ううん、そんなことは、ないです」
想像以上にアッサリと否定された。
「ただ、あの・・・」
もごもごと俯いて口ごもるアヤ。俺はしゃがみこんで、アヤを下から見上げた。
俯いた顔も下から見上げれば表情がよく見える。
「ただ?」
「・・・あの、先生が、あんまりカッコ良くて・・・」
自分の目が見開くのを感じるほど驚いた。
俺が・・・なんだって?
「恥ずかしくて、目を合わせていられないんです」
ごめんなさいと続けようとしたアヤの言葉を聞かずに、俺は彼女を抱き上げた。
以前のように。
やはり軽い。そして柔らかい。こうして抱き上げるのはずいぶん久しぶりな気がする。
「わわ、せ、先生っ! やめてくださいってば。恥ずかしいっ!」
アヤはわたわたと焦り、きょろきょろと周りを見て、おずおずと上目遣いに俺を見た。
なんだ、この可愛い仕草は。
さらに引き寄せ、耳元で「アヤ、好きだ」と囁けば、顔を真っ赤にさせる。
「好きだ。ここにいてくれ。どこにも行くな」
アヤの手が震えながらそっと持ち上がり、俺の首に回された。
今までは、抱きしめても撫でても、嫌がったり逃げたりすることもなかったが、そのかわりアヤが自分から動くこともなかった。
そのことに言いようもない喜びを感じる。
顔をあげると、目と目が合う。
すぐにばっと逸らされる。
でもそのまま見続けていると、ゆっくりと顔を戻し、あっちにこっちに視線を彷徨わせてから、アヤはそっと俺を見た。
大きな瞳はうるうると潤んで、そのど真ん中に俺が映っている。
ゴクリと自分の唾を飲む音が耳につく。
「わ、私のこと、・・まだ、・・・好きでいてくれるんですか?」
不安そうな声で、そんなことを聞いてくる。
すぐに目線は下に落ちる。
でも、また、そっと様子をうかがうように視線を上げてくる。
なんだこれ。ヤバい。
可愛い。可愛すぎる。前よりもすごく可愛いぞ。
抑えていた欲望が、身体の奥から熱を持つ。
「アヤ。好きだ。
・・俺こそ態度を変えてしまってすまなかった。不安にさせたな。
アヤがそんなに照れているとは思わなくて、嫌われたのかと勘違いした」
「そんな・・、嫌ってなんか、いません」
「今までと同じでなくていい。どんなアヤでも俺は好きだ」
きっぱりと言ってやると、また視線をさまよわせてから、真っ赤な顔で俺を見て、笑った。
肩の力が抜けていて、ほっとしたような。
今まで見てきた中で一番可愛い笑顔で。
「・・・ありがとう、先生」うれしいです、と言葉が続いたようだったが、
聞けなかった。
俺は夢中でアヤに口づけていたから。
こんな可愛い姿を見せられて、我慢なんてできるわけがない。
以前、目が見えるようになったら解禁すると宣言していたし。
思う存分、アヤを頂くとしよう。




