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夏の星屑  作者: たまこん
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第一話 「遭遇」

「よし、準備完了」


リュックサックを片手に僕は、部屋を飛び出した。胸を踊らせながら、階段を駆け下りる。築30年を越える家の床が、ぎしぎしと軋むのがわかる。


一階の和室に顔を出すと、祖母が濡れ煎餅を片手にテレビを眺めていた。目が合うと、にこりと微笑むので、つられて僕も笑顔になった。目尻に刻まれたしわが、祖母の過ごしてきた年月を物語っている。


「どうしたんだい?(しょう)ちゃん随分と嬉しそうだねぇ」


笑顔を浮かべたまま祖母が尋ねてくる。この穏やかな雰囲気が僕は好きだった。


「うん、今晩は皆で星を見に行くんだ!」


「そいつはいいねぇ、気をつけて行っておいで。美佐恵(みさえ)にはお婆ちゃんから伝えておくよ」


祖母の言葉は僕の考えを読んでいたかのようで、思わず息を飲んだ。年の功とでもいうのだろうか、祖母には度々驚かされる。


「うん、ありがとう!」


僕は元気良く応え、その場を後にした。そのまま玄関へと向かうと、外が何やら賑やかだった。皆すでに集合してるみたいだ。


戸の窪みに手を入れて横にスライドさせると、小気味好い音を立てて開いた。まだ夏も始まったばかりなので、外の風は少し肌寒く感じる。家の前には、お馴染みの面子が集まっていた。家の外に出ると、皆が一斉にこちらを振り向いた。


「おーっす!翔が一番びりだぞ」


開口一番にそう言ったのは、幼馴染の(あきら)だった。短く刈り上げた髪型は、いかにもスポーツ少年といった感じで、その目は少しにやついていた。


「すーぐ翔ちゃんに意地悪するんだから、明は」


それに対して注意しているのは、もう一人の幼馴染の(めぐみ)だ。ショートカットがよく似合う活発な女の子で、なかなか気が強い。


「おはよ、じゃなくて今晩は翔ちゃん」


「うん、今晩はまどか」


続いて声をかけてきたのは円香(まどか)だ。肩まで切りそろえられたストレートヘアーが夜風でなびいている。僕は少なからずドキッとした。そのせいか、声が小さくなる。


そこで、ようやく僕は気づいた。一人足りないことに。


「あれ、水希(みずき)は?」


そう尋ねると、後ろからポンッと背中を叩かれた。振り返ると、そこには頭ひとつ分以上身長の離れた少女が立っていた。無表情なため、その感情は読み取れない。


「ここにいる」


ぼそりと呟いたのは、明の妹の水希だ。白い肌とポニーテールが印象的な少女だ。僕らの一つ下の学年だが、そこに隔たりは殆どない。


「お、ごめん水希」


「別にいいよ」


この5人が、今回の天体観測のメンバーだ。誰が言い出したかはもう忘れてしまったけれど、夏の星座の話で盛り上がったのが発端だ。結局高台の丘のうえで皆で星を眺めることに決まった。その日が今日だ。


この街は小さな田舎町ということもあり、街の人達のほとんどが顔見知りだ。そのせいか大人達も危機感がなく、夜遅くに出かけても心配はしない。ただ、流石に日付けが変わるぐらいまで帰ってこなければ心配するかもしれない。そんなわけで現在9時を回っているが、中学生の僕らでも集まることができた。


「おーし、では出発!」


勢い良くそう言うと、明を先頭に僕らは丘の上へと向かった。5人で仲良く喋りながら街の中心部の公園から丘へと繋がる長い階段を登る。


かなり長く高い階段のため、下を見下ろすと街が一望できる。水希が立ち止まり、その景色をしばらく眺めていた。それにつられて僕も足を止めた。


満月に僅かに照らされた港町が、とても綺麗で思わず見とれてしまった。遠くに見える海面には満月が映り、ゆらゆらと揺れていた。僕はこの街と人が本当に好きだ。だけど、こうやって過ごす時間もあと2年。中学2年生の僕らは来年には中学3年生、そして次の年には高校生となり、皆バラバラとなってしまうだろう。


