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第3話 冒険者ギルド

「復活おめでとー!」


男に殺されて30分後、シャルの能天気な声を聞き流しつつ透矢は立ち上がった。


透矢が死んでる間に他のプレイヤーがこの場に現れることはなく、無様な屍を晒さずに済んだのは不幸中の幸いだったと言えるだろう。


「ふぅ、やっと30分経ったか。身動き出来ないってのは思いの外しんどいな」


何故か口だけは動かすことが出来たので、シャルと会話することで身動き出来ない30分間を耐え切った。


そのお陰で、後回しにしていた様々な情報を聞くことが出来た。


「ねぇトーヤ。良い事教えてあげよっか?」


シャルは笑いを噛み殺すように唇を歪ませている。


「・・・なんだよ?」


悪い予感しかしないが、役立つ情報という可能性もなくはない・・・かもしれないと思い、透矢は続きを促した。


「実はねぇ。・・・ププッ。トーヤが記念すべき初のPK被害者だったりしまーす」


シャルはとうとう我慢し切れなくなり、宙に浮かびながらケラケラと笑い転げた。


「ちっ、やつには必ず借りを返す!」


透矢は未だに笑い転げているシャルを無視して、先ほど聞いた情報を頭の中で整理することにした。


まず、ついさっき自ら体験した通り、町中でもダメージが発生する為PKが可能だということ。


このゲームでは死亡=初期化なのでデスルーラは使えない。


なので、今回のように引き際を見誤るとHPが残り少ない状態で町を歩かなければいけなくなり、出会い頭にPKされてしまう可能性があること。


但し、町中でのPKは攻撃する方とされる方が共に屋外にいる場合に限るということ。


さらに、攻撃されたプレイヤーは屋内に避難することが出来るが、攻撃したプレイヤーは5分間屋内に入れなくなるということ。


要は攻撃する瞬間だけ屋外に出て、すぐに屋内に逃げ込むなんてチキン戦法は使えないってことだ。


そしてPKに関して最も重要なのは、相手の金とアイテムを根こそぎ奪えるという点だ。


黙っていても30分後にはデータが初期化されちまうんだから、当然の仕様だとも言える。


しかも、モンスターに殺された場合は全てのプレイヤーに奪う権利があるが、PKの場合は殺した本人にしか奪えない。


これはもうPKしてくれと言わんばかりの仕様だ。


まるで賞金を手に入れたければ、プレイヤーを殺しまくって全てを奪い取れと言われているようだ。


誰がこんなゲームを作ったのか知らないが、製作者は中々いい性格をしているらしい。


「・・・シャル。いつまで笑ってんだ?さっき言った通り、まずは冒険者ギルドに行くから案内してくれ」


「はー。笑った笑った!えーっと、ここから一番近い支部は歩いて10分くらいかしらね?こっちよ」


透矢が考え事をしている間もシャルは爆笑しっぱなしだったが、声を掛けられて漸く正気に戻ったようだ。


一応情報収集に充てていたとはいえ、折角上がったレベルが初期化された上に30分も足踏みしてしまったのだ。


プレイヤーが増えて東門付近の狩場が飽和する前にレベルを上げておきたいので、今すぐにでもフィールドに出てモブ狩りを再開したいところなのだが、金を稼ぐのも同じくらい重要だ。


初期所持金は50Gなのだが、最下級ポーションの値段はNPCショップで10G。


兎は1匹倒した時に得られる金は1G、コボルトは2G。


10匹ずつ倒しても、たったの30Gにしかならない計算だ。


またそれとは別に、稀にだがアイテムをドロップすることもある。


例えば、ホーンラビットが落とす肉は1個4G前後で売れるらしい。


しかし、コボルトがドロップする耐久値ギリギリの錆びたナイフは1本1Gにしかならない。


いっそのこと、使い捨て用の投擲武器として使用した方が良いくらいだ。


とゆー訳で、序盤に金を稼ぐのが如何に大変かお分かり頂けただろうか?


故に、冒険者ギルドの出番なのである。


冒険者ギルドはNPCが運営するギルドで、住民や領主からの依頼を一括管理してプレイヤーに紹介するのが仕事だ。


ここで兎やコボルトの討伐依頼を受けられれば、経験値稼ぎと金稼ぎの一石二鳥って寸法だ。




「はい到着ー!ここが冒険者ギルドよ」


シャルに案内されて辿り着いた先には巨大な建物が聳え立っていた。


「・・・貴族の館かなんかの間違いじゃねぇのか?」


ある程度の大きさはあるとしても、精々民家数件分くらいだろうと予想していたのだが、これは民家10件くらいに相当する敷地面積だ。


しかも民家の殆んどが2階建てなのに対して、このギルドは3階建ての為、文字通り頭一つ飛び抜けている。


「驚いてるとこに水を差すようだけど、ここは最大2万人のプレイヤーが滞在することを想定された町なのよ?これくらいの大きさがないと対応出来ないわよ。ついでに言うなら、ここはあくまでも東支部で、町の中央にあるやつはもっと大きいわよ?」


