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第21話 透矢の思惑

『本当にこれで良かったの、トーヤ?』


透矢の頭の上に座っているシャルは透矢に念話で語り掛けた。


『さっきも言っただろう?神埼は俺が弓道部だったことを知ってる筈だ。てことは、噂の弓使いってのが俺のことだと十中八九バレてると見て間違いない。あのまま敵対してたら遠距離攻撃は最優先で警戒されちまうから、そう簡単には仕留められない。ただでさえ戦力差があるのに、こいつにだけ時間を割く訳にはいかないだろ?だから、出来れば抗争が始まる前にこいつを仕留めておきたい』


『調停ギルド』から出て来た透矢と神埼は、肩を並べて『女狩り』のギルドホームに向かって歩いていた。


そして透矢は、神埼が話を振る度に適当に相槌を打ちながら、バレないようにシャルと念話で会話をしているのだった。


『でも、あの子たちは本当にトーヤが裏切ったと思ってる筈だよ?メッセージを送って、演技だって伝えておいた方が良いんじゃない?』


『今はまだダメだ。俺が寝返ったフリをしたのには、神埼を仕留める為の他にもう1つの理由がある』


『・・・もう1つの理由って?』


頭の上にいるので見ることは出来ないが、透矢にはシャルが首を傾げている様子が容易に想像出来た。


『ギルメンの人数差を聞いた後の清香とアリスの顔からは、ほぼ完全に戦意が失われていた。そして一度折れた心を奮い立たせるには、誰かに対して憎しみを抱かせるのが一番手っ取り早い』


『・・・いや、むしろトーヤが裏切ったことで、さらに追い討ちになっちゃったんじゃない?』


『まぁ、もしあれでも戦意が戻らなかった時は、所詮それまでのやつらだったと割り切って、その時は奴隷として飼うつもりだったが、2人のあの憎しみに満ちた目を見ただろう?きっと俺を殺す為に死に物狂いでレベルを上げて来る筈だ』


