第8話 透矢の推理と舞の危機
今回は透矢SIDEと舞SIDEに分かれます。
【透矢SIDE】
「舞が居ない・・・か。想定の範囲内だが、やはり舞を抱きながら一晩中起きているべきだったかな?」
そーすれば、賊がノコノコ現れたところを返り討ちにして終わりだったのに・・・
ついでに、横で寝ていた舞を攫われても全く気付かなかったというのもちょっと不覚だ。
まぁそれでも別に焦る必要は無いんだけどな?
これはあくまでもゲームのイベントだ。
つまり、攻略の為にある程度時間の猶予があるってことだ。
『起きたら既に女はどこか遠くに売り飛ばされていました』なんてのはイベントとして成立しない。
時間切れになれば、そーゆー可能性も十分あるが、今はまだ大丈夫な筈だ。
なので、まずは賊がどーやってこの部屋に這入ったかってことを考えよう。
俺と舞以外には入れない筈の部屋から、何らかの方法で舞が攫われた。
この謎を解き明かさないと、これから安心して眠ることも出来ない。
何故なら、もしもこれと同じ手口を他のプレイヤーに実行されたら、寝ている間に宿の外に連れ出されてPKされ、起きたらレベル1になってました。なんて笑えない事態になりかねないからだ。
「シャル。確認するが、この部屋には俺と舞以外は許可がないと絶対に入れないんだよな?」
「・・・契約中の部屋に宿泊者以外の者が入る方法はただ一つ、その部屋の宿泊者に招かれた場合だけよ。招かれざる客は、仮に扉や窓を壊して進入しようとしたとしても、見えない壁に阻まれるわ。そして客の契約期間中は、たとえその宿の店主でも勝手に這入ることは不可能よ」
「ちっ、店主でも無理なのか・・・なら、誰がどーやって這入ったんだ?」
俺はてっきり、店主が料理に睡眠薬でも盛って、俺たちが眠った頃に店主権限かなんかで部屋に這入って舞を攫ったんじゃないか?と予想してたんだが・・・いきなり容疑者の第一候補が消えてしまった。
・・・これ以上ここで考えていても埒が明かない。
とりあえず、念の為に店主がちゃんと宿にいるか確認しておくか。
俺が階段を降りて行くと、店主の男は食堂の掃除をしているところだった。
「おはようございます。おや?お連れ様はまだお休み中ですか?お食事は如何致しましょう?」
「・・・いや、実は起きたら既に部屋にはいなかったんだ。アンタ見なかったか?」
「申し訳ありません。私も先ほど起きたばかりでして」
「・・・そうか。まぁ大方そこらを散歩でもしているんだろう。食事はとりあえず俺の分だけ用意してくれ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
・・・やはりあの男は怪しいな。
シャルの話じゃ、この宿の客が最低でも2、3人は行方不明になっている筈なのに、俺が連れの女がいなくなったと言っても、顔色一つ変えないばかりか、その可能性を俺に教えさえしなかった。
やはりこいつは黒だ!
そして、こいつがここにいるということは他に協力者がいて、そいつが舞を見張っているとみて間違いない。
この男は黒。それは良いとして、結局は「どーやって?」という問題に帰結する。
たとえ今この場でこの男を締め上げたとしても、証拠が何もなければ恍けられるだけだ。
・・・もう一度情報を整理しよう。
あの部屋に契約者以外が入る方法は『部屋の契約者が許可を与えた時のみ』
このルールは絶対で、店主でさえ客のチェックアウト後でなければ入れない
後から部屋に入れないのであれば、逆に俺たちがこの宿に来るよりも先に、既にあの部屋のどこかに潜んでいたら?という場合も考えたが、すぐにそれは不可能だと思い直した。
昨夜あの部屋に向かう際に気付いたんだが、隣や向かいの空室は契約していないからか、俺たちが入ることは出来なかったのだ。
ドアが開いていたので部屋の中を覗くことくらいは出来たが、見えない壁に阻まれてそれ以上先には進めなかった。
「・・・ん?」
なんだ?今何か違和感があったような・・・?
「んーっ?」
俺は唸りながらふと視線を横にずらすと、シャルの顔が目に入った。
そーいえば、こいつ全然しゃべらないな?
普段はむしろおしゃべりなくらいなのに・・・
シャルは俺が視線を向けても、何も言わずに真剣な面持ちで俺を見詰めている。
俺が考え事をしているから、その邪魔をしないように空気を読んで黙っているだけか?
それとも・・・しゃべれない理由があるのか?
例えば、つい余計なことを口にして仕舞わない為・・・とか?
いやでも、さっきは随分長々としゃべっていなかったか?
たしか『この部屋には俺と舞以外は許可がないと絶対に入れないんだよな?』って聞いたら
『・・・契約中の部屋に宿泊者以外の者が入る方法はただ一つ、その部屋の宿泊者に招かれた場合だけよ。招かれざる客は、仮に扉や窓を壊して進入しようとしたとしても、見えない壁に阻まれるわ。そして客の契約期間中は、たとえその宿の店主でも勝手に這入ることは不可能よ』って答えたんだ。
・・・あれ?ちょっとおかしくないか?