ましてや水希はまだ中学1年生だから、1人残されることになってしまう。その寂しさは僕らよりも大きいかもしれない。そんな悲観的なことを考えていると、後ろから頭をはたかれた。


「ほら、早くいくよ」


恵にそう言われて僕はハッとした。すでに皆先に登ってこちらを見ていた。自分で思っているよりも長く立ち止まっていたようだ。


「ごめんごめん、今行く」


先のことを考えても仕方が無い。今を楽しもう。僕はそう決めて、階段を再び登り出した。途中で、グリコなどの遊びを交えながら階段を登った結果、丘に辿り着いた時には家を出てから一時間が経過していた。


「ふー、やっと到着かよ」


やれやれ、と最後に上がってきた明。そんな明に向けて恵からの野次が飛ぶ。


「明ジャンケン弱すぎだから!水希もそう思うよねー?」


「明、弱過ぎ」


「う、妹と幼馴染に言われるとは、すこぶるショックだ」


がっくりと肩を落とす明。その様子を見ていると、自然と笑顔になった。それに気づいた明が僕に食ってかかる。


「おい、翔…今笑ったな?親友の俺がこんな目にあってるというのに!なんてやつだ!」


「まあまあ、明君。翔ちゃんも悪気ないはずだよ、ね?翔ちゃん」


慌ててフォローしてくれる円香。なんて優しいのだろう。今度は顔がにやけてしまう。


翔兄(しょうにい)、だらしない顔してる…」


水希に指摘され、少し赤面する。水希は昔から僕のことを翔兄と呼ぶ。本物の兄貴のことは名前で呼ぶのだが、今更気にしないことにしている。


「まあ、せっかくここまで来たんだし早く星をみようよ」


慌てて話題を変えようと試みる。皆本来の目的を思い出したようで、特に反論もなく、場所探しが始まった。


この丘は小さな休憩所のような屋根付きのベンチがあり、それ以外は雑草が生い茂っている。人の手入れはあまり行き届いていない。

昔は変わり者の爺さんが住んでいたようだか、今はもう亡くなってしまったため、手入れする人がいなくなっていた。


手分けして、寝転がれそうな場所を探索する。しかし、ここもまた時間を取られてしまう。


「ここは?」


「え、汚いよー、こんなとこに寝転ぶの?」


「んじゃ、ここはどーよ」


「ここはちょっと…ちくちくするかも」


「ふぅ、早く横になりたい」


女性陣のハードルが高くてなかなか決まらないうえに、階段を登ってきたせいか、皆の顔に疲れが見え始めた。何処かいい場所はないかと辺りを見回すと、丁度良さそうなスポットを発見した。


程よい長さの雑草が隙間なく生えていて、天然のクッションのように柔らかくなっていた。すぐさま皆を呼び、ここに決まることとなった。


「お、でかした翔!俺ここもーらいっ!」


早速寝転がる明。その様子を見て皆も一人ずつ横になる。僕も遅れて円香の横に寝そべった。その横に水希がやってくる。


「おーし、皆目を瞑っとけよー!抜け駆けはなしな」


空を見上げようとした瞬間に、明の声が聞こえて慌てて目を瞑る。恐らく他のメンバーも目を閉じただろう。皆で一斉に星を見るためにだ。


くだらなく思うかもしれないが、この時僕は柄にもなく興奮していた。皆で一緒になって星をみる。ただそれだけのことなのに、とてつもなく凄いことのような気がしていた。


「さーん!」


目を閉じると、その他の感覚が研ぎ澄まされるような気がする。かすかに風の音が聞こえて、くすぐったい気持ちになる。


「にーっ!」


草の特有の匂いが香り、どこか安心してしまうのは、僕だけだろうか。


「いーちっ!」


一体どんな景色が広がっているのだろうか。そんな期待に胸を躍らせ、僕はその一秒を待った。


「ーーーーっぜろ!」


「ーーっ!」


言葉が出てこなかった。あまりにも壮大な景色が飛び込んできたせいか、言葉を発することを忘れてしまったかのように、空いた口が塞がらない。


目の前に広がる満点の星空。そこには今まで見たこともないような数の星が輝いていた。


高いところにいるせいか、いつも以上に星が近くに見える。満月に呼応するかのように星たちがその存在を一斉に示している。あまりにも綺麗で、僕はしばらく無言のまま星を眺めていた。