透矢は2人が自分を親の敵のように睨む姿を思い出しながら、僅かに唇の端を上げた。


『ならせめて、舞たちにだけでもメッセージを送っておきなさいよ?話を聞いただけじゃ詳しい状況は分からないんだから、それこそ本気で裏切ったと思われちゃうわよ?』


『・・・そうしたいのは山々だが、今は神埼が傍にいるから無理だ。こいつの油断を誘う為にも、怪しまれる行動は極力取りたくない』


「・・・おい、御堂!聞いてんのかよ?」


「・・・ん?あぁすまん、考え事をしてた。何て言ったんだ?」


「ちっ、お前に裏切られた時の女どもの顔は傑作だったな?って言ったんだよ!」


どーやらシャルとの会話に意識を集中しすぎてしまい、透矢は神埼の声を聞き逃していたらしい。


そして声から察するに、神埼は透矢に無視されたことで、若干苛立っているようだった。


「そーゆーことか・・・。アリス、金髪の女の方は今頃泣いてるかも知れんな?」


透矢は神埼の機嫌を直させる為に、相槌だけじゃなく会話のキャッチボールを続けてやることにした。


「ハハハッ!どーせならもうちょっとあの場に残って、女どもの泣き顔を見物しても良かったかもな?」


神埼は透矢に裏切られた瞬間の清香とアリスの顔を思い出しながら爆笑し、透矢はそんな神埼を半眼で見つめた。


「趣味の悪いやつだ・・・」


「ハッ!裏切った張本人が何言ってやがる?」


透矢が冷めた顔で呟くと、神埼は愉快そうに透矢の方が極悪人だろうと指摘した。


「それもそーだな」


どーやら神埼の機嫌はもう直ったようなのでこれ以上おべっかを使う必要はなさそうだと判断し、透矢は再び相槌を打って会話を終わらせた。


「・・・ところで、お前って確か弓道部だったよな?てことは、やっぱ武器は弓使ってんのか?」


「・・・あぁ、これだ」


やはり透矢の予想通り、神埼は透矢が弓を使えることを知っていた。


そこで透矢は、自分が弓を使うということを神埼にさらに印象付ける為に、軽いデモンストレーションを行うことにした。


左手を真っ直ぐ伸ばして弓を出現させ、右手に持った矢を番えて引き絞り、20mほど先にある街路樹の細い枝に向かって矢を放って見せた。


矢は枝に向かって真っ直ぐ飛んで行き、貫通こそしなかったものの、数cmほど刺さった後に落下した。


「ハッ!流石は1年でインターハイの決勝にまで残っただけのことはあるな?」


神埼は口笛を吹いて透矢の腕前を絶賛した。


「MOBは常に動いてるんだから、動かない的に何発当てられようが大した意味はないさ。それよりも、お前こそ武器は何を使ってるんだ?」


透矢は、神埼に関する情報を少しでも得ようと話を振った。


「俺か?俺はこれだ!」


神埼はそう言って右手に鞭、左手に肉厚で大振りなナイフを出現させた。


「鞭とナイフの二刀流?ど-ゆー組み合わせだ?」


透矢は神埼の戦法がまるで想像出来なかった。


「中距離なら鞭で打って、近距離なら鞭で捕縛してナイフで滅多刺しってこった」


「鞭で捕縛って、お前そんな器用なことが出来るのか?」


「自力じゃ無理に決まってんだろ?この武器のスキルだよ・・・おらぁ!」


透矢の疑問に答えるように、神埼は偶々近くを歩いていた男プレイヤーに向かって鞭を振るった。


「・・・ん?う、うわぁー!何だこれは?」


「死ね!」


突然鞭に腕を取られた男は取り乱し、神埼はその隙に近付いて男の首をナイフで掻き切った。


「がはっ!」


どーやら運悪く男のHPは残り少なかったらしく、ナイフの一閃で死んでしまった。


「お前・・・普段からそんな通り魔みたいなことしてるのか?」


透矢は地面に倒れた男を見下ろした後、再び神埼に視線を戻した。


「今のはただのデモンストレーションだよ。お前だってさっき見せてくれたろ?」


「・・・俺はのプレイヤーじゃなくて、木の枝だった筈だが?」


欠片も悪びれる様子のない神埼に、透矢は呆れ果てていた。


「動かねぇ的を捕らえて刺しても意味ねぇだろ?」


神埼はさっきの透矢の言葉をなぞる様に言い返して来た。


「あっそ・・・アンタも災難だったな?原因の一端は俺にもあるっぽいから、一応謝っておくよ」


「・・・てめぇら『女狩り』だな?ちょっと人数が多いからって調子に乗りやがって、この借りは必ず返すぞ?」


左手に蜘蛛のマークを刻んだ男は仰向けで地面に倒れながら、唯一自由に動かせる目で透矢と神埼を睨み付けた。


「ハッ!上等だ!いつでも掛かって来いよ?カスは何人集まろうがカスだってことを教えてやる!」


神埼はそう言って男の左手を踏み付け、さらに身包み剥いで全裸にし、服や下着などの要らないアイテムをそこらに撒き散らした。


「・・・糞ガキが!」


男は憎々しげに神埼を睨んだが、当の神埼には何処吹く風だった。


「おい、カスは放っておけ。行くぞ、御堂?」


流石の透矢も若干男のことを不憫に思ったが、かと言って手を貸す訳にもいかず、再び神埼の横を無言で歩き出した。




「着いたぜ。ここが『女狩り』のギルドホームだ。別に大して広くもねぇが、部屋に戻るついでに軽く案内してやるよ」


「・・・出来れば、マスターに一言くらい挨拶しておきたいんだが?」


「ハッ!必要ねーよ。ギルマス張ってるくせに、たったレベル8だぞ?あれはただの木偶の坊だ」


神埼が玄関のドアを開ける為に透矢に背中を見せた瞬間、透矢はいつの間にか左腰に出現させていた刀を神埼の首筋目掛けて抜き放った。


「・・・っ?リョウ!避けて!」


それに気付いたフィーは神埼に向かって警告した。


「あ?」


「おせぇ!」


神埼はフィーの声に反応して素早く後ろを振り返ったが、既に日本刀スキルの『居合い』を発動させていた透矢は、漸く見せた神埼の一瞬の隙を突いて、その首を一閃した。


「ぐはぁ!・・・・・・くっ!」


しかし、流石に自分と同じレベル15の神埼を一撃で倒すことは出来ず、神埼はHPを3割ほどを残したまま反射的に透矢から遠ざかるべく横方向へ飛ぶようにステップして避難した。


「・・・それは悪手だぜ、神埼?俺の獲物を忘れたのか?」


透矢は一瞬で日本刀から弓へ武器を持ち替え、神埼の頭、首、心臓の3ヶ所目掛けて同時に矢を放った。


「・・・舐めんじゃねぇぞ?御堂ぉー!」


神埼は叫びながら両手に武器を出現させ、心臓を狙う矢は先ほど見た威力から鉄製の胸当てで十分弾けると一瞬で判断し、頭狙う矢を鞭で叩き落し、ナイフで首を狙う矢を叩き落した。