いくらシャルがおしゃべりとはいえ、あの質問の答えは『そうよ』とかで十分な筈だ。
ってことは『そうよ』と肯定出来ない理由があったと考えるべきだ。
シャルは肯定しない代わりに『契約中の部屋に宿泊者以外の者が入る方法はただ一つ、その部屋の宿泊者に招かれた場合だけよ』と言った。
さらに『招かれざる客は、仮に扉や窓を壊して進入しようとしたとしても、見えない壁に阻まれるわ』と『客の契約期間中は、たとえその宿の店主でも勝手に這入ることは不可能よ』と聞いてもいない情報を2つもわざわざ付け足したんだ。
シャルはゲームの攻略に関して、答えを教えてはくれないが、その代わり嘘はつかないし、これまでの言動からも分かる通りヒントならくれる。
ならば、あの台詞はシャルが教えることの出来るギリギリの範囲のヒントってことだ。
「・・・・・・そーゆーことなのか?」
『俺たちの部屋の不自然な点』
『契約中の部屋に宿泊者以外の者が入るのは事実上不可能であること』
『招かれざる客は見えない壁に阻まれるということ』
『客の契約期間中は、宿の店主でも勝手に這入ることは不可能であること』
この4つの情報を統合すると答えは1つだ。
まさかこんなくだらないトリックだったなんて、数分前の自分を殴ってやりたい。
「お待たせ致しました」
・・・どーやら解答が向こうから来てくれたようだ。
さすがに朝食に睡眠薬を盛ってはいないだろう。
それじゃー、のんびりメシでも食いながら答え合わせを始めるとしようかね?
【舞SIDE】
目が覚めると私の横に愛する人の姿はなかった。
どーやら私が今まで眠っていたのは、暖かいフカフカのベッドの上ではなく、冷たい床に申し訳程度に敷いた粗末な布切れの上だったようだ。
当然ながら、昨日泊まった宿屋の部屋ではない。
ここはどこかの民家のリビングのようだ。
周りを見渡すと、私の他に3人の少女の姿があった。
1人は私のすぐ横で中学生くらいの少女が震えており、私と同い年くらいの女の子と大学生くらいの女性が少し離れたところに座っていた。
そしてもう1人、20代前半くらいの男が安っぽい木製の椅子に座って私たちを見張っていた。
「よぉ?やっとお目覚めかいお姫様?自分の状況は理解しているか?」
男は私が目覚めたことに気付き、ニヤニヤと笑みを浮かべて近付いてきた。
「えぇ、どーやら貴方に攫われてしまったようですね。ところで、私の他にもう1人部屋にいたと思うのですが、その人は今どこに?」
「ん?あーあの男か。男は大した金にならねぇからそのまま置いてきた」
良かった。殺されてないなら昨日買った装備はそのままだし、すぐに私が攫われたことに気付いて助けに来てくれる筈だ。
「ま、あんな不能野郎のことはさっさと忘れるんだな?」
「・・・なんですって?」
透矢くんが、ふ、不能ですって?何を言っているのこの男?
「だってそーだろぉ?お前みたいなイイ女と一緒のベッドで寝ておきながら何もしねぇなんて、不能以外の何だってんだ?」
そーか!デスペナから復活して以降は透矢くんに抱かれていないから、今の私のカラダは処女のままなのだ。
ってゆーか、何でこの男がそんなことを知っているの?
まさか、私のアソコを見たの?
「へっ、安心しな。『まだ』何もしてねぇよ?処女じゃねぇと値段が下がっちまうからな」
私の様子から何を考えているのか察したのか、男はそんなことを言ってきた。
「とりあえず、お前ら2人で俺に奉仕しな?あいつらは下手糞で話にならねぇ」
男は離れたところに座っている少女2人を指差しながら、私たちに性的な奉仕を強要してきた。
さっきは気が付かなかったけど、私と同じ服を着ているところを見ると、この少女はプレイヤーだ。
もしかしたら、1号室に泊まっていたのがこの子なのかもしれない。
アバターとはいえ、初体験がこんなのではこの子が可哀想だ。
透矢くんが助けに来てくれるまで、私がこの子を守らなきゃ!
「私が1人でするわ!この子には手を出さないで!」
「お、おねぇちゃん?」
少女は震えながら私を心配そうに見詰めてきた。
「大丈夫よ。こんな男すぐに足腰立たなくなるくらいイかせまくってやるわ」
「ハッ!処女の癖に粋がりやがって」
「ふふっ。それはどーかしら?膜があるからって処女とは限らないわよ?」
私は昨日だけで透矢くんに何度も抱かれているのだ。
生身も現在のアバターも処女ではあるが、精神的には処女ではない。
「んー?お前・・・もしかしてプレイヤーか?」
「・・・だったら何よ?」
「へぇー?こりゃー良い事聞いたぜ!お前らプレイヤーは俺たちNPC違って不老不死だ。しかも、若い女は殺す度に処女のカラダに戻るから、すげぇ高値で売れるって聞いたことがある」
・・・あれ?もしかしてヤバイ情報与えちゃった?
「中古だと値が下がるから我慢してたが、殺せばいくらでも再生するってんなら我慢する必要はねぇよなぁ?」
「いやぁー!」
男が獣のように私に飛び掛って床に押し倒した瞬間、焦げ臭い臭いと共に、大量の煙が家の中に入ってきた。
「あぁ?何だこの煙は?・・・まさか火事か?くそっ!何だってこんな時に!おい女ども!さっさと家から出ろ!」
男は大切な商品に傷が付いたり、死なれたりしたら不味いと思ったのか、すぐさま私の上から飛び退いて、慌てて女の子たちを家の外に避難させていた。
「火・・・?これって、まさか・・・?」