「うわー、綺麗だねぇ…」


「こんな星空始めて見た…」


皆、僕と同じように感動を受けたようで、思い思いに感想を口にしている。


「すっげー!空に海があるみたいだ!」


興奮したように1人明が騒いでいるが、皆口数は少なく、途方もない自然の美しさに圧倒されていた。


この天然のプラネタリウムを眺めていると、僕はあることに気がついた。一際大きく輝いている星があることに。


「あの星凄い綺麗だね」


僕が何も考えずにそうぼやくと、円香がソレに気がついた。


「本当だ。なんだろう…とても綺麗な光」


ため息でも漏らしそうな勢いで、円香がその星を目で追っている。すると、横にいる水希が言葉を発した。


「あの星、なんだかどんどん大きくなってる気がする」


「へ?なんだって…」


そこで僕もようやく異変に気付いた。先ほどよりも倍以上に大きくなった星がそこに見えた。今もなお肥大している。


「おい、なんだよあれ…こっちに向かってきてないか?」


どうやら明も異変に気がついたようだ。少し、困惑した声色になっている。明が言うように確かに、あの星はこちらに向かってきているように見える。


「嘘でしょ?流れ星なわけないし…」


「隕石…」


恵の意見に対してポツリと水希が呟く。その言葉を聞いた瞬間全員に緊張が走った。


「おいおい、もし隕石だったら洒落になんねーぞ!」


「まさか、そんなわけ…」


僕はその意見を否定しようと口を開いたが、目の前の光景はあまりに非現実的なもので、言葉が続かなかった。


バスケットボールほどの大きさに膨らんだソレはまばゆい光を放ちながら、僕らの頭上を通り過ぎ、奥の林へと向かった。


もし、本当に隕石だったら僕らなど一瞬で蒸発してしまうだろう。テレビの特番でそんなことを言っていたことを思い出す。まるで、夢でも見ているかのような気持ちで僕はその光の玉を眺めていた。