しかし、そんな神埼の予想は裏切られた。


2本の矢を打ち落としたと同時に、最後の1本が自分の左胸に深々と突き刺さったのだ。


「・・・バカな?たかが矢が鉄の胸当てを貫いたってのか?」


矢が刺さった衝撃で後ろに倒れ込んだ神埼は、このゲームに来て初めてデスペナを体験し、その原因となった矢を憎々しげに見下ろした。


「さっき撃った矢も、お前が今叩き落した矢も、どちらも安物の木の矢だが、その胸に刺さった矢だけは貫通性を向上させたプレイヤーメイドの特別製だ。お前ほどのやつなら頭と首の2本を叩き落せば大丈夫だと一瞬で判断する筈だと予想して、胸にだけ特別製を撃ったのさ」


「・・・何故裏切った?1000対600だぞ?勝てるとでも思ってんのか?」


「さぁな?だが、お前の下に付いて奴隷になったあいつらを抱くよりも『犯罪者プレイヤー』になったあいつらを守る方がマシだと思っただけだ」


「ハッ!随分とあの女どもがお気に入りのようだな?だったら俺のデスペナが解け次第、てめぇを『女狩り』から脱退させてやる。そして3日後の抗争に『(アイアン)処女(メイデン)』の助っ人として出て来い!てめぇをぶち殺して、目の前で俺に犯されて泣き叫ぶ女どもの姿をたっぷり見物させてやる!」


「・・・3日でレベル15まで戻すつもり気か?諦めろ。お前はここでリタイヤだ」


「黙れっ!必ずだ!必ず貴様をこの手で殺す!」


「あっそ。まぁ精々無駄な努力をするんだな?」


透矢は神埼を見下ろしながら嘲笑った。


「・・・ちょっと、トーヤ?こいつのアイテムとお金、奪わなくて良いの?」


そんな透矢に、神埼のピクシーであるフィーと空中で取っ組み合いをしていたシャルが声を掛けて来た。


「あー、そーだった。忘れてたわ。サンキュー、シャル!」


「ふふっ!これくらい当然よ?自分の主を目の前でPKされたどっかの間抜けとは出来が違うからね?」


「くっ・・・後ろから不意打ちしたやつが偉そうに・・・」


「トーヤから目を離したアンタがいけないのよ」


「ぐぬぬ・・・」


透矢は喧嘩するシャルとフィーを放置し、神埼のステータス画面から服以外のアイテムと、開戦費用の90万Gを含む神埼の所持金全てを奪い取った。


「・・・戦争直前にPKされるわ、開戦費用も奪われるわで、お前の『女狩り』での地位も、これで地に落ちたんじゃないのか?」


「黙れ!『女狩り』なんぞもう知ったことか!・・・あ?何してんだ、てめぇ?」


神埼は、透矢がこの場から逃亡せず、ホームの中に入ろうとしていることに疑問を持った。


「何ってそりゃー、ギルマスが脱退させるまでは俺は『女狩り』所属のままだから、今なら()り放題じゃん?ってことで、ホームにいるやつらを外に誘き出して、1人でも多く狩っておこうかと」


「・・・っ!御堂ぉー!てめぇー!」


「・・・さっきからギャーギャーうるせぇやつだな?お前ちょっと黙ってろよ?」


透矢は神埼の口に何かを詰め込もうとアイテムの一覧を表示させた。


「んー・・・これで良いか?」


透矢は未使用の女性用ショーツを取り出して、神埼の口に詰め込んだ。


「・・・っ!」


神埼は何やら激昂している様子だったが、透矢は気にせず2枚目を押し込んだ。


「・・・こんな近くに死体があったんじゃ、中にいる連中全員を外に誘き出せないな。もう少し遠くに置いておくか?」


透矢は神埼の体を担ぎ上げ、全力で大通りに向かって放り投げた。


「・・・・・・っ!」


「・・・?リョーウ!」


途中、神埼が何かを言っていたようだったが、ショーツを詰め込んでいた為、聞き取ることは出来なかった。


フィーも神埼を心配して飛んで行ってしまったので、これで中のやつらを誘き出す前に自分が犯人だとバレる心配も無くなった。


「んじゃいっちょ派手に()りますかぁ?」


透矢は『女狩り』のギルドホームの中にいる連中を皆殺しにするべく、ドアに手を掛けた。

今回、神埼は透矢に騙されてあっさり殺られてしまいましたが、3日後に再び透矢の前に立ちはだかる予定です。

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