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俺の横でスウスウと小さな寝息を立てて眠るアヤ。

さらりとした綺麗で長い黒髪。

長い睫毛、白い肌、細い首、ふんわりと香るシャンプーか何かの花の匂い。

きっと、何時間こうして眺めていても飽きることがないだろうと思える。

壊れそうなほど華奢な彼女を、起こさないようそっと慎重に抱き寄せる。

自分の腕の中にすっぽりと収まる彼女が、暖を取る子猫の様に頬をすり寄せる仕草を見せる。

起きていても寝ていても可愛いな、コイツは。


いとおしい、と。

心から、素直にそう思う。


他人に興味を持つことなくこれまで生きてきた俺が、初めてそう思った存在。


一緒に寝るようになって一週間が過ぎた今も、アヤが自分から俺の部屋に来たことはない。

それでも、俺が迎えに行って抱き上げると、ありがとうございます、と頬を赤くして微笑むようになった。

恥ずかしいから抱っこするのは止めて欲しいと言われたこともあるが、止められるわけがない。

俺の腕の中にいるアヤは、恥ずかしがってはいても安心しているように見える。

実際そうだと言ってくれた。

しかし、アヤを安心させるとか守るとか移動が早いとか、そんなのはただの口実にすぎない。

本音では、 少しでも彼女に触れていたいという単純な思い。

それに、抱き上げている時アヤは自分の女だと周りに誇示できるし、照れて困っている顔が可愛いから見ていたい。

我侭でどうしようもない俺の勝手な理由だ。




先日、トレーニングルームの休憩室にやってきたマユから聞いた話を思い出す。


「彼女の目が見えないのは、一種の精神障害。

自己暗示、催眠のようなものね。

事故の記憶は無くしているのに、血の海を見たのが強烈だったのね、きっと。

赤色が襲って来るって言ってた。

睡眠時だけでなく起きている時にも頻繁にフラッシュバックしてたみたい。

それによる精神崩壊の危機を免れるために、自ら見ることを止めたの。

それがどういうことか、わかるわよね?」

「ああ・・」

それほどまでに追い込まれていたのだと。

防衛本能が働いて視覚を遮断するほどに、彼女は身体だけでなく、心にも深く傷を負ったのだ。

それなのに、アヤは俺たちに何度も大丈夫だと言う。

自分に言い聞かせるために、他人に気を遣わせないよう迷惑を掛けないように。


彼女の泣き顔を見たのは二回。まだ、たったの二回だ。

泣かせたい訳じゃないけど、全部抱え込んでしまうああいったタイプは、多少強引にでも、心のうちを吐き出させた方がいいと思った。

実際、泣いた後、アヤはすっきりした顔でありがとうと礼を告げた。

ぽろぽろと涙を流し、縋りつく彼女は、言葉に言い表せないほどいとおしくて、こんな感情を抱く自分に驚いた。

守りたい大事にしたいという庇護欲と、自分の前でだけ弱音を晒してくれることへの優越感、この泣き顔を誰にも見せたくない俺だけのものにしたいという、ドス黒い独占欲がジワジワと膨れ上がっていくのを感じる。


この捻れた感情は、どうにか抑えなければいけない。

彼女は、絶対に傷つけてはならないのだから。




あれこれ考えていると、腕の中のアヤが小さく身動きする。

「んー・・」

可愛らしい声を上げ、長い睫毛が揺れる。

一緒に寝ているとよく分かるのだが、彼女は朝が弱い。

一度目を開いても、ぼんやりしていてしばらくは動き出さない。

本人が言うには、脳みそが働き始めるのに十五分から三十分はかかるらしい。

そしてそのまどろみの時間は大いに俺を楽しませてくれている。

体温が低めのアヤは無意識に俺にくっ付いてくる。

起きているときには間違いなく有り得ない行動だ。

そして俺は嫌がらないのをいいことに、抱きしめて、柔らかい髪を撫でたり、おでこや頭に唇を落とす。

気持ちいいのか、ふわりと頬を緩ませるその表情は、半端なく可愛い。

こんなに可愛くて、お前は俺をどうしたいんだ、と勝手に思うぐらい。


ここぞとばかりにあれこれ触っているのだが、しかし背中は触れてはいけない。

昨日の朝、抱きしめている時に背中をすうっと撫でたら、びくんと身体を震わせた。鼻にかかった甘い吐息と共に。

あれはマズい。

一瞬崩れ掛けた理性を取り戻すのに、だいぶ時間がかかった。

あれは危険過ぎる。すごい威力だ。


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