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第22話 虐殺

透矢が女狩りのギルドホームに入ろうとドアを開けて足を踏み出したところ、ドンッ!という鈍い音と共に、透矢の体が弾かれた。


「キャッ!」


「・・・いってぇ」


透矢は現在『女狩り』に所属しているのでギルドホームのドアを開くことは問題なく出来たのだが、中に入ろうとしたら見えない壁に行く手を阻まれて頭を盛大にぶつけてしまったのだ。


「・・・ちょっと何してるのよ、トーヤ?神埼をPKしたばっかりなんだから、しばらく屋内には入れないわよ?」


透矢が見えない壁にぶつかった衝撃により頭の上に座っていたシャルはずり落ちてしまい、耳の後ろ辺りの髪の毛に掴まりながら文句を垂れて来た。


「そーいえば、プレイヤーを攻撃したら5分間は屋内に入れなくなるんだったな。すっかり忘れてたわ・・・」


戦闘によるダメージではないからか、現実と同レベルの痛みがぶつけた額に発生し、透矢は思わずしゃがみ込んで額を撫でていた。


「まったくもう!女の子の情報だけじゃなくて、ゲームのルールもちゃんと覚えておいてよね?」


透矢が『(アイアン)処女(メイデン)』の少女たちの為に単身で敵地に乗り込むような真似をしているので、シャルはそんな透矢に追い討ちを掛けるように、嫌味交じりに注意するのだった。


「別に覚えてなかった訳じゃないぞ?ただちょっとド忘れしてただけだ。しかし中に入れないとなると、どーしたもんか・・・」


「中にいる連中を外に誘き出せれば良いんでしょ?だったら、ここから大声で何か叫べば、みんな出て来るんじゃない?」


透矢の言い訳になっていない言い訳を聞き流し、シャルは代替案を出してきた。


「うーむ・・・何て言えば良いんだ?火事だぁー!・・・か?」


「それは昔トーヤが誘拐犯を誘き出す為に使った手じゃないの」


「おぉー!そーだった。そーだった。んじゃ今回もそれで行くか?」


「・・・いいえ、それは無理よ。この建物の強度はランクDだから、今の透矢が30分攻撃し続けても、半分も耐久度を削れないわ」


「ちっ、ダメか・・・あっ、そーだ!」


シャルに自分の提案を却下された透矢は、後ろを振り返り大通りの真ん中で倒れたままの神埼を見て、妙案を思い付いた。


「・・・大変だぁー!神埼が誰かにPKされちまったぞぉー!」


「「「「「なにぃー!?」」」」」


透矢は、偶然神埼の死体を発見してしまった風を装って、中にいる男たちに向かって大声で叫び声を上げると、奥で談笑していた男たちが一斉に振り返って全く同じ反応を返して来た。


