21 寝起きの顔
はあ・・
あったかい・・・きもちいい・・・
このままずっとこうしていたいなあ・・・
ぐりぐりと頬をすり寄せれば、途端にむぎゅっと四方八方から圧迫される。
「起きたのか?」
上から振ってきた声に、しばらく私の思考は停止した。
いつもより掠れぎみだけど、この低音は間違いなく先生のもので。
でもどうしてこんな近くで?
そう言えば、この状況は?
誰かに抱きしめられているような、って誰かって、先生?
え?
なに? 今、ここはどこ? 朝なの? 夜なの?
「おい、大丈夫か? まずは起き上がるぞ」
腰が浮かび上がり、起こしてもらっているのに気づいてますます慌てた。
ハテナが顔に現れていたようで、先生は私の背中に手を添えたまま、くくっと
小さく笑って説明してくれた。
昨日、私は散々泣いてしゃべって、ありがとうとお礼を言ってそのまま眠ってしまったそうだ。
「お前は俺にしがみついてるし、泣き疲れてすやすや寝てるのを起こすのもなんだし、ベッドの上だし、そのまま俺も寝た」
別にいいだろ、と言わんばかりの言い方。
けど、いいも何もこれは私が一方的に悪い、よね。
「ごめんなさい、本当に。私、先生に迷惑ばかり・・」
「迷惑じゃない」
恥ずかしさでもごもご喋る私の声は、きっぱりとした口調で速攻否定される。
「それより、嫌な夢は見たか?」
「いいえ。よく、思い出せないんですけど、なんだかあったかくて、いい夢を見たような気がします。
「そうか」
先生の指のようなものがそっと私の目元に触れる。
途端に羞恥心でいっぱいになる。
「あっ、あ、あの! 私、昨日、いっぱい泣いてしまって、・・あの、目とか、腫れて、きっとすごくみっともない顔になっているので・・」
見ないで下さい、と続けようとした。
「大丈夫だ。お前はいつでも可愛い」
「え? か、かわ? ・・ぇえ?」
先生の口から出たとは思えない言葉に、驚きのあまり口から意味を成す言葉が出てこない。
もう何が何だか訳が分からない。とにかく恥ずかしい。隠れたい。
両手で顔を覆うと、その手を掴まれた。
「隠すな。そんなことしても可愛いものは可愛い」
「か、かわいいって、何がですかっ? って、ちょっ、ち、近いです、よね?」
今、私と先生がどんな体勢なのかよく分からないけど、手は握られたままだし、すごく目の前に人の気配を感じるような気がするので、もしかして、・・すごく、すごく恥ずかしい距離にいるんじゃないだろうか。
手を引こうとしてもしっかり掴まれていてぴくりとも動かない。
「あ、あの、離してくだ、さい」
「気にするな、今更だ。それより今夜から一緒に寝るぞ」
「へ?」
突然、さらりと落とされた爆弾発言。
一緒に寝るって・・・誰と誰が? え? まさか?
「な、何を言ってるんですか! そんなの駄目ですよ!」
「じゃあ、今までどおり、毎晩夢に魘されて、薬に頼って眠るのか?」
「うっ、そ・・・それは」言葉に詰まる。
あまりの恥ずかしさに忘れていた。
「・・・・・私、夜、薬も飲まずに眠れたの、初めてです。
あの怖い夢を見ずに眠れたのも」
「だろ? だったら、そうするのが一番良い。
今夜から寝る時間になったら俺の部屋に来い。このベッドは狭すぎる。
わかったな?」
先生は私の返事も待たずに立ち上がった。
ぽんと私の頭をひと撫でし、マユを呼んでくる、と部屋を出て行ってしまった。
その場には、混乱した頭を抱えた私が残された。