23 一緒に寝る理由
お風呂を出て、パジャマに着替えて部屋に戻る。
「おやすみなさい」とマユさんに挨拶をすると、
「おやすみー、がんばってねー」とやたら楽しそうに言われた。
ちりん、と背後で鳴った鈴に反応して全身がビクンと震える。
次の瞬間、ぶわっと身体が浮かび、私は慌てて先生の頭にしがみついた。
「せ、先生っ! 急にビックリするじゃないですか!」
「遅い」と一言。
そのまま運ばれて、どこかにそっと下ろされた。
たぶん先生の、部屋、のベッドの上だろう。
ん? と何かに気づいたような声がしたかと思うと、ちょっと待て、と先生はどこかに行ってしまった。
すぐに戻ってきた先生が、どかっと私の真後ろに座る。
ベッドが沈んで少しよろめいた。
ブオーという音と頭に当たる熱風で、ドライヤーを持ってきてくれたのだと分かって、慌てて振り返る。
「まだ少し、濡れてる」
「せ、先生。あの、自分でやれますから」
先生は、いいから、とだけ言って、手でぐいっと私の頭を前向きに戻した。
いいのかな、と思いながらも、大きな手で撫でられながら乾かしてもらうのは、とても気持ち良い。 頭皮マッサージをされているみたいだ。
だいぶ伸びてきたけど私の髪は細いので割とすぐに乾く。
起きたときに寝癖もつきやすいけど、櫛でとけば直る程度なので、そんなに気にしていなかった。
でも今朝は、本当に恥ずかしかった。
目が覚めたら先生がいてパニクった私は、見えない自分の髪のことなんて、気づく余裕はこれっぽっちもなくて。
部屋に来てくれたマユさんに、今日もすごい寝癖だねー、と直してもらって声もなく絶叫した。
ハッとする。
そうだ、一緒に寝るってことは毎朝あのひどい寝癖を見られるというわけで。
しかも、変な顔して寝てるかもしれないし、涎とか、鼾とか寝言とか・・。
とにかく人様に見せられるようなものではない、 と思う。
「お母さんも昔、お父さんと初めて一緒に寝た時、この人と結婚するんだって、思ったのよ」とか言ってたし。
お付き合いしてる人でもないのに若い男女が一緒に寝るのはおかしい、だろう。
子どもなら怖い夢を見たのと泣いて誰かの布団に入れてもらうのもアリだけど、
私はもう高校生なんだし。
これは一刻も早く断るべきだろうと私は手に汗を握り、先生の方に向き直った。
「あのっ、先生! やっぱり、一人で大丈夫です。
私、自分の部屋で寝ますからっ」 すみません、と頭を下げてベッドを降りようとした瞬間、ガシッと両腕を捕まれた。
「・・待て」
先生の低い声が一層低くなってすぐ近くから聞こえる。
「大丈夫、の意味がわからない。
昨日のように一人で蹲ってガタガタ震えて耐えるから大丈夫だという意味なら、却下だ。昨日の今日で熟睡できるようになったわけでもないだろう。
・・・それとも、俺と 一緒に寝るのが嫌なのか?」
「違います! だって、こ、恋人でもないのに一緒に寝るとか、変でしょう?
それに・・、先生にそこまでしてもらう理由、がありませんし・・」
嫌なのか、と聞かれて勢いよく否定したものの、だんだん声は小さくなる。
「理由?」
「だって・・、私なんかの為に、そんなに色々してもらっても、私は・・何も、返せませんし・・・」 自分で言っていて悲しくなってきた。
でも、本当に、今の私は何もできない。 先生達に何かをしてあげるどころか、自分のことも自分でできなくて、やってもらっている状態なのだ。