16 学校の友達
マユさんには色々な事を教えてもらっている。
風呂でやると効果的な足のマッサージ、正しい髪の洗い方、ブローのやり方、朝晩の肌の手入れの手順など。
母は高校生にはまだ必要ないと言っていたので、美容やメイクについて話したことがなかった。
初めて聞くことばかりで感心いていると、
「若いうちからも大事なことよー、女の子の身だしなみよー」
と楽しそうにマユさんは笑った。
長すぎる前髪は、目に入って眼球を傷つけるから良くない、と言うので前髪も切ってもらった。目が見えないとどうしても視線が定まらないので、不自然にならないように少し伏せ目がちにするよう、表情の作り方のトレーニングまでしてもらった。
前よく掛けていた伊達メガネは、一度壁にぶつかってしまったことがあって、
「危ないから掛けるな」と禁止された。ここでは掛ける必要もないし。
先生にはもちろんだけど、やっぱり女同士ということで、マユさんにはかなりお世話になっている。
風呂や着替えは、彼女の手助けなしでちゃんとやれる自信が無い。
一人っ子の私には、突然できた姉のような存在にくすぐったさを感じる。
夜、私にと用意してもらったベッドの上に蹲りながら、音楽を聞くでもなくぼんやりしていた。
学校・・・・・、もう二ヶ月以上も行ってない。
怪我の治療の為に休学届を出したそうだけど、このままだと、もう行けないかもしれない。
学校のことを思うと頭に浮かぶのは、クラスメイトで図書委員の嶋田さんの顔。
ふうっと溜め息が漏れた。
・・彼女のことを忘れていたわけではない。
意図的に、考えないようにしていた。
人付き合いが苦手で友達のいない私に、気を遣ってあれこれ話しかけてきてくれるのは、彼女くらいだった。
おせっかいで口うるさい嶋田さんは、心配・・・してくれているだろう。
事故で病院に運ばれて、長い手術を終えて、病室に移ると、嶋田さんはすぐに面会に来てくれた。
学校帰りの制服姿で、急いできたのか息を切らして。
彼女は、包帯まみれの私の姿を見て、ぼろぼろと大泣きした。
私の方が驚いたくらい、すごい勢いで。
いつも笑顔がトレードマークみたいな嶋田さんの悲しそうな顔は、見ていてすごく辛かった。
だから、その後も何度か面会に来てくれたけど、寝ているフリをしたり、体調が悪いことにして、会うのを拒否した。
何度も掛けてくれた電話にも出ずに、メールで『しばらく学校に行けそうにもないから、ごめんなさい。もうお見舞いは来なくていいです。ありがとう』と送って、電源を落とした。
今となってはあれが最後のメール。
もう、携帯は触れない。
スマホはボタンがないから、手探りでは何も操作できない。
型の古い音楽プレーヤーを操作するのがやっと。
父は私の手が痺れて操作し辛いと思っているのか、電話も私に直接掛けてはこない。慎兄ちゃんか先生の携帯にかかってきたものを渡されて話すのだ。
・・彼女はまだ、私を気にかけてくれているだろうか。
怒っているだろうか、呆れているだろうか。
何も言わない私を。
自分でも対処しきれてないことを、どう説明したらいいのか、わからない。
嶋田さんは人の悲しみを全部自分のことのように受け止める優しい人だから、よけいに、話すことをためらう。
今日も、申し訳ないと思いながらも嶋田さんへの連絡はできなかった。