「そりゃー神埼がPKされたってゆーのは『女狩り』の連中にとっては一大事なんでしょうけど、ここまで息ピッタリな反応をされると、なんか気持ち悪いわね・・・」


シャルは、この時に備えて練習でもしていたかのように一糸乱れぬ反応を見せた『女狩り』の連中にドン引きしていた。


「あの神崎くんが()られるとはな・・・」


「戦争は3日後だぞ?どーすんだよ?」


「ハッ!日頃あんだけ調子に乗っといて、戦争直前にあっさりどっかの誰かに()られたってのかよ?ざまぁねーな?」


「あぁーん?てめぇ、新入りだな?神埼さんの戦闘を見たことねーから、そんなこと言えんだよ!あの人はマジでつえーんだぞ?」


「そんなことよりも、当の神埼は今どこにいるんだ?」


中にいた30名ほどの男たちが透矢の目の前に集まって来て、次々と神埼がPKされたことに対する感想を述べたり、透矢に質問を重ねたりした。


「・・・神埼が()られただと?いったい、どこのどいつに()られたんだ?」


そして最後に、30代の小太りの男がズボンを履きながらドタドタと階段を降りて来た。


「俺が説明するよりも本人に説明して貰った方が早いんで案内しますわ。こっちっす!みんな付いて来て下さい!」


透矢はなんちゃってDQN言葉で男たちを誘導し、ギルドホームにいた30余名を外へ誘い出すことに成功したのだった。




「神埼!お前、どこのどいつに()られたんだ?」


透矢が男たちを神埼の死体の元へ案内すると、一番最後に現れた30代の男が真っ先に神埼に詰め寄った。


「・・・・・・っ!」


「・・・ん?口に中に何か入ってんのか?・・・って何だこりゃ?女のパンツ?神埼、お前・・・」


男は、神埼が女の下着をしゃぶってた時に襲われて死んだのでは?などという壮大な勘違いして、神埼を白い目で見下ろしていた。


「・・・このクソ馬鹿どもがっ!雁首揃えて出て来やがって!」


男に口の中の詰め物を取り出されたことで、漸くまともに声が出せるようになった神埼は、礼よりも先に男たちに向かって罵声を浴びせた。


「・・・おい、俺たちはお前が()られたって聞いたから、こうして駆け付けたんだぞ?いくらなんでも、その態度はねぇんじゃねーか?」


PKされても普段通り尊大な神埼の態度に、男は若干気を悪くした様子で睨み付けた。


「てめぇらをここに呼んだやつが、俺を()ったやつだって言ってんだよ!てめぇらじゃ束になっても勝てやしねぇ!さっさと逃げやがれ!」


「おいおい、餌の喰い逃げは勘弁してくれよ?・・・まずは1人!」


「がはっ!」


神埼の台詞が終わる前から、既に透矢は動き始めていた。


透矢は、目の前にどうぞ切って下さいと言わんばかりに並べられた男たちの首の1つに向かって、腰に下げた刀を抜き放ち『居合い』を発動させて首を刎ね飛ばした。


神埼のHPはレベル15だけあって一撃では刈り取れなかったが、この男は大したレベルじゃなかったらしく、あっさりと首が宙を舞い飛んだ。


「2人!」


「ぐあぁー!」


「3人!」


「ごふっ!」


透矢は『居合い』の技後硬直が解けた瞬間、刃を返してそのまま袈裟斬りで2人目を斬り殺し、続く3人目は咽喉に突きを繰り出して殺害した。


「何してんだ、てめぇー!」


いち早く透矢の攻撃に反応して反撃に打って出た20代前半の大柄の男は、鉄製の大金槌を振り被って透矢の頭目掛けて振り下ろしてきた。


「うおぉー!」


透矢は、敵の一撃が間近に迫っていることに当然気付いてはいたが避ける素振りを一切見せず、まともに喰らえば大ダメージは必至と思われる一撃に対して、ただ声を張り上げながら左手を頭上に掲げただけだった。


「ば、馬鹿な・・・俺の一撃を腕一本で受け止めただと?」


大金槌を左手一本で受け止めて見せられた男は狼狽し、透矢はその隙を突いて右手に持った刀を振り上げて、そのまま右袈裟に振り下ろした。


「ぐはっ!」


男は左肩から右腰までを深々と切り裂かれて絶命した。


「・・・ちっ、流石に1人ずつ斬っていくのは面倒だな」


透矢はそう言うと徐に煙球を左手の中に出現させ、それを地面に力一杯叩き付けることで大量の煙を生み出し、周囲の視界をゼロにした。


透矢は既に争いの気配を察知して神埼の死体の周囲から無関係なプレイヤーやNPCがいなくなっているいことに気付いていたので、2、3回バックステップを繰り返して煙の範囲から抜け出し、容赦なく『乱れ射ち』を開始した。


「ギャー!」


「ぐふっ!」


「・・・くそっ!何も見えねぇ!何だこの煙は?」


男たちは突如発生した煙に動揺してしゃがみ込んだり、口を手で押さえながらもう片方の手で煙を払おうとしたりしていたが、一向に状況は改善されず、さらに彼方此方から飛んで来る矢によってHPを削られ続けた。


