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27(テツ) 部屋で

自分でも悩んでいることを突っ込まれると簡単に気持ちが揺らぐ。

本人の意志など無視して、アヤを自分だけのものにしてしまいたい。

そう渇望する心は、抑えをなくせば、あっという間に爆発するだろう。


頭を空っぽにしようと筋トレを始めるが、集中しようと目を閉じても彼女の姿がまぶたの裏にチラついてどうしようもない。

それを振りきるようにひたすら単調な動作を繰り返した。


ふいに、ドアが控えめな音でノックされた。

こんな風にノックしてくる相手は一人しかいない。

すぐに返事をしてドアを開けると、案の定、そこにはアヤが立っていた。

真っ赤な顔を隠すように俯きながら。

一瞬、自分の願望が見せる幻かと思った。

時計に目をやれば、いつも自分が迎えに行く時間よりもずいぶん早い。


「・・・あ、あの、先生?」

何も言わない俺に不安を感じたのか、おずおずと手をこちらに伸ばしてきた。

すぐに掛け寄りその手を取る。


「・・初めて、アヤから俺の部屋に来たな」

そのまま部屋の中に導き、ベッドに座らせる。

「すまないが、シャワーを浴びてくる。少し待っていてくれ」

「あ、はい。すみません、突然お邪魔して・・」

悪いと思ったのか眉毛をハの字に寄せる彼女の頭を強めに撫で回した。

「邪魔なわけない。アヤのこと考えながら筋トレしてたから、本物が来て驚いただけだ。・・・すぐ戻る」


俺の言葉に見る見るうちに赤く頬を染めていく彼女は、あまりにも可愛くて無防備で。

そのまま見ていたら押し倒しそうなので急いで部屋を出た。

バスルームに駆け込み、身体の火照りを抑えるために、やや冷ためのシャワーを浴びることにした。



「待たせたな」 部屋に戻ると、出て行った時と変わらずアヤが待っていた。

ちょこんとベッドに座るその姿に自然と口元が弛む。

自分の部屋に彼女がいるだけでこんなに嬉しいなんて我ながら単純だ。

手早くクローゼットからTシャツを出し袖を通した。

彼女の座る横に腰を降ろすと、アヤの手がシーツの上をぎこちなく辿って俺の方に伸びてきた。


「あ、あのっ、先生に、お聞きしたいことが、あるんです」

ぎゅっと握られたのは俺の服の裾。

珍しく真っ直ぐ向けられた、見えていないはずの大きな目は潤んでいて、ぼんやりと俺が写っている。

その小さな手の上から自分の手を重ねると、少し震えているのが分かった。


「どうした? アヤ?」

緊張をほぐすよう、なるべく穏やかな声で尋ねる。


「あの・・、先生は、わた、わたしのこと、す、す・・・す」

「好きだって? 言ったが?」

言い淀む彼女の手助けをしてやると、頬を赤くしてコクンと頷く。

「そ、そう言ってくれましたけど、それって、その、・・ルームシェアの同居人としてというか、妹としてみたいな意味で、ですよ・・ね?」

上目遣いで少し首を傾げる仕草は堪らなく可愛い。

が、問われた内容に眉を顰めた。


「そんなわけないだろう」

見当違いもいいところだ。確かに歳も離れているし体格差も激しいが、妹だとか、そんな生ぬるい視線で彼女を見たことは一度もない。


呆れ気味にそう言えば、アヤはますます分からないといった表情で首を傾ける。


「え? でも、さっき・・・男女交際には発展しないって言ってましたし、先生、抱っこしたり、口を拭いてくれたり、私のこと子ども扱いするじゃないですか。そういう、意味なんでしょう?

だから、私、・・・先生の彼女にはしてもらえないんだなって思・・・っ」

最後は自分でも意図せずポロッと零れてしまった言葉だったのか、

慌てて両手を左右に振る。


「あ、いえ! でも、そんなの無理だって、ちゃんとわかってます、から。

い、今のナシ、です。 聞かなかったことにしてください。

ま、マユさんがお風呂で変なこと言うから・・・」

逃げるように離れて行こうとするので手首を掴んで留まらせた。

泣きそうな顔で微笑む彼女を何度も見てきた。

自分の本心を隠して誤魔化そうとする時の表情だ。


「アヤ、俺は・・・」

「いいんです。だって仕方ないです。こんな、・・・目も見えない、何の役にも立たない、迷惑掛けてばかりの私が、お付き合いなんかできるわけ、ないですよね。先生にしたら、本当にお子様だし。なんかホント、すみませ・・」

「違う!」

強く否定するとアヤの細い肩がビクンと震える。


彼女の口からこれ以上自分を否定するようなことは聞きたくなかった。

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