「あー、そーいやそーだったな。てことは、今後プレイヤーが増えてきたらクエストを受注するだけで、毎回順番待ちなんて事態も起こるかもしれないのか?」


透矢は何時間も待たされる様子を想像して辟易しつつシャルに問い掛けた。


「いいえ、それは大丈夫よ。詳しいことは中に入れば分かるから、早く行きましょ?」


「・・・他のプレイヤーはいないよーだな」


シャルに先導されてギルドの中に入ると、だだっ広いホールに掲示板か所狭しと設えてあった。


奥の方にカウンターが並んでいることから察するに、依頼書を剥がしてカウンターに持って行けば良いのだろうか?


「とりあえず、ホーンラビットとコボルトの討伐依頼がないか探してみるとしよう。シャル、お前も手伝ってくれ」




「・・・思いの外早く見付かったな」


探し始めて1分もしない内に両方の討伐依頼書を発見した。


見つけてくれと言わんばかりに100枚くらい同じ依頼書が整然と並んでいたのはちょっとした威圧感があった。


しかも掲示板から剥がすと数秒で復活していた。


これは恐らく受注上限数が設定されてない依頼ということだろう。


序盤の重要な金稼ぎポイントなのだから当然か。


報酬金額はホーンラビットが1匹2G、コボルトが3Gらしい。


これは少し予想外だった。


とは言っても金額のことではない。


透矢はてっきり『○匹倒したら○G』みたいに討伐数が指定されていて、それ以上は何匹倒しても無意味な設定になっていると思っていたのだ。


だがこの書き方だと、倒したら倒しただけ報酬が受け取れると考えて良さそうである。


透矢が意気揚々と依頼書を手にカウンターへ近付くと、近くにいた20歳くらいの女が話し掛けてきた。


「ようこそ冒険者ギルドへ。依頼の受注でしょうか?」


「はい。この2つなんですけど」


「かしこまりました。ギルドカードはお持ちですか?」


「いえ、持ってません」


「依頼を受注するには記録用のギルドカードが必要となります。作製費用として10G必要なのですが、お手持ちはございますか?」


「これでお願いします」


透矢はこういう場合を想定して金を使わずにいたので、問題なく10G硬貨を1枚カウンターに置いた。


「ありがとうございます。それではこちらが貴方のギルドカードになります。このカードを依頼書に重ねてみてください」


透矢が受付嬢の手渡してきたカードを言われた通りに依頼書に重ねると、依頼書がカードに吸い込まれて消えてしまった。


「はい。これで依頼情報がカードに記録されました」


「へぇ、これならプレイヤーが増えても受注待ちで並ばされる心配はないな。・・・ところで、報酬はどこで受け取れば良いんですか?」


「報酬のお支払いは2階になります。それと、いくつかの注意事項があります。まず、同時に受注出来る依頼は3つまでです。新たに受注したい場合は何れかを破棄しなければなりません。さらに、依頼の中には期限が設定されている物があります。受注の破棄はいつでも可能ですが、破棄した際の残りの期限によっては罰金が発生する場合がありますのでご注意下さい」


「なるほど。どうもありがとうございました」


受付嬢に別れを言ってギルドを出る。




「トーヤ。次はどこに行くの?」


透矢にとっては中々興味深い場所だったが、シャルは何故かご機嫌斜めになっていた。


「依頼も受けたし早速モブ狩り行くぞ!と言いたい所だけど、その前にポーションの調達と、武器屋&防具屋に行って目標額の確認をしないとな」


最優先は弓矢だが、出来れば防具も揃えたい。


「・・・それ全部目の前にあるけど?」


「え?・・・あっホントだ」


全く目に入っていなかった。


「・・・トーヤってば、どーせさっきの女のおっぱいでも思い出してたんでしょ?ガン見してたもんねぇ?」


どーやらシャルのご機嫌が斜めになったのはその辺りが原因らしく、ジト目で透矢を見つめてきた。


「・・・っ!」


「何でバレたんだ?って顔してるけど、女は男が思ってる以上に視線に敏感なのよ?」


シャルはジト目を止め、今度は呆れたような表情を浮かべた。


「・・・しょーがねぇだろ?あんなに胸元開かれてたら男なら誰だってガン見するさ!」


「はいはい、童貞乙」


「・・・お前、ホントは中の人いるんじゃねぇのか?」


「中の人なんていないわよ。私はあくまでも超高度なAIを搭載したNPCよ」


シャルは、自分が現代の科学技術を超越した存在なのだとさらっと言い放った。

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