当然、煙の影響で透矢自身にも(マト)の正確な位置は見えていない。


しかし透矢は、外れ続けても気にせず大量の矢を絶え間無く射続けることで中の男たちの不用意な行動を牽制し、じわじわと削り殺して行った。


時々意を決して煙の範囲から走って脱出を試みた男もいたが、そいつには狙い済ました一撃を頭や首などにお見舞いして()った。


透矢の攻撃は煙が完全に晴れるまで続けられた。


そして漸く煙が晴れた時、その場に辛うじて生き残っていたのは、右肩に矢が刺さった30代の男ただ1人だった。


「・・・へぇ?まだ生き残ってるやつがいたのか?アンタ、運が良いな?」


「くそ・・・何なんだ、てめぇは?」


男はPKされて地面に転がっている部下を見下ろし、視線を上げてニヤついている透矢を睨み付けた。


「俺か?俺は『女狩り』の新入りだが?」


「なん・・・だと?そりゃいったいどーゆーことだ?」


透矢が左手を掲げてエンブレムを男に見せると、男は動揺を露わにした。


「そこで馬鹿面提げてくたばってる神埼に勧誘されたんだよ」


「神埼・・・まさかてめぇ、こいつに嵌められやがったのか?てめぇが死んでんのは、その所為か?」


透矢が親切に勧誘主を教えてやると、男は神埼を見下ろして今回の原因を追究した。


「・・・ちっ、こいつは現実で顔見知りだったんだよ。普通、そんなやつがいきなり裏切るとは思わねーだろーが?」


神埼は不貞腐れたような声で言い訳をし始めた。


「だとしても、今回のこれはてめぇの落ち度だ。この責任は取って貰うぞ?」


「ハッ!そんなこと言ってる場合かよ?」


「・・・神埼の言う通りだ。俺がいることを忘れてんじゃねーよ?」


神埼の指摘に追従し、透矢は男を殺して仕舞わないように浅く斬った。


「ぐわぁー!・・・お、俺は『女狩り』のギルマスだぞ?こんなことをしてただで済むと思ってんのか?」


男は斬られた左腕を右手で押さえようとしたが、右肩が矢で射ち抜かれている為に腕が動かなかった。


「あー、やっぱそーだったんだ?なーんか神埼に対して、微妙に偉そうな態度だとは思ってたんだよなぁ・・・」


「・・・てめぇは何が目的で俺たちを攻撃しやがったんだ?3日後には戦争があるんだぞ?味方の戦力減らしてどーすんだ?」


透矢の軽い反応に怪訝な顔をし、男は動機を追及してきた。


「だからこそさ。俺は『(アイアン)処女(メイデン)』の助っ人だ。お前らを攻撃するのに、これ以上の理由が必要か?」


「・・・何で『(アイアン)処女(メイデン)』の助っ人とやらが、ウチに入ってんだよ?」


透矢が敵の助っ人だと知り、男は混乱した。


「だからさっき言っただろ?神埼が俺を誘ったんだよ。だから俺は、これ幸いと神埼をぶっ殺して、ついでにホームにいたお前らも今の内に殺しておこうと思ったのさ」


透矢は邪悪な笑みを浮かべ、騙された神埼と男たちを嘲笑った。


「・・・敵ギルドを攻撃したやつは助っ人になれない筈だろーが?」


「今の俺は『女狩り』のメンバーだ。そして神埼も、そこらで死んでるやつらも全員『女狩り』だ。つまり、これはただの内乱って訳さ。俺がお前らを何人殺そうが何の問題もない。ちなみにこれ、サポートピクシーのお墨付きな?」


「くそっ!そんな方法があったのかよ!」


透矢にルールの抜け道を指摘され、男は地団太を踏んで悔しがった。


「一度だけ言うぜ?アイテムと金を全部寄越せ」


「・・・嫌だと言ったら?」


透矢が差し出した左手を見下ろしながら男は呟いた。


「自主的に渡すのが嫌なら、殺して奪うしかないな。ついでに言うと、アイテムリストから服だけチェックを外すのとかメンドイから一括回収して、そのまま全裸で放置するぜ?なんなら男同士で絡ませてから目立つ場所に放置してやろうか?」


