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2話 迫る影

 俺はその後、しばらく健斗を探してぐるぐると歩き回った。

 普段なら親友の悪ふざけだと放置して1人帰宅するのだが、今回は状況がおかしすぎる。隣で喋っていた人物が急に消えたのだ。まるで神隠しのように。

 しかし、俺は気付きたくもないことに気付いてしまった。きっかけは、健斗に連絡を取ろうとスマホを取り出したこと。開けた屋外にも関わらず、電波が入らないのだ。俺はため息をつきながら、役立たずとなったスマホを乱暴に鞄に放り込む。

 そして決定的となったのが、うろうろと高校の近くまで来たことだ。放課後ならば運動部の力強い声が響き渡るはずの運動場は、部活に使う道具が出しっぱなしにしてあるだけで人っ子一人いない。


「……嘘だろ」


 そういえば、健斗を探しているときにも誰一人としてすれ違わず、車は道路のど真ん中に放置してあった。勿論運転手の姿はない。普段ならば絶対にありえないことだ。

 俺は青ざめた顔で呆然と立ち尽くした。先ほど、この状況が「神隠し」のようだと思ったが――。


 信じられないし、信じたくもない話だが、もしそれが本当ならば、迷っているのはどう考えても俺の方だ。




   ✝   ✝   ✝




「うーん……。まいったなぁ~」


 とあるマンションの屋上に、1人の少女が座っていた。双眼鏡を片手に、侵入者(・・・)である一人の少年を観察している。少年はしばらく辺りをうろついた後スマホを取り出した、と思ったらすぐに鞄に直して、また似たような場所をぐるぐると歩いている。


「んー、念のため電波ジャミングもかけてて良かった。応援呼ばれちゃたまらないよね」


 少女は一旦双眼鏡を脇に置き、今どきの女性にしては何の飾り気もない、漆黒の携帯端末を取り出した。先ほど少年が取り出したスマホと形は同じだが、内部構造は全く異なるものだ。


 少年を発見してからすぐに、2人の上司にメールを送った。「ホウ(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)」はいつの時代にも重要視される。特に情報の価値が高まってきている近年ならば尚更だ。

 しかし生憎忙しいのか、2人からの返信は来ない。少女は悩ましげに頭を抱えた後、再び双眼鏡で少年を監視する。

 少年は相変わらず移動をするばかりで、反撃をする様子もない。少女は「うぐぐ……」と唸りながら監視を続ける。


 少女的にはこのような状況が1番つらい。さっさと反撃なり、探知なりをしてくれれば正体や所属が推測できるのに、少年は自分の足しか動かしていない。

 過去の事例から言うと、侵入者の分類は 敵7割:連絡無しの味方2.5割:完全なる一般人0.5割 といったところ。さぁ、少年はどれだ。


 少女は少し迷った後、少年に対して軽い威嚇攻撃をすることにした。向こうから何も仕掛けてこない以上、状況を動かすには自分から打って出るしかない。少年が自分では太刀打ちできない敵であることも考えて、少女は行動を起こす。

 少女が念じると、彼女の足元に光る紋章が現れた。見る人が見れば即座に「魔方陣」だと看破するが、この場には少女と少年以外の部外者はいない。魔方陣からは黒い霧がゆらゆらと立ち上り、少女を包み込む。

 霧が晴れた時、少女の容姿は大きく異なっていた。髪の色は黒から薄い桃色に、ミニスカートだった服はカントリー調のワンピースに。背後には鳥の羽と尾羽をデフォルメしたようなものが、支えもない宙に浮いていた。魔法少女さながらの変身を終えた少女は、すぐさま少年の様子を窺う。少年は相変わらず此方に気付く様子もない。

 移動していた少年は駅前にたどり着いた。停止しているバスやタクシーにしきりに視線を向けている。そういえば、少年は道の真ん中で停止していた乗用車にも驚いていたっけ。


「ここまでくると本気で一般人かと思っちゃうよ。演技なら拍手ものだけど」


 少女は「魔法」を使うことが出来る。近代化が進んだこのご時世に誰かにそんなことを言えば、本気で呆れられるか頭の心配をされるだろう。しかし、現代にも「魔法」は存在する。少女だけではなく、他の味方も、敵も、みんな「魔法」を使うのだ。


 少女は手のひらに魔法の球を作り出す。薄暗く光るそれを少年に向かって命中させようとするが、思い止まり魔法の発動を止めた。黒い霧になって霧散する球を意に介さず、背後に無造作に置いていた黒いケースを開ける。

 少女が魔法での攻撃を止めた理由は簡単。少年は大っぴらに練られた魔法にも(少女が見る限りでは)気づいた様子がない。ここまで何の反応もないならば、彼は味方でも敵でもない一般人である可能性が極めて高いからだ。

 先ほどの魔法の球の源になる黒い霧は、人間に対してあまりよろしくない影響を与えてしまう。使うならばもっと無害な魔法を。自分の魔法のせいで何の罪もない他人を壊すことになると、寝覚めが悪すぎる。


 黒いケースの中には、魔法の球に代わる威嚇手段が収まっていた。まるで学校で次の授業の準備をするかのように、テキパキと組み立てていく。僅かな時間で組み立てたそれを、屋上にドンと置く。そして華やかな服が汚れるのも気にせず、少女自身も屋上に腹這いに寝そべった。


「ここが勝負どころかな? やばくなったら即、逃げる! やばくなかったら――」



 捕獲コースで。



 少女は慣れた手つきで照準を合わせ――対物(アンチマテリアル)ライフルの引き金を引いた。

銃っていろいろな種類があるんですね……。

ネットで調べてみて驚きました。

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