僕らのいた場所から数百メートル離れた林にソレが墜落した。思わず目を瞑る。


「………。」


1.…2…3秒が経過したが、なにも起こらない。しばらく静寂が訪れ、風で揺れる木の葉の音が僅かに響いた。どうやら隕石ではなかったみたいだ。


僕はホッと息をついた。だけどその安堵も束の間、ある疑問が頭をよぎった。


今のが隕石じゃなかったとするとなんだったのだろう。とても綺麗だったけれど、あんな自然現象聞いたことがない。


「おお!生きてるぞ!俺ら」


「今のは何だったんだだろ?未確認飛行物体てやつ?」


明と恵はショックから立ち直るのが早かったようで、上体を起こして騒いでいる。その隣の円香はまだ横になったままだ。目をぱちぱちさせている。


「怖かったー…びっくりしたね」


「………。」


無言で横になっている水希に円香が話しかけるが、反応はない。僕は起き上がって、水希の方をみた。


微動だにしない姿に違和感を感じ、立ち上がって近寄る。そこで僕はようやく気がついた。


「げ、水希のやつ気絶してるよ」


「え?」


僕の言葉通り、水希は目を閉じたまま気を失っていた。よっぽど怖かったんだな、とそんなことを思いながら肩を叩いた。


僅かに反応があり、水希が目を覚ました。


「おーい、水希ー」


「はっ…ここは、天国…?」


水希の第一声だ。幸い大事には至らなかったようなので、僕は一安心した。少し水希を休ませることにして、僕らは屋根付きのベンチで先ほどの光の玉について話し始めた。


「あれUFOだよ!絶対!翔ちゃんもそう思うよね?」


恵が意気込んでそう言うと、明がそれに反論する。


「ちげーよ!ありゃ、某国の最新兵器だな。きっと実験のために撃ってきたんだ」


「明君、それこの前の社会の授業に影響されてるでしょ。…それにしても、落ちた時も音が無かったし、ちょっとおかしいよね」


円香の意見は的を得ていた。あれだけ勢い良く落ちたにも関わらず、墜落音がなかった。その事実が不気味だ。あながち、UFOという恵の意見は間違っていないかもしれない。


「向こうの林に落ちたよな、ちょっと見に行こーぜ!」


「明、危ないかもよ?」


「なんだよー、翔びびってんのか?」


明にそう言われて思わずムッとしてしまう。そこまで言われて引き下がるわけにはいかない。僕も男だ。


「おし、行くよ」


「そーこなくっちゃ!」


「大丈夫かなあ…」


円香はまだ心配そうにしているが、今の僕は好奇心が勝っていた。明に煽られたこともあるけれど。


「なら、私も見に行くー。気になるし」


「私も行く」


いつ間にか、そばにいた水希が恵に続いて言った。円香1人が残される形となる。


「ええ、一人にしないでよお!」


そんなわけで、全員で林へと向かうことになった。


明を先頭に僕らは林の中を探索し始めた。真っ暗なため、辺りはよく見えない。


「ここらへんだったよなぁ?」


光の玉が落ちたと思われる付近に近づいたものの、それらしき物は見当たらない。あれだけの大きさならすぐ見つかるはずなのに。


「ちょ、円香。そんなにくっつくなよ」


「ええ、だって怖いよ…」


気が弱く恐がりな円香は、明にぴったりくっついている。凄く羨ましいが、明はうっとおしく思っているようだ。


僕は後方担当だったので、一番最後尾から辺りを見回している。しかし、どこを見渡しても林が続いているだけだった。これ以上進むと山へと入ってしまうだろう。


夜も遅いし、そろそろ引き上げよう。そう提案しようと口を開いた瞬間。後ろで何かの気配を感じた。


後ろを振り向くが、特に変わったところはない。かなり遠くの方に僕らがいた丘が僅かにみえるだけだ。僕が振り向いたことに皆を気づいたらしく、明が声をかけてくる。


「翔、なんか見つけたのかー?」


「いや。なんでもな…」


そう言葉を続けようとした瞬間。何かが光った。先ほどの光の玉のように眩くはないが、やんわりと温かな光が漏れていた。


「あの光は…」


僕はその光に惹きつけられるかのように近づいていった。一歩ずつその光の方へと進んでいく。その度に、その光は力強さを増して辺りを照らしている。


「お、おい翔」


明の躊躇いがちな声を無視して、僕はどんどん歩いた。皆も少し遅れてついてくる。あと100mも離れていないだろう。


その光の出処にたどり着くと、林の中でそこだけが真昼のように明るかった。頭上を覆う木の枝をも無いため、星空を一望できた。その地面の中心には七色に輝く何かが落ちていた。


「砂時計?」


そこには、両手で抱えなければ持てないほどに大きいサイズの砂時計が横たわっていた。普通の砂時計との違いはその大きさだけではない。


七色に輝く、砂なのかもよくわからないモノが大量に入っている。その砂が光を発しているらしい。この世の物とは思えない色合いに、僕は思わず見惚れた。他のメンバーも思わず息を呑む。


「綺麗…本当に」


円香がうっとりと眺め、呟いた。皆も砂時計に釘付けだ。そんな中、水希が恐る恐る砂時計へと手を伸ばしていた。


「ソレには、触らない方がいいよ」


「「…えっ!?」」


聞き覚えのない声が後ろから聞こえる。その中性的な声はこの光の空間の中で、綺麗に通った。水希も反射的に手を引っ込めている。


全員で一斉に振り向くと、そこに(・・)はいた。


「やあ、はじめまして」


そう言ってにこりと微笑む。人懐っこい笑顔を僕らへと向けて手をあげる。





ーーーーこうして、僕らは(まもる)と出会った。

読んでいただき、ありがとうございます。


誤字脱字なども多く、言葉遣いの間違いもあると思いますので、ご指摘よろしくお願いします。


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