「・・・くそっ!」


透矢の脅しに屈した男は、衣類以外のアイテムと金を全て透矢に渡した。


「お前、ギルマスのくせにショボイもんしか持ってねーな・・・」


「うるせぇな!用は済んだだろーが?さっさと消えろ!」


所持品を見た透矢にダメ出しされた男は、顔を引き攣らせながら透矢にこの場から立ち去るように言った。


「おい、金を全部寄越せと言っただろうが?まだお前個人の金しか貰ってねぇぞ?ギルマスなら、当然ギルドの共同資金を管理する権限を持ってる筈だ。その金も含めて全部寄越せって言ったんだよ!」


「・・・ふ、ふざけんな!そんなことしたら、俺はギルマスから降ろされちまうだろーが!?」


透矢の余りにも無茶な要求に、男は激昂した。


「お前の立場なんか知ったことか。いいからさっさと出せ!それとも『冒険者ギルド』の目の前とかで全裸でそいつらと組体操でもしたいのか?今の時間なら、軽く100人以上のプレイヤーにお前らの勇姿を見て貰えるかもしれないぜ?」


「・・・ぐっ、わかった。金は渡す。だから、それだけは勘弁してくれ」


男はその阿鼻叫喚な光景を想像して、心が折れてしまった。


「俺の気が変わらない内にさっさと渡せ」


「・・・ほらよっ!」


「・・・500万G?すげぇ額じゃねーか?どーやって、こんなに貯めやがったんだ?」


透矢は男に渡された額に驚き、是非とも金稼ぎの方法を聞き出そうと男に詰め寄って胸倉を掴んだ。


「ぐっ・・・NPCの女を攫って『奴隷商会ギルド』に売ったり『女狩り』に入ったやつから加入料を取ったりしたんだよ」


男は透矢に胸倉を掴まれて苦しかったのか、あっさりと白状した。


「NPCの女を攫ったのか?治安部隊は動かなかったのか?」


透矢は『女狩り』が女プレイヤーだけを襲うのは、女NPCを襲うと治安部隊が何処からともなく現れて、そいつらを皆殺しにしてしまうからだったと記憶していた。


「どーやら、やつらは『奴隷商会ギルド』には手出し出来ないらしい。ギルドの中にまで運んじまえば、それ以上は追って来なかったからな。まぁ、それまでに何人も部下が()られちまうが・・・」


「そこまでして稼いできた金を俺に全部奪われたとあっちゃー、確かにギルマスの座は追われるだろーな?」


「・・・ちっ、これでもう気は済んだだろーが?さっさと消えろ!」


男は一瞬透矢の嫌みに顔を顰めたが、そんなことをしてる暇があったら透矢をこの場から追い払う方が先決だと思い直した。


「いや、まだ最後の仕事が残ってる」


「・・・今度は何だ?」


「俺を『女狩り』から脱退させろ。もう用事は済んだし、これ以上こんなだせぇエンブレム付けてられっか!今すぐ消せ!」


「・・・これで良いのか?」


「あぁ、それでいい」


透矢はギルマス権限により『女狩り』を強制脱退させられ、左手の甲からギルドマークが消滅するのを確認した。


「ご苦労さん!」


透矢は男の肩をポンと叩きながら歩き出し、一方男は肩を叩かれた瞬間ビクッ!としたが、特に何も起こらなかったので、助かったのだと安堵し地面にへたり込んだ。




「神埼とその他30人ほど()ったは良いが『女狩り』の総数は未だに1000人も残ってるんだよなぁ。どーにか数を減らさねーと・・・」


「そーは言っても、どーやって減らすの?もう『女狩り』じゃないから、あいつらに攻撃したら『(アイアン)処女(メイデン)』の助っ人になれなくなっちゃうよ?」


透矢は如何に敵戦力を減らすかを考えながら当てもなく町を彷徨い、シャルはそんな透矢の頭の上に座って髪の毛を弄くりながら忠告した。


「・・・・・・・・・そーだ!この手があった!シャル、次はもっと別の角度から攻めるぞ?」


ついに妙案を思い付いた透矢は方向転換し、ある場所に向かって歩き始めた。

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